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水野誠「マーケティングの進化学」

「隠れトランプ支持」説へ反論…有力メディアが予測を外した知られざる理由

文=水野誠/明治大学商学部教授

 今回の選挙でトランプ氏が得た票の数は、ここ数回の大統領選で共和党の候補が得た票数に比べてさほど増えたわけではありません。他方、クリントン氏は前々回と前回に民主党候補であったオバマ現米大統領が得た票を減らしています。ここから、クリントン氏にはオバマ氏ほどの人気がなかったとも、オバマの人気が高すぎたとも解釈できます。後者の解釈を採用するなら、今回の選挙結果から、何か特別な変化が起きたように語るのはいき過ぎになります。

 ただし、州別に数字を見ると別の側面が見えてきます。マーケティングの研究者であるウィリアム・ランド氏の分析では、激戦州(スイング・ステート)でクリントン氏が過去に民主党候補が得た票を減らしただけでなく、トランプ氏が以前の共和党候補以上に票を積み増したことが指摘されています。全米レベルでトランプが得た票は前回の共和党候補とさほど変わらないので、その分どこかの州で共和党の票を減らしたことになりますが、それは選挙結果に影響しませんでした。つまり、結果としてトランプ陣営は「選択と集中」に成功したことになります。
 

米国の世論はなぜ2つに分かれ、勢力が拮抗するのか

 米国の投票者の意識は、このところ全体としてほぼ均等に二分されていることがわかりました。したがって、トランプ氏に投票した人々と同様、クリントン氏に投票した人々が米国の一大勢力として存在していることになります。確かにワシントンの権力はトランプ氏側に移行し、トランプ氏と思想が近い人々の勢いは増していくでしょう。しかし、トランプ氏に反対する勢力が負けない規模で存在していることも無視できません。

 意見が半々に分かれているような状況では、世論調査はきわめて不安定になります。統計学の初歩で学ぶように、母集団比率が50%のとき標本誤差は最大になります。しかも大統領選挙や小選挙区の選挙では、得票率がある点(候補者が2人なら50%)を超えるかどうかで勝敗が決まるので、それを確実に予測することは簡単ではありません。本記事の冒頭で列挙した、予測を失敗させる諸要因の多くが除去されたとしても、予測が失敗する可能性はなお高いといえます。

 前出のネイト・シルバー氏は、今回の大統領選で投票者の100人のうち1人が投票先をトランプ氏からクリントン氏に変えたらどうなるかについて試算しています。その結果、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、フロリダといった激戦州で勝者が入れ替わり、クリントンが307人の選挙人を獲得して大統領選挙に勝利することがわかりました。つまり、それだけ選挙結果は不安定で、予測が難しいといえるのです。

水野誠/明治大学商学部教授

水野誠/明治大学商学部教授

明治大学商学部教授
、博士(経済学)東京大学。1980年筑波大学第一学群社会学類卒業。1985年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了。2000年東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻博士課程単位取得満期退学。株式会社博報堂(マーケティング局・研究開発局、1980~2003年)における勤務、筑波大学社会工学系専任講師、同大学大学院システム情報工学研究科専任講師、准教授(2003~2008年)、明治大学商学部准教授(2008~2014年)を経て現職

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