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江川紹子の「事件ウオッチ」第82回

金子恵美、鈴木貴子議員批判などへの違和感…それは本当に「特権」なのか?過剰な反発が自分の首を絞める

文=江川紹子/ジャーナリスト

自分が“損”をしているという“錯覚”

 安倍政権は、重要政策のひとつに「女性の活躍」を掲げている。現実には、子育ての負担は母親のほうが父親より大きい場合が多い。そのハンディを補うためのサポートを充実させることは、政権にとって最重要課題のはずだ。しかも、今回の件は規則上なんの問題もないのに、金子氏の上司である高市早苗総務相からも、内閣府特命担当大臣(少子化対策担当、男女共同参画担当)及び一億総活躍担当、働き方改革担当、女性活躍担当などを兼任する加藤勝信大臣からも、金子氏を擁護する声は聞こえてこなかった。

 眞鍋さんは、「自民党の中から誰か、子育て中の議員さんは全力でサポートします、それで何がいけないんですかって言ってほしかった」とも言っていたが、まったく同感である。

 民進党の蓮舫代表が、金子氏を非難したのも残念だった。蓮舫氏はFacebookで「公用車で子どもを保育園に送迎。『運用ルール上問題ない』と言い切る考えに全く共鳴も、理解もできません。議員会館にある保育園。ならば、会館まで自力で行き、そこから公用車で総務省に出勤すれば済む話です。公私混同の感覚が絶対的に欠如してます」と書いた。

 いくら都議選の最中だからといって、ここぞとばかりに自民党議員への非難に便乗すればいいというものではないだろう。社会をよくすることより、目先の敵をたたくことを優先するというのは、政権交代を狙う野党第一党の党首として、あまりに情けない。

 子育て中の親は、同じ職場の同僚に比べ、仕事をするうえでさまざまなハンディを負う。それをできるだけ補うサポートがあれば、対等な競争が可能になるし、そうすれば職場は多様な人材を生かすことができる。今、子育ての最中の親たちだけでなく、これから子どもを持つだろう若い世代も、安心して働く職場になる。子育てを通してさまざまな課題に気づいたり、その解決法を発見するということもあるだろう。それを生かせば、社会に、つまり皆にとって利益になるではないか。その積み重ねで少子化に歯止めがかかれば、大きな国益にもなる。

 ところが、ハンディを補うためのサポートが、あたかも「特権」を享受しているかのように見え、その人が得をしているかのように感じ、ひいては自分が損をしているように錯覚し、この「特権」を剥奪したいという欲求にかられてしまう、残念な人たちがいる。しかし、そういう発想では、世の中はなかなかよくならない。それどころか、自分の首を絞める結果にすらなりうる。

誤った“特権批判”をする前に

 バニラエアの車いすの乗客をめぐるトラブルでも、同じことを感じた。

 奄美空港で航空会社の社員から、車いすの男性が「歩けない人は乗れない」と言われ、腕の力で這ってタラップをのぼったことについて、同社は謝罪。同空港にも車いすで乗り降りできる設備を備えることになった。

 問題提起がなされ、それを契機に事態が改善される。そんなよい事例だ……と思っていたら、男性を非難する声がネット上で飛び交った。特に、男性が航空会社に事前連絡をせずに乗ったことへの非難が目に付いた。

 これに対し男性は、ブログで次のように答えている。

「(航空会社が車いす乗客の事前連絡を求めていることに)そもそも気づいてませんでした。航空券をネットでポチっと購入しただけ。いちいち他のページ見ますか?」
「事件後に明らかになりましたが、事前連絡したら、まず乗れなかったのですよー。設備がないことを理由に全て断っていたんです」

 すべての交通機関で、車いすの乗客も、事前に連絡する必要などなく、利用できるのが望ましい。現実には機材や人手が足りなく、事前連絡をしたほうが適切なサービスを受けられるという場合はあるだろう。しかし、それで体よく断られるということになれば、事前連絡が車いす乗客の排除につながってしまう。

 さらに驚いたのは、このブログに寄せられたメッセージだ。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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