ビジネスジャーナル > マネーニュース > 急増する「おひとりさま」のがん患者  > 3ページ目
NEW
黒田尚子「『足るを知る』のマネー学」

急増する「おひとりさま」の「がん患者」、日頃から絶対しておくべき「備え」とは?

文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー

(3)がん患者が抱える問題その3~おカネ(社会経済)的な問題

 がん罹患後の経済的リスクをどのようにカバーすれば良いのか? 仕事は継続するのか? など、がんとおカネ、就職・就労、結婚・出産などの問題である。

 がんの相対生存率が伸び、今やがんは完治する病気。もちろん、それはがん患者にとって喜ばしいことではある。しかし前述の通り、治療費用や定期検査などの医療費が中長期でかかる上、罹患前と同じように働けなくなるケースも多い。

 就労等に関する実態調査では、罹患後に2割以上の人が離職し、約6割の人の収入が減ったと回答している(※出所:東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」)。要するに、がんで死ななくなったために、収入の減少と支出の増加という家計にとってダブルパンチの状態に陥ってしまうがん患者の現状が、徐々に認識されはじめたということだ。

 平成24年度からの「がん対策推進基本計画」においても、重点的に取り組むべき項目として追加されている。

おひとりさまのがん特有のリスクとは?

 では、これらの3つの問題に対して、おひとりさまには、それぞれ、どのようなリスクがあるのか考えてみよう。

 まず、第1のカラダの問題に対しては、おひとりさまの場合、まず入院時にトラブルが起こりやすい。

 たとえば、入院時の保証人(原則として、患者本人とは別世帯の支払い能力のある者等)や着替えや洗濯物のこと。突然入院することになった場合や入院が長期間にわたる場合、留守中の部屋の管理やペットなどの世話、家賃や公共料金の振込等、金銭管理など。さらに告知や今後の治療方針を決めるときに、冷静に判断できる家族の同席が求められる。

 これは、家族とのつながりを重視してきた日本の文化的な背景もあるが、病院側にとって家族や親族のサイン・同席は、患者が死亡したときの引き受けのほか、治療が失敗したときの訴訟リスク、治療費用の未払いリスクを軽減する目的でも必須としている。

 もちろん、医師の説明は「ひとりで聞きます」と宣言し、同意書の家族欄は上司や知人にお願いする方法もあるが、それでも冷静に判断してくれる第三者がいてくれることは何かと心強いものだ。

 第2の問題に対しては、まったくのおひとりさまで、家族や親しい親戚等が不在の場合、闘病生活を支えてくれる人や親身に相談に乗ってくれる人がいないということである。

 がん患者にとって、不安な気持ちを受け止めて助言や状況整理をしてくれる人の存在は大きな支えだ。ある調査によると、がん治療中の相談相手のダントツは「家族」。親しくしている友人や知人がいても、なかなか家族以上に優先してくれるかというと難しい相談だろう。

 そして、第3の問題に対しては、家計を一緒に支えてくれる人や経済的援助をしてくれる人、身近な相談相手がいないということである。とりわけ、非正規雇用の場合、傷病手当金など公的保障が正規雇用に比べて薄い。その分所得補償なども考えておく必要があるだろう。

おひとりさまが、がんに備えるためにやっておきたいこと

 それでは、おひとりさまはイザというときのためにどのように備えておくべきか? 最低限、次の3つのことを念頭に置いておきたい。

 まずは「マンパワーの確保」である。

 保証人になってくれる人、入院時の世話を気軽に頼める人、苦しいとき・不安なときに親身に相談に乗ってくれる人を確保しておくこと。ただし、友人関係というのはメンテナンスが必要なもの。おしなべて、女性はイザというときの備えに敏感なので、「私に何かあったら、●●ちゃん、一緒に病院に行ってね」などと日頃から意思疎通を図っている人も少なくない。

 問題は男性である。男性のがん患者は、自分の悩みや不安を相談しない・できない人が多い。そもそも、男性は病気など万が一の状況を考えたくないという人も多いし、自分が弱っている姿を知り合いに見られたくないという心理が強く働き、病気のときに頼るどころか、自分の殻に閉じこもりがちだ。
なんとかなる場合もあるだろうが、本当に困ったときに後悔したくないなら、日頃から人間関係を円滑にしておくべきである。

 続いて、「情報の収集」も不可欠だ。病気のときこそ、情報はチカラとなる。とりわけ、がんは“情報戦”ともいわれるように、いかに情報にたどり着けるかどうかが生死を分けることもある。エビデンス(科学的根拠)に基づいた信頼の置ける情報や情報の入手先を知っておくことが重要である。また、がん患者が使える公的制度や勤務先の社内制度などの情報収入も欠かせない。

 最後に「経済的備え」である。前述のマンパワーが期待できないなら、それをアウトソーシングするための費用がかかる。たとえば、入院時のヘルパー代や通院時のタクシー代、退院後に買い物に出られないときの配食サービスの利用や、保証人を立てられない代わりに入院費用の一部を前払いするなどのケースである。つまり、おカネがおひとりさまの家族代わりとなる。

 また、おひとりさまのがん患者は、病気といっても、生活のために働かなくてはならない。それだけ働けなくなったときのダメージは大きい。したがって、職場復帰に備えて外見や体調管理、QOLの維持にかかる費用も削れない可能性が高い。いずれにせよ、これらの経済的なリスクに備えるためには、預貯金(生活費×3カ月~半年分)やがん保険、医療保険などを活用しておきたい。

 このほかにも、がんの治療が始まる前に退院後の準備(食料品・生活雑貨等の買い置きなど)をしたり、容態が急変したときに備えて、緊急連絡先などを記入した救急医療情報キットを自宅のわかりやすい場所(玄関先、冷蔵庫など)に置いておいたりするのも大切だ。

 最近では、おひとりさまのがん患者を対象にした患者会なども発足して、単身者にしかわからない悩みや問題を共有する場も設けられている。

 おひとりさまだからといって、必要以上にがんを恐れる必要はない。ただ、イザというときの備えと日頃の健康管理や予防は重要だということだ。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

黒田尚子/ファイナンシャル・プランナー

 1969年富山県富山市生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年、株式会社日本総合研究所に入社。在職中に、FP資格を取得し、1997年同社退社。翌年、独立系FPとして転身を図る。2009年末に乳がん告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバー、NPO法人がんと暮らしを考える会理事なども務める。著書に「がんとお金の本」、「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「入院・介護「はじめて」ガイド」(主婦の友社)(共同監修)など。近著は「親の介護とお金が心配です」(主婦の友社)(監修)(6月21日発売)
https://www.naoko-kuroda.com/

急増する「おひとりさま」の「がん患者」、日頃から絶対しておくべき「備え」とは?のページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!