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大江英樹「おとなのマネー学・ライフ学」

TPP崩壊と、自由貿易の謎と、マイケル・ジョーダンが芝刈りをしないほうがよい理由

文=大江英樹/オフィス・リベルタス代表

マイケル・ジョーダンは芝刈りをしないほうがいい

 ここで面白い考え方が出てきます。18世紀後半~19世紀前半に活躍した英国の経済学者デビッド・リカードという人が唱えた「比較優位説」という考え方です。この考え方を説明するために面白い話があります。バスケットボールのスーパースター、マイケル・ジョーダンとハウスキーパーの話です。

・マイケル・ジョーダンは、2時間で芝を刈り取ることができる。
・ハウスキーパーに頼めば、4時間で芝を刈り取ることができる。
・ハウスキーパーは芝刈り4時間で50ドルの給料をもらえるが、マイケル・ジョーダンはその倍のスピードでできるので、同じく4時間働けば2倍の100ドルの給料がもらえる。
・ところがマイケル・ジョーダンは、同じ4時間でテレビCMの撮影をすれば10万ドルのギャラがもらえる。

 この場合、当然ハウスキーパーはテレビCMなど出られませんから、どちらの仕事においてもマイケル・ジョーダンのほうがずっと稼げるということになります。これを経済学では「絶対優位の状態」と言います。

 マイケル・ジョーダンは同じ時間をCMの撮影に使えば10万ドルのギャラをもらえるのですから、芝刈りで100ドルの給料をもらうよりよほどいいでしょう。だとすればハウスキーパーを雇って50ドルの給料を払い、その時間をテレビCMの撮影に使ったほうがマイケル・ジョーダンにとっては有利です。

 この場合、彼がCMに出演し、ハウスキーパーが芝刈りをすることで双方にとって利益になると考えられます。これが「比較優位」という考え方です。

“限られた資源”が問題を解決する

 比較優位という考え方が成り立つための前提となる原則は「世の中にあるものはすべて有限である」ということです。例えば、時間や人数というのは極めて限られた資源です。前述の例でいえば、マイケル・ジョーダンにとってどちらの仕事もハウスキーパーよりも優位であり、より稼げる能力を持っていたとしても、4時間という限られた時間を有効に使うためには、芝刈りの仕事をハウスキーパーに任せて自分はテレビCMに出たほうが良いということです。

 同様に国同士の関係においても生産に携わる人間の数には限りがありますから、より生産性の高い仕事に労働力を投入したほうが効率的ですし、逆に絶対的な比較では劣っている国にしても、“まだましなほう”に労働力を投入するほうがより良い結果が得られるでしょう。

大江英樹/経済コラムニスト

大江英樹/経済コラムニスト

1952年、大阪府生まれ。野村證券で個人資産運用業務や企業年金制度のコンサルティングなどに従事した後、2012年にオフィス・リベルタス設立。日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会会員。資産運用やライフプラニング、行動経済学に関する講演・研修・執筆活動を行っている。『定年楽園』(きんざい)『その損の9割は避けられる』(三笠書房)『投資賢者の心理学』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
株式会社オフィス・リベルタス

Twitter:@officelibertas

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