歩道を歩いている時、路面店の店頭商品が気になって店に近寄ろうとした瞬間、音もなく追い抜こうとしていた自転車がスレスレで走り去っていった。こちらが驚きで声も出ないのをいいことに、詫びの一言も、「大丈夫ですか?」と気遣う言葉すらも発することなく、自転車は彼方へ消えた。
また、逆に「普通自転車歩道通行可」の規制標識が設置された歩道の車道寄りを自転車で徐行中、前を歩く“手つなぎカップル”が幅を取っていたためベルを鳴らして追い抜いたところ、「自転車はあっちだよね……」と背中越しに女性の不満声が聞こえ、こちらも思わずムッとした。
こういった日常茶飯事の危機一髪な状況や感情のやりとりは、国土交通省と警視庁が推進する「自転車ナビマーク」や「自転車ナビライン」が利用者間で浸透/定着しても、皆無となることはないだろう。
「そもそも自転車問題は、そこがスタート地点だろう」と、クルマを営業手段とする各界のプロ運転者たちは異口同音に語る。
「車道を逆走してくる<ママチャリ組>が一向に減りません。なかには、前にも後ろにも子どもを乗せて逆走したまま、平気で斜め横断するママも結構います」(宅配業者)
「一時停止を完全無視したり、赤信号で止まらない自転車が非常に多いです。しかも、イヤホンで音楽を聞きながら走行し、左右の確認もせずに路地からいきなり優先道路に飛び出して来る自転車もいて、今や我々にとっては最大の凶器です」(タクシードライバー)
マナーが追い付かず
「路上駐車のクルマが原因でナビラインの上を走れず、クルマの行き来が激しくて前にも進まないから苛立って、恨めし気にこちらを睨んでくる自転車利用者をよく見かけます。しかし、可哀想だけどそういう人たちは慎重なぶん、まだマシです。同じ状況下で、後方確認も一切せず、減速さえもしないで車道を走る自転車が後を絶ちません」(工事業者)
要は「ナビ以前の基本的なマナー問題」だとクルマのプロたちは口を揃える。それは冒頭で紹介したような危険事例や感情案件が、「歩道」から「車道」へ移行しただけともいえるだろう。
視点を変えれば、歩行者に恐れられた強者(自転車)が、ナビに導かれて車道へ出た途端、万が一の際は(車両構造上)弱者に転じる可能性が高まったともいえる。
自転車ナビマークには本来、「自転車が歩行者を巻き込む事故を防ぐ」「自転車がクルマと同じ進行方向で走ること(=左側通行)を促す」という2つの狙いがある。
後者に関しては、クルマと逆方向を走るとお互いに気づきにくいという現象が背景にある。しかし、自転車ナビマークは法律上定めたものではないため、仮に守らなくても罰せられることはない。