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雨宮寛二「新・IT革命」

iPhoneの製品組み立て費用、価格のわずか1%…アップルは中国・台湾を離れない

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アップル「iPhone 7」(ロイター/アフロ)

 米トランプ大統領が、昨年11月に次期大統領に決まった直後、米アップルのクックCEO(最高経営責任者)に電話で、米国に1カ所あるいは多数の工場を置いて国内で生産するよう要請した。その際に、大規模な減税や規制緩和を企業のインセンティブとして検討している点を強調した。

 この要請は、トランプ大統領が選挙期間中に、アップルが長年にわたり主力商品のiPhoneを中国で製造していることを批判し、「アップルに国内で製品を製造させる」との公約を受けたものである。

 こうした要請は今やアップルに限らない。アップル同様海外に製造拠点をもつフォードやトヨタ自動車といった製造業を営む事業者などにも求めている。米国の失業率は5%程度でほぼ完全雇用の域にあるものの、米国の一部の主要な地方都市では、産業の空洞化など今もなお深刻な問題を抱える。

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 だが、こうした要請の見返りとして挙げた大規模減税が、海外に製造拠点をもつ企業にとって最も重要なインセンティブではないことは明白である。米国の法人税が下げられ、たとえゼロになったとしても、彼らが生産拠点を米国に変更することはない。なぜなら、こうした企業にとって重要なのはレイバー(労働力)・コストだからである。

 アップルが製造部門を米国に移すインセンティブとして重要なのは、レイバー・コストに加えインキュベーションである。アップルは、iPodやiPhone、iPadなどの主力製品の生産拠点を早くから中国や台湾に置いた。なぜなら、これらの地域がレイバー・コストを低く抑えられる一方で生産の効率性と品質を高められる地域、すなわち両者のバランスが取れる地域だと踏んだからである。

 アップルは、中国や台湾へ製造拠点を移す当初、世界でも指折りのコンサルタントを雇用して、最先端の生産技術や生産管理システムを委託先のメーカーに移植し孵化させながら、生産効率や品質が高く大量生産が可能な工場へと成長進化させてきた。

 これらの工場では製造技術や生産管理能力が高まり、たとえば、EMS(電子機器の製造受託業)企業世界最大手であるフォックスコンでは、iPodの組み立て費用は小売価格の2%弱であり、iPhoneに至っては小売価格の1%弱までに縮小した。製品製造の習熟曲線では、累積生産が2倍になればコストが10~20%は下がる。組み立てコストの削減は、まさにこの習熟曲線を踏襲して、2007年のiPhone発売以来一昨年まで出荷台数を右肩上がりに増やしてきた結果であろう。

 今年になってアップルは、インドでもiPhoneの生産を開始する。アップルから製造委託を受けた台湾企業が現地に乗り込んで製造ラインを構築するという。アップルは、インドでも同様の習熟曲線を描くことができるのであろうか。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)