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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

トランプ大減税策、殺到する批判は間違い…米国と世界の経済を活性化させる可能性大

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
トランプ大減税策、殺到する批判は間違い…米国と世界の経済を活性化させる可能性大の画像1トランプ米大統領(The New York Times/アフロ)

 トランプ米政権が大胆な税制改革案を発表し、メディアから「金持ち優遇」などと批判を浴びている。

 改革案の目玉は法人税率の引き下げ。35%から一気に世界最低となる15%に引き下げる。所得税は7段階ある税率区分を3段階に簡素化する。最高税率を39.6%から35%に引き下げる一方、基礎控除を2倍に広げることで中低所得層に目配りする。相続税廃止も打ち出した。

 毀誉褒貶の激しいトランプ政権だが、今回の税制改革案については、後述するひとつの気がかりな点を除き、素直に評価すべきだろう。もし社会を物質的に豊かにし、貧困をなくしたいのなら、民間の活力を高めなければならない。企業や個人に対する減税は、そのために最も有効な手段のひとつである。

 改革案に対するメディアの批判には何種類かあるが、そのいずれも的外れなものだ。まず、大幅な法人減税は自国の利益しか考えない「自国第一主義」であり、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調に水を差すという批判だ。しかし、これはそもそも、合法的な節税を「税逃れ」とまるで悪事のように呼び、さらに税を絞り取ろうとすること自体が間違っている。

 本連載の以前の回でパナマ文書問題を取り上げた際にも指摘したように、法人税の引き下げは、一般市民にとってマイナスではない。むしろプラスである。企業は投資に回せるお金が増えて生産力が高まり、消費者に安くて質の良い製品・サービスを提供できるからだ。政府のお役所仕事より効率的なのは間違いない。

 次に、所得税の最高税率の引き下げや相続税廃止が「金持ち優遇」という批判だ。確かに、金持ち優遇であることは事実である。だが、それは悪いことではない。金持ちの多くは企業のオーナー、つまり投資家だ。投資で得た利益が減税によって多く手元に残るようになれば、投資に対する意欲が高まり、やはり製品・サービスの供給増につながる。

 それから、「減税分の財源を示さないのは無責任」という批判がある。しかしトランプ政権は財源を一応示している。経済成長による自然増収だ。ムニューシン財務長官は、改革案に盛り込まれた大型減税で米経済は2年以内に3%の成長を達成できるとして、結果的に税収が増えると主張している。

 ただし、自然増収だけで減税分の財源をまかなえるか、やや不透明なのも事実だ。財源が足りなくなり、何かほかの増税(インフレ税という見えない税金を含む)で帳尻を合わせるのでは意味がない。

 財源を確実にするには、政府が使うお金を減らすこと、つまり支出削減が欠かせない。しかし今のところ、米政府からは具体的な削減策が聞こえてこない。むしろトランプ大統領は、軍事費や公共事業費を積極的に増やす姿勢を示している。これが最初に述べた「気がかりな点」である。

メロン減税の経験

 支出削減さえクリアできれば、大型減税を柱とするトランプ政権税制改革は、米国経済を活性化する可能性が大きい。

 過去に参考になる事例があるので紹介しよう。「黄金の20年代」と呼ばれる繁栄を誇った、1920年代の米国で実行された大型減税だ。この大型減税を推進したのは、当時のアンドリュー・メロン財務長官である。21年から32年まで10年以上、ハーディング、クーリッジ、フーバーと3代の政権にわたり財務長官を務める。モルガン財閥、ロックフェラー財閥に次ぐといわれたメロン財閥の出身で、米国有数の大富豪。大金持ちである点は、不動産王のトランプ大統領と似ている。

 メロンの仕事のひとつは、第一次世界大戦(14〜18年)中に積み上がった巨額の政府負債(19年に255億ドル)を一掃することだった。しかし、そのために選んだ政策は増税ではなく、正反対の減税だった。

 メロンは、政府の借金を返済するカギは、戦時中に課された重い税負担をすみやかに軽くすることだと考えた。税率を下げれば、企業家は後ろ向きの節税に苦心するのでなく、事業で前向きに稼ぐ意欲がわくと考えたのである。

 21年に所得税の税率区分上限は73%という高率だったが、メロンは25年までに25%にまで引き下げた。同じ時期に税率下限を4%から1.5%に引き下げ、貧困層の税負担も軽くした。

 メロンは1924年に次のように語っている。

「課税の歴史をみると、仮に税率が高すぎると税収は減少していることが分かる。納税者は、税率が高いと、必ず資金を生産的な事業から引き上げようとする」(ロバートP.マーフィー著、マークJ.シェフナー他訳『学校で教えない大恐慌・ニューディール』<大学教育出版>)

 メロンの考えは正しかった。富裕層に対する大幅な減税で税収が減るどころか、逆に所得税収入は10年にわたり増加した。自然増収である。この間、メロンは目的どおり政府の借金を積極的に返し、負債残高は20年の240億ドルから29年には170億ドルまで減少した。

 特筆すべきは支出である。税収が増えても財布のひもを安易にゆるめず、第一次大戦中に膨らんだ軍事費をはじめ、削減に努めた。政府支出は20年の64億ドルから急ピッチで減少し、24年には29億ドルと半分以下になった。その後もニューヨーク株暴落で大恐慌の始まる29年まで、ほぼ同水準に抑え込んだ。

 20年代の輝かしい発展を政策面で支えたのは、メロンの大型減税だった。大富豪であるメロン自身、その恩恵にあずかったことだろう。しかしそれ以上に、減税は経済に活力をもたらし、国民全体を潤した。

 メロン減税の経験に照らせば、トランプ減税が米国や世界の経済を活性化し、人々の暮らしを楽にする見込みは十分ある。カギは支出削減だ。海外で無用な武力介入を控え、軍事費を削ることが成功の第一歩だろう。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

◆参照文献(本文に記載したものを原則除く)
Powell, Jim, “America’s Greatest Depression Fighter (No, it wasn’t Franklin Delano Roosevelt).” LewRockwell.com, December 23, 2003.

筈井利人/経済ジャーナリスト

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