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江川紹子の「事件ウオッチ」第70回

元慰安婦たちは置き去りのまま…【韓国・少女像設置問題】で問われる日本の外交手腕

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 韓国側が、こうした市民の動きを抑えられないことについて、日本の政府は苛立ちを露わにしている。安倍首相は、日本側はすでに10億円を支払っており「次は韓国がしっかりと誠意を示さなければならない」と強調した。この発言に、韓国の人たちは札束で頬を張られたような屈辱を感じているらしい。比較的冷静な対応をしていた韓国紙までもが、強い日本批判に転じた。ポスト朴政権の政治闘争の中、韓国野党も国民のナショナルプライドを煽って、「安倍に10億円を突き返そう」と叫ぶ。このような状況は、元慰安婦たちの心の傷の回復や安らぎはともかく、反日運動を繰り広げる人には、もってこいの展開だろう。

 日本のメディアは、日本政府の対応の正当性を伝えるが、「正当」であっても逆効果になるのでは、外交としては成功とはいえない。何も日本の側から、これ以上反日運動を勢いづかせる燃料をさらに投下する必要はないのではないか。

 ではどうすればいいのか。

 私は、こういう状況だからこそ、日本はあくまでも合意を大切にし、元慰安婦の方たちへの慰藉(いしゃ)を重視する姿勢を示し続けることだと思う。

「名誉ある地位」を守るためには

 合意には、次のような文言がある。

〈韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。〉

 日本はお金を出して終わり、ではない。すべての元慰安婦の名誉・尊厳の回復や癒やしのための事業は、「日韓両政府が協力し」て行う義務を負っている。

 だからこそ、本当は今のような事態になる前に、「和解・癒やし財団」の求めに応じて、安倍首相が元慰安婦の方々にお詫びの手紙を出せばよかったと思う。そうすれば、被害者たちの心の癒やしにつながるだけでなく、過去に向き合う日本の誠実さを対外的にアピールすることにもなったろう。

 ところが、昨年10月の衆院予算委員会で安倍首相は「毛頭考えていない」と、けんもほろろに突っぱねた。返す返すも残念だ。カネを払ったんだから、負の歴史とこれ以上向き合う必要がないといわんばかりの態度は、安倍首相の人間性だけでなく、日本の国柄をも傷つける。

 せめて、財団と連携して、元慰安婦のために、今後もできることは地道にやっていくという姿勢はきちんと示してほしい。

 軍人が直接、力ずくで女性を誘拐するような「強制連行」はなかったとしても、韓国に限らず、心ならずも慰安婦にされた女性たちが心身を傷つけられたことについて、日本軍の関与や責任は否定しようもない。

 大戦中、海軍主計士官だった中曽根康弘元首相も、自身の手記の中で、インドネシアの設営部隊の主計長だった頃の経験を、こう書いている。

〈三千人からの大部隊だ。やがて、原住民の女を襲うものやバクチにふけるものも出てきた。そんなかれらのために、私は苦心して、慰安所をつくってやったこともある。〉

 今回の合意にも、こう書かれている。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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