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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

リストラに怯える日本の半導体技術者を、海外企業は年収数億円出しても欲しがっている

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半導体分野で世界一高年俸の台湾TSMC


 しかし、もっと驚いたのは、台湾TSMCの年俸である。TSMCは、半導体の設計は行わず、製造だけに特化したファンドリーといわれる形態の半導体メーカーである。TSMCは、現在世界のファンドリーのシェアの約60%を占め、圧倒的な存在感を示している。また、売上高は右肩上がりに成長しており、営業利益率は毎年35~40%を叩き出している。ちなみに日本の電機や半導体メーカーの営業利益は数%、良くてもせいぜい10%程度である。

 このTSMCの部長クラスに、日本の半導体メーカーの課長だった友人がスカウトされた。同志社大学の教員だった頃(つまり今から10年ほど前に)、この友人を訪ねてTSMCに何度か聞き取り調査に行った。

 そのとき、単刀直入に「年俸はどのくらいになったのか?」と聞いてみた。それが、一番関心があることだったからだ。日本の半導体メーカーの課長なら、せいぜい年俸1000万円といったところだろう。その知人は、「約3倍になった」と答えた。私は、「おおー! すごい、3000万円か!」と驚いたのだが、当の本人は「いや、こんなものはどうってことはない」という。

 意味がわからず「なぜ?」と問うと、この友人は以下の説明を行った。

「TSMCでは、年末に営業利益の8%をキャッシュで社員に還元する。TSMCには10段階の職制があり、当然上位の職制者がたくさんもらう」

 この友人は上から数えると、社長、副社長、事業部長、部長と4番目の職制である。その4番目の職制の部長として、「いくら年末のボーナスをもらったのか?」と聞くと、なんと「年俸の5倍だ」という。年俸を3000万円とすると、その5倍は1.5億円になる。つまり、この友人は、年俸+年末ボーナス合計で1.8億円をもらっていることになる。TSMCは、間違いなく半導体メーカーのなかでは世界一給料の高い企業である。

台湾が警戒する中国半導体企業


 台湾の半導体メーカーのなかで、TSMCは飛び抜けて高年俸の企業であるが、台湾の他の半導体や電機メーカーも総じて年俸は高い。その台湾が現在警戒しているのは、中国企業が台湾の半導体技術者をヘッドハンティングしようとしていることである。

 中国は現在、半導体工場の建設ラッシュである。たとえば、最大手の紫光集団は以下の3つの巨大半導体工場を建設中、または計画している。

(1)武漢のXMCに240億ドルを投じて、月産30万枚の3次元NAND工場を建設。この工場は、2030年までに月産100万枚に拡張すると発表している。

(2)南京に300億ドルを投じて、月産30万枚のDRAMまたは3次元NAND工場を建設する。

(3)成都に280億ドルを投じて、月産50万枚のファンドリーを建設する

 これらを合計すると、紫光集団だけで2020年までに820億ドルを投じて、月産110万枚の半導体工場を建設するということになる。これら3つの巨大工場には、数万人規模の半導体技術者が必要である。そこで、中国は台湾をはじめ世界中から半導体技術者を募集しようとしている。

 たとえば、淮安德科碼半導體有限公司という半導体メーカーの募集要項には、さまざまな職種の条件や待遇が書かれているが、その一例を以下に示す。
 
・TF/CVD PE Section(恐らくCVDという成膜技術のプロセスエンジニア)
 条件:擔任CVD工藝工作10年以上(CVDに関する技術の経験10年以上)
 待遇:月薪 90,000元 至 112,500元(144万円~180万円)

 経験年数10年というと、学卒なら32歳、修士卒なら34歳に相当する。その月給が144万円~180万円ということであるが、これにはボーナスが含まれていない。恐らくボーナスは6カ月くらい出ると思われるので、それを加算すると年俸にして2,592~3,240万円となる。

 これを日本の半導体メーカーの技術者と比較してみよう。32~34歳というと、せいぜい主任で、課長の一歩手前である。その年俸は500~600万円くらいではないだろうか。つまり、この中国の半導体メーカーは、日本企業の5~6倍もの高給で技術者を募集しているのである。

 しかも、この淮安德科碼半導體有限公司は、ほとんど無名の半導体メーカーである。中国の最大手のSMICやXMCは、いったいどのくらいの年俸で技術者を採用しているのだろうか。

紫光集団傘下のXMCの凄まじいヘッドハンティング


 XMCのヘッドハンティングについて、すさまじい話を聞いた。ある日本の半導体関係者がXMCの幹部に会ったとき、いきなり「うちに来ませんか」と誘われたという。その場で条件提示を受け、契約書にサインしてくれたら、支度金の小切手をこの場で切ると言ったそうだ。その額とは「●●億円」(怖くて具体的金額は書けない)。そして、「年俸は●●億円で●●年契約」でいかがですかと言われたらしい(この金額も怖くて書けない)。

 XMCに接触したジャーナリストによく聞く話なのだが、「昨年いきなり3次元NANDフラッシュメモリをつくると発表したけれど、その技術はあるのか?」と質問を投げかけると、XMC関係者は「俺たちにはカネがある」と答えるのだそうだ。技術などはカネで買えばいいということなのだろう。

 XMCは、東芝メモリの買収に2.4兆円を用意した。日本政府が外為法を持ち出したために、XMCは東芝メモリの買収を断念した。しかし、XMCはこのカネを使ってヘッドハンティングをしているかもしれない。たとえば、契約金1億円で日台韓欧米の半導体技術者を集めるとしたら、2万4,000人集めることができる。契約金10億円としても2,400人集められる。とびっきり優秀な技術者が2,400人集まったら、恐らく簡単に最先端の3次元NANDはできてしまうだろう。

目を世界に向けよう

 
 日本の半導体や電機メーカーで、冷や飯を食わされ、つらい思いをしている諸君、その眼を日本国内ではなく、海外に向けよう。そこには、君たちを今の年俸の数倍~10倍で処遇してくれる企業がある。一度限りの自分の人生である。海外に飛び出して、思いっきり稼ぐのも、一つの生き方だと思う。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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