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浜田和幸「日本人のサバイバルのために」

空気だけで走る車、普及本格化で日本自動車メーカーの脅威に…空気から水生成も普及

文=浜田和幸/国際政治経済学者

家庭用の造水機

 実は、似たような技術はカナダの発明家もすでに商品化している。カナダの「エレメント・フォー」という会社は家庭用の造水機を開発し、すでに市場に投入済みである。この造水機の特色はやはり空気中の水蒸気を吸収し浄化した後に、飲み水として利用することを可能にしたものである。

「ウォーターミル」と呼ばれる造水機で、使用する電力は極めて少ない。一般家庭の壁に装着し、空気中からフィルターを通して不純物を取り除いた後に水を製造する。最近流行しているインフルエンザなどの病原菌も、マイクロ波を照射することで殺菌除去する機能も付いているため、単に水を空気から絞り出すだけではなく、大気中に含まれる雑菌や細菌も除去してくれるというので人気が出ている。

空気から飲料水をつくる機械

 こうした空気から水をつくる機械の開発が盛んになってきた背景には、何があるのだろうか。実に驚くべき事実であるが、「大気中には大量の水分が含まれており、その量たるや地球上のすべての河川に流れる水の量より8倍以上も多い」ということ。そのため、湿度が30%以下でも、このウォーターミルは十分水分を吸収し、飲み水に変えることができるという。全自動の湿度感知器がついているため、夜明けの最も湿度の高い時間に効率的に水分を吸収できるようになっている。

 すでにアメリカ、イギリス、イタリア、オーストラリアでは販売が始まっている。日本でもすでに特許申請が認められているという。そこで、気になるお値段であるが、1基1200ドル。約13万円。アメリカでは人気が高いというが、果たしてどこまで日本人の味覚に合った水を提供してくれるものか。日本ではペットボトルが普及しており、こうした造水機の需要はまだそれほど大きくはなさそうだ。

 とはいえ、アメリカのサンフランシスコ市ではペットボトルの使用を職員に対して禁止するという条例を可決したほどだ。水不足に対する対策のひとつであるが、今後、日本にも波及しないとは限らないだろう。

 そうした傾向を踏まえ、カナダのウォーターミルに負けてはならじと、アメリカのエックス・ジエックス社も空気から飲料水をつくる機械を完成させ、市場に売り出すことになった。1ガロンの水をつくるのに10セントの電気代がかかるが、この機械も空気中の汚れやほこりをフィルターで除去し、浄化処置をした後に飲み水に変えることができるという。

「あらゆる種類の空気から水を作り出し純粋で安全な水を生み出す」というのがうたい文句になっている。このエックス・ジエックスの販売戦略は、一般の水道水が生物化学テロに襲われるといった非常事態を想定したものにほかならない。水道水が安全とはいえ、その水源地に有害物質が投入されたり、地震や災害で水道管が破裂するようなケースを想定し、空気中から必要な飲料水を確保しようという危機管理の発想である。こうした危機管理の観点から「空気中の水蒸気を活用する水製造機」は、将来的には必要な生命維持装置として社会的な認知を受けることになるかもしれない。

 一方、アメリカやカナダに対抗するかのように、ドイツの研究機関においても空気中の水蒸気を利用した造水機の実用化が進みつつある。シュツットガルトにある「IGB」と呼ばれるバイオテクノロジーの研究所では、「ラゴス・イノベーション」と呼ばれる民間企業と提携し、自動的に空気中から飲料水を生み出すメカニズムを開発した。

 砂漠地帯など乾燥地においても空気中から飲料水を確保することができるため、その実用化が期待されている。湖や川、あるいは地下水や水源地がまったくない場所であっても、この機械は水を生み出すことができる。IGBではすでにイスラエルのネゲブ砂漠で実験を繰り返している。この砂漠地帯では大気中の湿度が年平均して64%であるため、1立方メートルの空間から11.5ミリリットルの水を安定的に確保することができるという。

新しい技術革新

「必要は発明の母」というが、今や世界各国で水不足を克服するための新たな発明の競争が始まっている。インドシナ半島やサブサハラなどアフリカ大陸においても水資源をめぐる争いは激化の一途をたどっている。海水を淡水化する、あるいは汚染された水を浄化し再利用するといったこれまでの造水技術とはまったく発想が異なるアプローチが注目を集めている。地球上のあらゆる場所に公平かつ潤沢に存在する空気。この無限の資源から水を造りだすという開発レースが始まったのである。水の豊かな日本においては、これまで思いつかなかったアイディアといえるかもしれない。

 しかし、考えようによっては、これほど確実な水源地の確保につながる技術もないだろう。日本は海水の淡水化を可能にする膜技術では世界をリードしているものの、既存の技術の上に胡坐をかいていれば、こうした新しい技術革新の波に乗り遅れることにもなりかねない。

 イザヤ・ベンダサン氏が「日本人は水と安全はタダで手に入ると思い込んでいる」と50年ほど前に指摘していたが、水をめぐる争奪戦が過熱し始めた今日、我々は水を確保するためにはあらゆる可能性を探り続けねばなるまい。水資源獲得レースに終わりはないのである。水に恵まれている日本だが、地球温暖化の影響は免れない。

 これまでの常識にとらわれない瑞々しい発想で、新たな技術開発に取り組む必要がありそうだ。

 たとえば、アメリカのエネルギー省では「太陽光を使って水を酸化させ可燃性化学物質を生み出す研究」にも資金提供し、着実な成果を上げている。17年3月の時点で、カリフォルニア工科大学では光電解物質の製造に道筋をつけたと報道された。要は、「水を新たなエネルギー源に転換する」というわけだ。日本も負けてはいられない。

空気で走る自動車

 それとは別に、空気で走る自動車(エアーカー)の登場には、世界が驚かされた。この空気自動車を開発したのは、フランスの自動車メーカー、ルノーにおいてF1レース用のエンジンを研究してきたガイ・ネグロ博士。同博士はルノーを退社した後、私財を投じて、究極のクリーンカーを設計することに情熱を傾けた。15年の試行錯誤を経て、ようやく市場に出せるところまで漕ぎ着けたのである。

 5000ドル強という低価格とゼロエミッション(排出ガスゼロ)が売りだ。このところ自動車業界では自動走行車が話題をさらっているようだが、究極のエコカーとしての将来性を秘めたエアーカーは環境保全の観点からいえば、人類社会にとってまたとない財産になるに違いない。

 その宣伝もかねて、MDIは08年3月、ニューヨークで開催された自動車ショーに最新型のエアーカーを出展し、多くの来場者の関心を集めた。地球温暖化という深刻さを増す環境問題に対する切り札になる可能性を秘めたエアーカー。冷却圧縮空気を主動力とするため、ラジエーターもウォーターポンプも必要ない。米「タイム」誌が選んだ「世界を変える最新テクノ」にもランクインした。

 この技術のお陰で、エンジン全体の8割が超軽量のアルミニウムでできるようになった。従来型のガソリンエンジンと比べれば、その重さは約半分。必然的にボンネットや車内のデザインが極めて柔軟に設計できる。燃料となる圧縮空気を保存するタンクや部品を結ぶカーボンファイバー(炭素繊維)はすべてフランスの航空機メーカー、エアバスが供給している。

 いい換えれば、フランスの自動車と航空機メーカーが手を結び、そこにインドの自動車メーカーと投資ファンドが資金を出すという新たな国際的アライアンスが誕生したわけだ。本格的な生産は世界の需要を見極めながらインドの工場で始まる。日本への導入も期待されているが、現時点では日本国内の法律が阻害要因として邪魔しているようだ。

 現行の道路交通法によれば、国内の道路を走行できる車種に空気自動車は認められていない。さらにいえば、既存の自動車メーカーからの反対がより大きな障壁となっていると思われる。日本の自動車メーカーにとっては強敵の登場となるからだ。

 しかし、欧米では徐々に普及が始まっており、タクシーやバスへの導入も始まっている。アメリカの西海岸では環境意識が高いせいか、このエアーカーの所有者が増えているという。筆者はフランスで試乗してきたが、運転感覚も乗り心地もすこぶる快適であった。日本の市場に究極のエコカーが参入できるのも時間の問題かもしれない。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)

浜田和幸/国際政治経済学者

浜田和幸/国際政治経済学者

国際政治経済学者。前参議院議員、元総務大臣・外務大臣政務官。2020東京オリンピック招致委員。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士

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