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横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管

文=青木泰/環境ジャーナリスト
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 移管されたものについて横浜市は図表1のように説明し、これらが今回、汚泥資源化センターに設置された保管庫に移管されることになった。放射能汚染物がこれまで6年間も学校施設内に保管・放置しされてきたが、昨年6月21日付神奈川新聞やテレビ番組『噂の東京マガジン』(TBS系)で取り上げられ、学校外への撤去を求める保護者を中心とした市民の署名が数千近く集まり、交渉の結果、ようやく移管することができた。これまで学校などに保管してきたことを「安全に保管している」と教育委員会は説明してきたが、新たな保管庫が設置され移管されると「子どものそばに置いてはいけないもの」だったことを明らかにした。

汚泥資源化センター内の保管施設

 汚泥資源化センターは、JR鶴見駅東口から「ふれーゆ」行のバスに乗って約15分。終点にある、横浜市の焼却施設(写真3)とその焼却による熱を利用した温泉施設の手前にある。保管庫は、敷地面積約100平方mの建設物である。

横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管の画像2写真3:焼却炉の煙突

 この保管庫は、道路端の入り口からは全容は見えず、道路端から入って70~80mほどの開けた場所に、設置されていた。汚泥資源化センター内でも、外れた場所にあるため、同センターの職員でも傍に来ることさえないような場所である。その意味では、放射能汚染物を周辺に影響なく保管する場所としては、ある意味で最適の場所である。耐震性も考えた建設物であり、3200万円をかけてつくり、年間50万円の借地料がかかるという。それらはすべて東京電力に請求することになっている。

横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管の画像3写真4:保管場所の全容

 保管庫は、同じ屋根の下で2つの保管場所に区切られている。左側は、指定廃棄物の保管場所であり、これは環境省が管理する場所である。日常的には環境省から委託されている横浜市が管理している。右側はそれ以外の放射能汚染物の保管場所である。前者は1部屋、後者は3つの部屋に区切られているが、それぞれに入り口が設けられ、相互の保管場所は内部でも遮断され、別の保管場所であることを表している(写真4)。

 建物に向かって左側の保管庫には、指定廃棄物(8000Bq/kg以上の汚泥)が保管され、これは現行の原子炉等規制法による基準の100Bqを80倍も超える高濃度の汚染廃棄物であるため、法律上も環境省が管理することが決められている。その数は17校でドラム缶22本分である。実際の管理は横浜市が行っているが、左右の入り口を分けているのは、管理が別であることをはっきりさせるための設計だと考えられる。容器はドラム缶(雨水利用施設内の汚泥・汚染廃棄物)、ペール缶(空間線量基準値以上)、プラスチックケース(空間線量基準値未満)の3種類に分けて収納されていた。

横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管の画像4写真5:指定廃棄物の設置場所

 右側の保管場所は、8000Bq/kg以下の汚泥を入れたドラム缶109本と、除染土壌を入れたプラスティックの容器などが保管されている。右側の入り口から中に入ると、正面と左右の3つの部屋に分かれ、左右にその109本が収納されていた(写真5)。正面には奥の壁に沿って棚が設けられ、この棚に写真のようにプラスチィックケースや、ペール缶に入れて保管されていた。なお除染土壌の中には、8000Bq/kg以上の汚染レベルのものもあった。

横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管の画像5写真6:汚染廃棄物の設置場所

 保管場所の壁の厚さは、コンクリートで約23cmの厚さがあり、放射線の影響防止を考え必要とされる約22cmより厚くしていた。

 見学会を呼びかけた井上菜穂子さんは、子供を通わせている学校校舎内に高濃度の放射能汚染物である指定廃棄物が保管されたことを聞いた直後から、その廃棄物を学校外の安全な場所へ移管するよう求めてきた。

 今年1月には保管場所が完成すると聞き、学校に保管庫へ移管されたかどうか問い合わせたが、移管したかどうかさえ見せてもらえなかった。この見学会で移管されたドラム缶の学校名表示を見て、初めて移管を確認したという。改めて保管庫に収容された大量の放射性汚染物を見て驚いたという。

なぜすべて移管しなかったのか?

 横浜市では、学校や保育園の教育施設外に移管することを求める署名(18団体約・5000筆以上)が提出され、保管開始6年後の今年3月末にようやく移管された。しかし、校庭や園庭に埋め立てたものは、依然としてそのまま放置されることが暗黙の前提になっている。横浜市は放射能汚染物の移管を公表しながら、この埋め立て処理の件は正確に説明していない。

 学校等に保管されていた放射能汚染物を移管するに当たっては、汚染濃度を測り、爆発の危険性などを考慮し、移管を行う基準が客観的に示されるべきである。ところが、そのような統一基準は示されていない。

「神奈川・子どもを守りたい」の川島みどり(仮称)さんは、次のように語っている。

「福島第1原発事故当時、横浜市には高濃度の放射性物質が風や雨に運ばれ降り落ちました。放射性汚染物は、雨水利用施設を使っている校舎の屋上だけでなく、校庭や園庭にも例外なく降り落ちました。そこで各学校では、教育委員会の指導の下に測定器(空間線量計)を使って地表面の高いところをチェックし、汚染度の高いところをかき出したのです。こうして集められたのが除染土壌で、各学校ごとにビニール袋などに入れて、保管してきました。

 その後、市はしばらく放置したあと、除染土壌の汚染濃度を直接図るのではなく、1cm離れて図る空間線量計で測り、『空間線量が0.59μSV/h(時間当たりマイクロシーベルト)未満なら安全なので埋める』という方針を示し、学校4校(校名は公表)と保育園300園(17年2月、保育園担当課長談)で敷地内に埋設しました。『埋めるのは不安』『埋める場所がない』などの理由でごく一部の学校や保育園では埋め立てず、施設内に保管していました」

「今回移管されたのは、その施設内に保管していたものであり、埋め立てたものは、ほとんど移管されていません。理由は、10センチ以上の土壌で被せ、その場所を測定すると安全だと確認されたからということです。しかし今埋め立てて安全だといっても、校庭や園庭は汚染物の埋め立て処分場ではありません。いつ子どもたちが掘り出したり、風雨にさらされ、天変地異によって露出し、放射性物質の影響を受けるかもわかりません。汚染物自体の汚染濃度を測るよう横浜市に求めてきましたが、市はその測定すら行っていないのです。」

 横浜市は、汚染物は、土壌をかぶせて埋め立てているから、地上は安全だとしている。子どもを通わせている親からすれば、放射能汚染物をなぜ校庭や園庭に埋め立てたままにするのかが心配になるが、何度その点を質問しても「これまでやってきたことに間違いはない」といったお役所的な答弁しか返ってこない。移管実施の基準をどのように定めたのかさえ、はっきりしないのである。

 横浜市の発表は図表1で示した通りであり、移管された放射能汚染物は前述の通りだが、この説明で欠落しているのは、今後も汚染物が敷地内に埋設されている保育園の名前と、その理由である。保育園は300園前後にも及ぶ。なぜ除染土壌を含め、全量を移管しなかったのか、大きな疑問が残る。現状で埋設処理した除染土壌といえども、なぜ保管庫に移管しないのか。現行の保管場所を見ても、2層、3層に保管することを考えれば、容量スペース的には保管が十分可能と考えられるが、そのような質問にも答えていない。

素朴な疑問

 横浜市の市場小学校の室井克之校長はもともと理系の技術者であり、民間企業へ就職した経験を持ち、放射能汚染物の影響には、特に関心を持って、心配していたという。横浜市教育委員会が除染で集めた除染土壌を、学校施設内に埋め立て保管するように求め、その指導が行われたときにも、室井校長は「学校などの場合、管理の担当者が変われば、どこに埋め立てたのかがわからなくなる。放射性物質は半減期が数十年以上かかるものもあり、埋め立て保管すれば、学校施設の変遷のなかで、子どもが直接接触したり、放射線による影響を受けたりすることが心配なので、埋設処理を断り、学校施設内に保管を続けてきた」と言う。そのため、今回は移管対象になったが、その時に埋め立て保管していたら、今回の移管対象になっていなかったおそれがある。

 今回の移管に当たって、「神奈川・子どもを守りたい」が横浜市に要望しているのは、300園もの保育園に埋め立て処理を続けているのはどの保育園なのかを明らかにし、その上でその事実を保護者に話をし、すぐに移管してほしいという当たり前の内容である。

横浜市、小中学校等の校庭地中に放射能汚染物を放置…場所等を公開せず、保管庫設置・移管の画像6質問と要望書

 1年前に東京都知事に就任した小池百合子氏がまず強調したのは、情報を公開して事実を都民に伝えることであった。また森友学園問題や加計学園問題でも、行政情報が廃棄されたり「怪文書」扱いされて、民主主義の基本となる情報公開が問題となった。横浜市でも放射能汚染物を教育施設以外に移管するための保管庫が設置されたのに、移管から取り残されるものがあることがわかった。

 横浜市長選が始まったが、この事実を明らかにし、すべての学校や教育施設から放射能汚染物を撤去するということが、新市長にも要請されることであろう。選挙戦のなかで各候補者は、今後の方針をどのように示すかに注目したい。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

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