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高橋篤史「経済禁忌録」

あの有力企業も被害に…一大詐欺グループ「バンリ」の全容、巨額のカネはどこに消えた?

文=高橋篤史/ジャーナリスト

 そうした事実がありながら、文太郎元代表はカネ集めを続けた。「BENRI‐CASH」なるキャッチフレーズを掲げた勧誘パンフレットには、3年で香港における融資残高を50億円に増やし、中国・上海にも進出する予定などとバラ色の構想が描かれ、さらに文太郎元代表夫妻が旧ソ連のゴルバチョフ元大統領の誕生パーティーに招待されたことがこれ見よがしに喧伝されていた。500万円以上を運用する顧客には金貨をプレゼントするといったキャンペーンも展開した。

 そうやって集めたカネは最終的に数十億円にも上ったとみられる。が、そのほとんどは償還されないまま。そうこうするうち、12年3月に文太郎元代表は債権者に宛て「利息の支払いの一時的延期のお願い」と題する手紙を送りつけ、半年余り後には東京・新川のビルからも消えてしまった。

有力企業の被害に

 これより前、長男の伸治氏も不審な動きを見せていた。旧日本振興銀行を追い出された後の05年、伸治氏は当時、大証ヘラクレスに上場していたオックス情報(のちにオックスホールディングス)の社長に転じた。ところが社長在任中の07年6月、突然、連絡がとれなくなってしまう。「自分は暴力団から命を狙われていて逃げなければならない」――。後日、側近を呼び出し、そう告げた伸治氏はそのまま姿をくらましてしまった(後日、渡米したことが判明している)。この伸治氏と文太郎元代表の動きの間に関係性があるかどうかはわからない。

 バンリ・グループによって痛い目に遭った債権者のなかには、冒頭の小野グループも含まれていた。小野光太郎氏が率いた小野グループはアルミホイール製造のワシマイヤーなどを擁する福井の有力企業集団で、1990年代にはニツセキハウス工業や寿工業(両社とものちに倒産)など旧第一勧業銀行のお荷物融資先を次々と傘下に引き取っていたことで全国的にもその名が知られていた。

 が、そうした背伸び経営が祟り、2000年代に入ると経営は急速に傾いた。挽回を狙って水面下で手を染めたのはリスクの高い金融商品への投機だった。ただ、それは墓穴を掘ることにしかならず、結局のところ、日経225オプション取引では121億円もの損失を負っている。そうした挙げ句、銀行融資をつなぎ止めるため走ったのが粉飾決算だった。取引行ごとに何通りもの決算書をつくり、優良財務を装っていたのである。

 帳尻を合わせるため、しまいにはこんなことまで行っていた。ドイツ銀行とHSBCの口座に総額200億円超の預金があるものの、それは英国の「エジンバラ公賞国際基金」の支援金に充てており、2020年にならないと返還されない――。小野グループは取引行にそう説明していたが、デタラメもいいところ。残高証明書は偽造したもので、実際の預金額はわずか500万円ほどしかなかったのである。

 そんな嘘と自転車操業が続くなか、小野グループはバンリ・グループと接点を持ったようだ。小野グループは税務署に対しては真正な決算書を提出していたが、グループのワシ興産が作成した11年11月期のものを見ると、バンリ総研に対し3億円の貸付金を保有していることが記載されている。カネ詰まりの末、藁にもすがる思いで文太郎元代表の儲け話に乗ったのかもしれない。

 さて、バンリ・グループが集めたカネはどこに消えてしまったのか。確かに、香港の現地法人には次男の是光副代表(当時)を派遣し、それなりに事業立ち上げに動いていたフシはある。が、民事裁判を起こした被害者側の調査によると、集めたカネはグループ間の口座を複雑に行き来しながらかなりの額が現金で引き出され、香港に送金された分は数億円にとどまっていたという。今後そうしたカネの流れをどこまで解明できるかが大きな焦点といえるだろう。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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