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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」

ユニクロ、「品質悪化」との声広まる…品質維持謳い値上げ→不振ですぐ値下げ、崩れる品質への信頼

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授

 この宣言には、作り手としての自負、矜持が感じられる。だが、最近のユニクロには作り手としての自負もプライドもないように思える。二度の値上げをしたときに柳井正会長兼社長は、原料高や急激な円安を受け、「(値上げは)品質を維持するために必要」と発言した。だが、既存店客数が減少したために今度は値下げに踏み切った。

 品質を維持するために値上げしたのではないのか。それなのに値下げするということは、品質が落ちるのではないか――。多くの消費者がそう考えても仕方のないところだ。

ユニクロの品質が低下?

 さらに、価格を上げ下げすると、消費者の商品への知覚価値もぶれてくる。そのせいかどうかわからないが、最近、ユニクロの品質が悪くなったという声も多い。実際、私自身、いつも黒と白の定番のTシャツを毎年買っているが、今夏に買ったものは明らかに品質が落ちていた。以前は、数回洗濯をしたくらいでは型崩れしなかったのに、今年買ったものは1回の洗濯で、襟ぐりがだらけてしまった。

 ユニクロは、これまで行っていた週末の値引きセールの規模を縮小して、その代わりに毎日安い「EDLP(Every Day Low Price)戦略」を採用するという。このやり方も、2000年代初めのマクドナルドの価格戦略を思い起こさせる。

 前述したように、マクドナルドは平日のハンバーガーを130円から65円に下げ、それを2年後に80円に上げた。その際、週末に130円だったハンバーガーの値段を毎日80円にした。つまり、週末、平日にかかわりなく毎日80円にしたわけだ。キャンペーン名も、それまでは、「ウィークデースマイル」を「エブリデースマイル」に変えた。

 両者の発想は同じだ。「価格(単価)×客数=売上」。小売りは価格を上げたために客数が減っても、結果として売り上げが増えれば問題ない。だが、価格を下げても客数が期待ほど伸びずに売り上げが減るのは大問題だ。

 価格を下げても客数が伸びないということは、多くの場合、成長が止まった市場の中で似たような商品を販売する競合同士が客の奪い合いをしていることを意味する。

 1998年にフリースの大人気で、ユニクロは低価格だが品質・ファッション性もそこそこという新しいアパレル市場を創造した。だが、人気の市場には競合他社の参入が相次いだ。ヒートテックが創造した新しい機能性衣料品というミクロセグメント市場にしても、微妙に差別化された競合商品の参入が続いている。

 ファストリの16年8月期の連結売上高は1兆7864億円。前期比伸び率は6%と、前年の22%を大幅に下回った。10月になって、20年度で5兆円という売上目標を3兆円に引き下げると発表した。柳井会長も競合他社を意識して、「1990円、2990円といった、単純で買いやすい価格に戻したい。プライスリーダーは本来われわれだ。それを取り戻していく」と語っている。

 こういった数字や発言からも、ユニクロがターゲットとする市場セグメントが日本においては、これ以上伸びないところで競合他社との競争が激しくなっていることが推測できる。

 だからといって、ここで価格競争をしたら、ユニクロがターゲットとする市場セグメントは大きくなるのだろうか。これ以上、大きな成長が期待できない市場でシェア争いをすることは、業界の平均利益率を低下させるだけでなく、ブランド価値の失墜を招く。

 世界の先進国において、企業がターゲットとする消費者市場セグメントの規模は小さくなっている。少子化と価値観の多様化により、各市場セグメントが、多くのミクロセグメントに分割されるようになっている。少子化が他の先進国よりも進んでいる日本では、この現象はどこよりも著しい。

複数のブランド展開がカギ

 こういった市場セグメントの小規模化に対処するためには、価格競争ではなくて、ターゲットとするセグメント(あるいはミクロセグメント)の中核となる消費者により強くアピールしてファンづくりをするほうが得策だ。

 たとえば、日本のマクドナルドは、ヘルシー志向の消費者をも取り込むために野菜中心のメニューを揃えたこともあった。だが最近は、そういった中途半端なターゲットの設定をやめ、本来の“マックファン”にアピールするために、肉食好きのためのヘビーなハンバーガーを新発売することで、一時の低迷から抜け出している。むろん、昔の(市場が成長していたころの)売り上げを達成することは無理だ。しかし、利益を増やすことはできる。

 市場シェアを奪回するために価格競争に走り、ユニクロの日本でのブランド価値が損なわれれば、アジア市場にも悪影響を及ぼす。日本で一定のブランド・ポジションを築いているからこそ、ユニクロブランドはアジアの人たちにも魅力的に映る。それが日本でのイメージが「安かろう、悪かろう」となれば、アジア市場でもイメージが落ち、売り上げも落ちることだろう。

 経営者、特に創業者が会社を大きくしたいと強く願うのは当然のことだ。だが、今の時代、ひとつのブランドだけで企業が大きくなることは難しい。小さな市場セグメントをターゲットとしたいくつかの個性的ブランドを抱え、各ブランドの売り上げ合計でグループ全体として大きくなる方法を採用している企業が多い。

 たとえば、米国の化粧品メーカー、エスティ ローダーは、グループの中に30くらいのブランド(主要なものは子会社になっている)を抱え、それぞれが独立した個性的ブランドとして、化粧品市場のミクロセグメント内で大きなシェアを獲得している。12年から15年までの間の業界平均年間売上成長率が1.5%なのに、エスティ ローダーはそれをはるかに上回る5.6%を達成していることで、最近、その経営管理手法に注目が集まっている。

 日本の花王も、メリット、ビオレ、ソフィーナといった各ブランドを花王とは無関係な独立したブランドのように取り扱うことで、全体として大きな売り上げを達成するブランド。ポートフォリオ戦略をとっている。

 ユニクロというひとつのブランドに依存しているだけでは、5兆円はむろん3兆円を達成しようというのも、今の消費者市場においては困難だ。だいたいにおいて、ファストリはユニクロよりも低価格で流行を追うジーユー(GU)というブランドを持っているのだから、「しまむら」と価格を競うのはGUに任せればいい。

 メーカーと小売りとを統合したかたちとなっているSPAは、価格を変えることに極度に慎重なメーカーの考え方を再度、見習うべきだろう。そして、ユニクロにはもう一度、04年の「ユニクロは低価格をやめます」宣言を思い出してもらいたい。あのとき、見せた自社ブランドへの矜持は、モノをつくる人が持つべきプライドだ。それがなくなったら、ブランド価値は存在しなくなる。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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