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「トクホ」初の取り消し処分発生!消費者にとって健康食品のエビデンスはどこまで重要?

文=後藤典子+編集部
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001_1706761_s-2015.jpgトクホの安全性はノーチェック!(depositphotos.com)

 消費者庁は2月14日、健康食品会社「日本サプリメント」(大阪市)に対し、景品表示法違反(優良誤認)だとして、再発防止策などを求める措置命令を出した。

 これは昨年9月23日、同社の特定保健用食品(トクホ)が、「規定の関与成分が含まれていなかった」として表示の取り消し処分を下された問題で、1991年に保健機能食品制度が始まって以降、初の異例事態だという。

 消費者庁は、課徴金については調査を継続するとしているが、この「トクホ」という言葉は、マスコミにも頻繁に登場し、すでに市民権を得ている。<いわゆる健康食品>や、2015年に始まった<機能性表示食品>が、あいかわらず消費者団体などから「いい加減だ」「信頼できない」などと批判されているのに対して、トクホ商品は「エビデンスがしっかりしていて、何より消費者庁のお墨付きがあるから」と別格扱いされてきていた。

25年間安全性に関するチェックなしというお粗末

 今回処分の対象となったのは、「ペプチド」シリーズ5商品、「豆鼓」シリーズ3商品の計8商品。「トクホ」を取得するためには、2年もの時間と億を超える費用がかかるといわれている。痛手は大きいだろう。

 事の経緯は、2014年3月に日本サプリメント株式会社が自主検査したところ、「血圧高めの方に」「糖の吸収をおだやかにする」と表示していた商品の関与成分が、いずれも表示通り含まれていなかったことが判明し、昨年の9月15日に消費者庁に報告したというもの。

 同庁は「2年以上も報告を怠り、悪質性が高い」と憤慨しているのだが、そもそも企業からの報告がなければわからないというのはお粗末ではないか。いったん許可したら、あとは“性善説”で放置していたという体制であることがわかる。

 そして、この事態に慌てた同庁は、日本健康・栄養食品協会に、1200件を超えるトクホ商品の関与成分が記載どおりに含まれているかどうかの調査を命じるとともに、今後、トクホ商品の買い上げ調査を行う方針について記者発表した。

 これは、制度ができてから25年間、一度も調査しなかったということを露呈している。

消費者にとってより重要なのは品質や安全性

 そこで思うに、「トクホ」や「機能性表示食品」の“看板”であるエビデンス(科学的根拠)は本当に信頼の最優先事項なのか、という疑問だ。近ごろは、消費者団体も口を開けば「エビデンスが重要!」と訴える。

 しかし、この「エビデンス」は、逆に消費者へのごまかしに利用されている場合がある、と私はかねてより疑問視している。

 特に「トクホ」や「機能性表示食品」で推奨されるヒト臨床試験(RCT)は、近代医学の優れた尺度ではあるが、「食品」「健康」という、どちらも複合的でファジーな性質を持つ対象において有効なのかどうか、腑に落ちないでいる。

 しかも、RCTで有意差があると結果がでれば、“葵の紋所”さながら誰もが文句を言えなくなる。その紋所を掲げるためにときには億の費用をかけ、それが商品価格に上乗せされる。

 しかし、消費者にとって大切なのは、個々の商品の有効性の証明よりも、品質や安全性であるはず。もっと言えば、商品に含まれている有効成分が明示されていれば、その成分が健康にどんな作用があるのかということは、すでにあちこちで情報提供されているので、ちょっと調べれば誰でも簡単にわかる。一方、品質や安全性はとても見えにくい。

 お金をかけて機能性のエビデンスは取っているのに、品質管理や安全性対策には経費をかけない、という企業は多い。そこに経費をかけても、消費者にはわからないからだ。ロットごとに成分分析や安全性試験を行っているという話はめったに聞かない。

 何億円もかけて「エビデンス」を取り、「トクホ」のお墨付きをもらえば、誰もが信頼してくれてよく売れる。しかし、成分チェックなどしないので、たとえ有害物質が混入していても知らぬが仏、という有り様をこれまで許容してきたということをあらためて考える。その契機となる事例ではないかと思う。
(文=後藤典子+編集部)

※本稿は、「ヘルスプレス」(http://healthpress.jp/)に掲載された連載記事「暮らしとつながるサプリメント」に、当サイト編集部が加筆したものです。

●後藤典子
ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会理事長、農医連携ユニット理事。同志社大学文学部卒業後、編集プロダクションを経てジャーナリストに。政治・経済評論をテーマにした取材・執筆を主軸としてきたが、サプリメントの取材をきっかけに市場の歪んだ情報の蔓延に義憤を感じ、生活者のための公正中立な情報の必要性を痛感。2001年、NPO日本サプリメント協会を発足、中立な情報機関として活動を始める。書籍の発刊や、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど、マスメディアにおいて執筆・評論・コメントを行うとともに、生活者や企業を対象とした講演活動を通じて、ヘルス・プロモーションの啓発に努める。現在、農と医をつないで健康と食の問題を検証するプロジェクト「農医連携ユニット」に関わるとともに、「日本サプリメント協会」を通して生活者の健康リテラシーを向上させるための情報活動を行っている

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