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榊淳司「不動産を疑え!」

新築マンション、売れ残りが異常な水準突入…郊外マンション購入需要の消滅

文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

 確かに、販売価格が上昇した。建築費の高騰に加え、郊外といえども土地の価格も若干は上がった。しかし、郊外の場合は新築マンションの販売価格は都心ほど上がっていない。エリアによって違いはあるが、都下や23区でも都心から離れた地域では価格高騰を感じさせない物件も多い。であるのに、スムーズに販売できていない。つまり、価格の高騰だけが原因ではなさそうなのである。

 私は、この現象を「郊外ファミリー族の消滅」ではないかとにらんでいる。

 まず「郊外ファミリー族」を定義しよう。

・都心の主要ターミナル駅から快速もしくは急行で30分以上の郊外に居住
・世帯年収800万円未満
・世帯主は中堅企業以上の正社員
・子どもが1人以上
・夫婦のどちらかが30歳代
・夫婦のどちらかが地方出身者

 ざっとこういう条件に半分以上当てはまる家族が、私が定義する「郊外ファミリー族」だ。彼らが郊外型の大規模マンションの購入層となる。不動産業界では、かつて「一次需要層」と呼んだ。生涯で初めてマイホームを買う人たち、という意味だ。

 この層が今、絶滅の危機に瀕しているのではなかろうか。まず、10年前はこの層のボリュームゾーンであった団塊ジュニアが、今はすべて40代に達してしまった。ここでまず、絶対的なボリュームの不足が顕在化している。さらに、若年層の未婚化が進んでいる。あるいは、結婚しても子どもをつくらなかったり、できないケースも多い。彼らは郊外に住む理由がないので、都心あるいは都心近郊に住居を求める。

 そして、若年層の正社員比率が落ちている。2015年の労働者派遣法の改悪が、その傾向を助長してしまった。30代前後の若年層で安心して35年ローンを組める人が、10年前に比べてかなり少なくなってしまったと推定できる。

 さらにいえば、郊外では賃貸住宅の空室が多い。無理をして新築分譲マンションを購入しなくても、住むところには困らないのだ。また、彼らは親が平成バブル期に住宅を購入して、見事に失敗しているのを目の当たりにしている世代でもある。昔ほど持ち家志向が強くないことも考えられる。

 かつて、マンション業界の主要な戦場は郊外だった。どんな土地でもマンションを開発すれば、なんとか売り切ることができた。やはり、その根底には根強い需要が存在したからだ。

 今は違う。もはや「郊外ファミリー族」は、かなりの少数派に転落してしまった。しかし、マンション業界ではすでに2年先までの事業用地を仕入れているはずだ。今後、3年先、4年先の事業用地を仕込むデベロッパーもあるだろう。しかし、その向こうに待っているのは苦難の「敗戦処理」かもしれない。

 もはや郊外には、マンションデベロッパーにとってのお花畑は広がっていない。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)

榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト

不動産ジャーナリスト・榊マンション市場研究所主宰。1962年京都市生まれ。同志社大学法学部、慶應義塾大学文学部卒業。主に首都圏のマンション市場に関する様々な分析や情報を発信。
東京23内、川崎市、大阪市等の新築マンションの資産価値評価を有料レポートとしてエンドユーザー向けに提供。
2013年4月より夕刊フジにコラム「マンション業界の秘密」を掲載中。その他経済誌、週刊誌、新聞等にマンション市場に関するコメント掲載多数。
主な著書に「2025年東京不動産大暴落(イースト新書)※現在8刷」、「マンション格差(講談社現代新書)※現在5刷」、「マンションは日本人を幸せにするか(集英社新書)※増刷」等。
「たけしのテレビタックル」「羽鳥慎一モーニングショー」などテレビ、ラジオの出演多数。早稲田大学オープンカレッジ講師。
榊淳司オフィシャルサイト

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