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雨宮寛二「新・IT革命」

アマゾン、「大きな懸念」浮上…断続的赤字でも意識する必要ない創造的破壊経営

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サイト「アマゾン」より

 先頃、米アマゾンの7~9月期の決算が発表された。売上高は前年同期比29%増の327億1,400万ドルで、純利益は前年同期から3.2倍の2億5,200万ドルに達した。最終黒字の確保が6四半期連続となり、個人向け事業の好調さをアマゾンが生かし始めたように映るが、費用面での大きな懸念が浮き彫りとなった。

 売上を牽引したのは個人向け事業で、主力のインターネット通販事業が好調を維持した。特に同社最大の市場である北米市場の売上高は、前年同期比25.8%増の188億7,000万ドルであった。

『アップル、アマゾン、グーグルのイノベーション戦略』(雨宮寛二/エヌティティ出版)
 他方、クラウドサービス「AWS」事業の売上高は55%増の32億3,000万ドルで、好調を維持している。とりわけ営業利益率は32%に達し、過去最高を記録した。この利益率の高い成長著しいAWS事業は、今期の増収増益に一定の貢献を果たしたといえるが、事業としてはまだ小規模である。というのも、個人向け事業の売上高290億ドルに比べると、AWS事業の売上高は1割強に過ぎないからだ。

 こうした右肩上がりの売上に対して、今期の決算では費用が急増した。諸経費は前年同期比31.5%増の109億4,000万ドルに達した。特に配送費用が前年同期比で43%増加したのが大きく、営業費用を市場別に見ても、北米部門で26%、海外部門で24%と前年同期比でそれぞれ増加した。

 費用急増の要因は、フルフィルメントセンター開設などによる倉庫・配送基盤の拡充投資の増大をはじめとして、AWS事業への追加投資、プライム・プログラムの海外市場への拡大やプライム・ビデオの独自コンテンツ制作にかかわる費用、さらには、パーソナルホームアシスタント「エコー(Echo)」改良のための追加投資などである。

 こうした一連の費用急増について、オルサフスキCFO(最高財務責任者)は会見で、「投資は断続的なものとなるだろう。下半期(の投資)は上半期よりも大幅に増えている」と述べている。投資への飽くなき意欲は、創業以来断続的に赤字経営を続けてきたアマゾンにとっては、DNAの一部なのかもしれない。

損益分岐点を意識する必要性がない?


 世界経済の長期的停滞は、創造的破壊がみられなくなったからだとの悲観的な見方もある。スウェーデンの経済学者であるフレドリック・エリクソンなどは『イノベーション・イリュージョン』(革新の幻想)でこの見方を示した。また、ロバート・ゴードン米ノースウェスタン大教授は、現代のIT革命の影響は極めて小さく、19世紀後半の第2次産業革命で発明された電気や自動車、飛行機などに比べて小粒だと論じている。

 だが、現在のIT革命のスピードは急速な勢いで増している。なかでもアマゾンはこのIT革命を牽引する企業のひとつに数えられる。アマゾンの赤字経営は投資家の信頼を失うものであるかもしれないが、革新の実現を目指す投資こそ創造的破壊への第一歩であろう。革新へのチャレンジを続ける限り、損益分岐点を意識する必要性をアマゾンは感じないに違いない。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)