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戦後最悪の殺人事件勃発で精神障害者の医療が波紋…防犯と患者の保護は両立できないのか

文=ヘルスプレス編集部
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戦後最悪の殺人事件で法改正? 精神保健福祉法改正案に日本精神神経学会が懸念を表明の画像1どうなる精神保健福祉法改正案?(depositphotos.com)

 2016年7月26日に「津久井やまゆり園」で発生した相模原障害者施設殺傷事件は、19人が死亡した戦後最悪の殺人事件として、日本中に衝撃をもたらした。それと同時に、精神科の「措置入院」のあり方についても、論議を巻き起こすことになった。というのも、同事件の植松聖被告は、障害者の殺害計画を公言するなどして措置入院の処置を受けながら、退院後、凶行に及んでいたからだ。

 改めて説明すると措置入院とは、自傷他害のおそれのある人を精神科の病棟に強制的に入院させられる制度のことである。

 この事件を受け、再発防止策を盛り込んだ「精神保健福祉法改正案」が、4月7日に参院本会議で審議入りしている。精神保健福祉法とは、精神障害者の医療や保護を定めた基本的な法律で、今回の改正案は2月28日に閣議決定されたものが基になっている。

 相模原市の事件を検証すると、容疑者の退院後のケアが不十分だったため犯行を防げなかったとの反省から、今回の改正案では「措置入院を解除された患者に支援を継続する」よう自治体に義務づけている。政府は今国会での成立を目指す構えだ。

 閣議決定された2月28日付の朝日新聞デジタルの記事によれば、今回の改正案の要点は、以下の通りである――。

 措置入院を決める都道府県や政令指定都市が、患者の入院中から本人や家族を交えた調整会議を開き、退院後の支援計画を作成。調整会議の上部組織として、警察や病院など関係機関で構成する「精神障害者支援地域協議会」の設置も義務づける。

 また、相模原の事件のように、入院後に薬物使用がわかった場合の情報共有や、犯罪を企てた場合への対応方法も話し合うなど、連絡を密にするという方針だ。

日本精神神経学会が法改正に懸念を表明

 この法案に懸念を表明しているのが日本精神神経学会だ。同学会は、3月18日付で「精神保健福祉法改正に関する学会見解」を公表しており、その骨子には以下のような文言が並んでいる。

・「精神科医療の役割は、病状の改善など精神的健康の保持増進であり、精神保健福祉法の改正もこの視点に立って行われるべきものです。犯罪の防止を目的として精神保健福祉の改正を行うべきではありません」

・「措置入院制度の見直しは、それが、患者管理やリスク管理のためだけのものとなってはなりません。また、退院後の支援は本来入院形態に関係なく『退院後支援を必要としている人』すべてに提供されるべきものであり、そのための地域資源の充実が望まれます」

 精神保健福祉法は、あくまで精神病患者の医療のためにあるもの。犯罪の抑止を目的とするようになれば、精神病患者への差別を生む原因になってしまうというのが、今回の精神神経学会の懸念の主な内容だ。

入院制度は犯罪防止と一緒にするべきではない

 4月7日に審議入りした参院本会議でも、塩崎恭久厚生労働大臣が「措置入院から退院した患者に対して継続的な支援を確実に行えるようにする」と説明したのに対し、民進党の川田龍平議員は、一定の評価をしながらも「犯罪防止が法改正の趣旨の一部というのは障害者の差別偏見につながり、筋違いだ」と改正案に疑問符を投げかけている。

 入院制度は医療を目的とすべきであり、犯罪の防止と一緒にするべきではないという主張は、確かに頷ける部分がある。とはいえ、相模原事件のような凄惨な事件を二度と起こしてはならないのもまぎれもない事実。

 犯罪抑止と患者の人権の両立は、極めて危ういバランスの上に並び立っていると考えることもできる。医療か防犯かというこの問題は、これからも論議を巻き起こしそうだ。
(文=ヘルスプレス編集部)

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