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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

コレステロール降下治療、がんや自殺等での死亡リスク増…低数値の高齢者は知力低下も

文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士
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 Muldoonのメタアナリシス研究が扱っているデータは介入研究である。そのため観察研究データに比べ格上の説得力を持っている。そしてこの分析の対象年齢は40歳台である。コレステロール高値が心臓病リスクを高めるという関係がとても明瞭に表出する世代である。そういう世代であっても、コレステロール値を下げる治療・療法は、健康リスクを総合するとなんの得もないということになる。

 ところでこの研究は男性に対するものだ。女性も含めるとどうかという疑問が浮かぶが、女性の健康リスクとコレステロールの関係は男性の場合とまったく異なる。女性は40歳台では男性よりコレステロール値は低い。閉経を迎えることで高くなる。閉経期以降の女で250mg/dl程度のコレステロール高値が健康リスクを高めるという疫学データは、筆者の知る限りいまだ確認されていない。ミドルの女性では健康状態のリスク要因としてコレステロールの寄与度は男性に比べかなり低いといえる。

要介護リスクとコレステロールの関係

 さてここまでは、コレステロール値を下げる療法の有益性を総合的な健康指標である死亡リスクと結び付けてきた。筆者らはさらに超高齢社会を見据え、要介護リスクとコレステロールの関係を明らかにした(東京都健康長寿医療センター研究所、小金井研究)。

 平均年齢が71歳のシニア集団を男女別、コレステロール値別(三分位)に低(男性137-189,女性150-208mg/dl)、中(男性190-212,女性209-238mg/dl)、高(男性213-276,女性239-316mg/dl)のグループに分け、その後2年間に高次生活機能「手段的自立」(金銭管理や家の中を整理、整頓、掃除する能力など)、「知的能動性」(情報を収集、創作、余暇活動の能力)、「社会的役割」(人を愛しみ、思いやる能力)それぞれの能力低下者の出現率を比較した。

 その結果、いずれの高次生活機能でも最も低下者の出現率が高かったのは、コレステロール値が低いグループであった。特にこの関係が際立って明瞭だったのが、「知的能動性」と「社会的役割」であった。いわゆる知的生活と社会交流にかかわる能力だ。コレステロール値が低いことは「知」と「心」の老化を早め要介護リスクが高まるといえる。この研究データは観察研究だが、老化に伴うコレステロール値の低下を防ぐ食事を実践しすると、「知的能動性」をはじめとする高次生活機能の低下が遅れることを筆者らは介入研究で確認した。

 コレステロール値を下げること、あるいは低いことの健康リスクは幅広いライフステージのさまざまな健康変数で確認できる。忘れてはならない健康科学の情報である。
(文=熊谷修/東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、学術博士)

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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