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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第49回

女性問題の絶えない巨大新聞社長 奥さんが怒鳴り込む、愛人を“スパイ”として使う…

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女性問題の絶えない巨大新聞社長 奥さんが怒鳴り込む、愛人を“スパイ”として使う…の画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。吉須と4ケ月ぶりに再会した夜、ふたりが見かけたのは、社長の松野が愛人との密会現場だった。

 吉須晃人は昭和48(1973)年入社で、村尾倫郎の3年下だった。

 50年春に通産省記者クラブへと配属になった村尾は、わずか1年で政治部の官邸記者クラブに異動。さらに1年後にはジャナ研に出向、55年春に経済部に戻った。その最初の年は経済企画庁クラブ、56年春に日銀クラブに異動した。吉須のほうは、支局から経済部に上がった53年春、財政研究会(大蔵省記者クラブ)に配属になった。在籍した2年間で頭角を現し、村尾の1年前の55年春に日銀クラブに配置替えとなり、2年目に事件は起きたのだ。

 「確か秋だった。村尾は少し前の夏から広尾にマンションを借り、自宅の鵠沼は遠いという理由で、奥さんと別居を始めた。でも、そこに女を連れ込んでいたんだ」
 「それは誰ですか?」
 「そこまでは知らんが、企画庁クラブの受付の女性じゃなかったかと推測している」
 「どんなことがあったんですか?」

 「確か土曜日だったと思うけど、2人の席の間にあった電話が鳴ったんで、後輩の俺が受話器を取ると、突然、『あなた、早く出てらっしゃい』と怒鳴りつけられたんだ」
 「相手は村尾さんの奥さんだったんですか。当時はまだ週休2日じゃなかったですね」
 「そうなんだ。俺も目が点になったさ。慌てて、村尾に受話器を渡すと、真っ青になった彼は『君、誤解だよ、誤解だよ』と言って、外にすっ飛んで行った」

 そこまで話すと、吉須はビール瓶を取って、深井宣光のグラスに注ぎ、自分はお猪口に手酌した。深井はグラスを飲み干し、吉須に先を促した。

●2人目の浮気相手

 「その女性とはどうなったんですか?」
 「多分、その一件で別れたんじゃないか。でも、その後、村尾と同じ記者クラブにならなかったし、彼が政治部と経済部を行ったり来たりしたから、よくわからないんだ。まさか、その女性じゃあないだろうな?」
 「それは違います。最近、ひっかけた女でもありません」
 「そうなると、村尾がロンドンに転勤する前の女ということになるな。確か、転勤は平成2年春で、そこで、現地採用した芳岡(由利菜)記者とできたという話だ。彼女を正社員で採用したのも村尾の計らいらしいし…」

 吉須はお猪口を空け、そして続けた。

 「芳岡とは、彼女がニューヨークに転勤する前までは同棲していたふしがあるからな。やはり、昭和62年から平成元年までの女か…」
 「いい線ですね。でも、吉須さん、芳岡記者との関係は結構知っているじゃないですか」
「それはそうさ。芳岡は俺が経済部のデスクの時に入ってきたんだからな。日銀クラブの時は、俺の直属の部下だったんだよ。キャップから『芳岡記者が夜、どこにいるかわからないので困っている』と苦情を言われたり、若い記者から神楽坂あたりで村尾と二人のところを目撃した、とかいったご注進もあったりしたからな」
 「吉須さんは芳岡記者の上司だったんだ。じゃあ、よく知っていて当たり前ですね」

 「おい、誰なんだ」
 「びっくりしないでくださいよ。会長秘書の杉田(玲子)さんです」
 「え、彼女なのか」
 「そうなんですよ。昔、ジャナ研の女性職員と大手3社の若手記者の合コンが頻繁にあったらしいです。舞ちゃんもその常連で、3年出向していた村尾も幹事かなんかやっていて、入社したばかりの彼女をたらし込んだというんです」

●浮気相手をライバルの監視に送り込む

 「それが今も続いているのか?」
 「ずっとかどうかは知りませんけど、芳岡記者のニューヨーク転勤後は付き合っているようです」
 「本当かい?」
 「舞ちゃんは女の勘とか言っていたけど、自信満々でしたよ」

 「そうだ。確か、舞ちゃんと杉田さんは自宅が近かったぞ。広尾か目黒のあたりだ」
 「そういうことなら、舞ちゃんも証拠を握っているんでしょうね」
 「でも、村尾がどうして急に引っ越したのか、腑に落ちなかった。二股になっているとなると、なんとなくわかるような気もするね」

 吉須は卓袱台の上のおひつを開け、茶碗に2杯目のご飯をよそった。
 「君はいいかい?」
 「それじゃ、お願いします」
 深井が茶碗を差し出した。

 「杉田さんね。彼女がねえ。これは誰も知らないぞ。村尾は太郎丸さんの動静を探るスパイとして使っているぞ、きっと。深井君、ビッグニュースだ」
 「舞ちゃんも言っていましたけど、殆ど誰も知らないって…」
 「確かに、まだ“点”だけど、それを“線”で結んで想像通りの絵が描けたら、面白いね。ところで、もう一つ、舞ちゃんに聞いた話があるんだろう?」
 「それはですね、この4月に資料室に来る奴のことです。月曜日に吉須さん、大都の送り込むスパイと言っていましたけど、違うようです」

BusinessJournal編集部

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