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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

専門知識の終焉…プロ囲碁棋士に勝った人工知能(AI)、開発チームに囲碁プロ級おらず

文=湯之上隆/微細加工研究所所長

「碁でも機械が人間に勝つようになった」
「人間と機械(AI)との競争になる」

“これらはいずれも誤解を与える表現だと思う”と書かれていたからだ。私は、まさにそのような誤解をしていたひとりであったわけだ。

 前置きが長くなったが、以下で、上記のどこが誤解なのか、また誤解だとすれば正しい解釈はどうなるのか、矢野氏の驚くべき解釈を紹介したい。 その上で、日本がAIビジネスで86兆円を超える新市場を生み出すためには、IoTと同様にAIにおいてもその本質の理解が欠かせないことを警告したい。

深層学習機能を備えたAIの進化

 まず、チェスや将棋ではAIが人間に勝つことが当たり前になってきたにもかかわらず、なぜ囲碁では「向こう10年は人間に勝つのは無理だろう」といわれていたのか。それは、次の一手を打つ時の探索空間の次元が異なるからである。チェスで必要な探索量は10の120乗、取ったコマを再利用できる将棋は10の 220乗、囲碁は10の360乗に達するといわれている。囲碁はその探索空間が桁違いに広いため、最適解を見つけられるようになるにはコンピュータの性能が足りないと思われていた。だから、「向こう10年は無理」だったわけだ。

 ところがその予測を覆して、グーグルが開発したAI「アルファ碁」が世界トップの囲碁棋士に勝利した。そのAIには、「深層学習」(ディープラーニング)と呼ばれる技術が活用されており、「とうとうコンピュータが人間を破った」と大きく報道された。

 深層学習とは、人間が経験を積んで学習するのと同様に、コンピュータ上のAIが入力データを経験としてそのルールを学習し、AI自身で以降の判断ができるような機能のことである。つまり、深層学習機能を備えたAIの進化がその勝利の要因だったわけだが、そのどこが誤解を招く表現なのか。

「人間と人間の戦い」と見るべき


 矢野氏は論文の中で、「アルファ碁と囲碁棋士との戦い」を、「機械(AI)と人間が戦った」のではなく、「人間が人間と戦った」という見方をしたいと述べている。その斬新な見方に驚いた。

 矢野氏によれば、「一方の人間(囲碁棋士:著者注)は、自分の経験と学習によって力を高める従来のアプローチをとった人である。すなわち、自らの身体や知力で戦う道を選んだ人」であり、「他方の人間は、過去のあらゆる棋譜のデータからコンピュータを使ってシステマティックに学び、さらに、そのコンピュータ同士を何千万局も戦わせて、その棋譜からも体系的に学ぶ方法を選んだ人である」と見たのだ。

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