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「奇跡の逆転満塁弾」2007年夏の甲子園 佐賀北優勝の舞台裏

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※画像:『佐賀北の夏 甲子園史上最大の逆転劇』『佐賀北の夏』

 10年前、2007年夏の甲子園決勝は、佐賀北(佐賀)と広陵(広島)の闘いだった。

 高校野球ファンなら、近年の高校野球でもっともドラマチックな試合として記憶に残っているのではないだろうか。「甲子園には魔物が棲んでいる」とか「野球の神様」といった、使い古された言葉が思わず頭に浮かぶような試合だった。

 結果からいえば、「佐賀北の“奇跡の逆転勝利”」だ。しかし、本当にそれは「奇跡」だったのだろうか?

■2007年甲子園決勝「奇跡の逆転満塁弾」が生まれるまで

 『佐賀北の夏 甲子園史上最大の逆転劇』(中村計著、新潮社刊)では、前年夏、佐賀県大会で1勝もできなかった佐賀北が、なぜ甲子園に出てきた名だたる強豪私立を立て続けに撃破し、日本一になれたのか、緻密な取材から佐賀北優勝の軌跡に迫る。

 なお、本書は2017年7月に集英社文庫より「あれから十年のインタビュー」を追加した完全版『佐賀北の夏』が出版されているが、この記事では新潮文庫版を取り上げている。

 佐賀北は県立高校だが「普通の公立校」というわけではない。野球部には1学年当たり7人のスポーツ推薦枠が与えられており、レギュラーメンバーのほとんどはスポーツ推薦の選手たち。県内ではそれなりに名の通った選手たちの集団だった。ただし、あくまでも「佐賀県内で」という但し書きがつく。全国レベルで見れば「強豪校」とは程遠い。

 あの夏、準々決勝で対戦した帝京は、全国レベルの強豪校の代表格だ。全国制覇3回の実績を持つ、「高校野球のシンボル」的な高校と、九州でもっとも少ない参加校数41校の佐賀県代表の公立校。データを突き合わせる限り、帝京優勢というのが大方の予想だった。

 ただ、結果は予想と逆になった。 数段格上と思われていた帝京相手に、佐賀北ナインはまったく臆することなく競り合い、延長の末、4-3で押し切ってしまう。

 帝京の監督、前田三夫は敗戦後「長打の選手は長打、単打の選手は単打と、役割分担がはっきりしていた。それがあの集中力を生んでいたんじゃないかなあ」と語っている。

 小粒ななかにも「大物打ち」と「繋ぎ屋」がいる。勝ち進むなかで「勢い」ばかりが注目されていたが、この年の佐賀北の打線はなかなかの曲者だったのだ。

 その攻撃巧者ぶりが存分に出たのが、今でも語り草になっている決勝戦だった。

 0-2で進んだ試合は7回表に2点を追加され、広陵が4点リード。後攻めの佐賀北は6回まで野村祐輔(現・広島東洋カープ)の前にわずか1安打。「手も足も出ない」といった状態だった。この日の野村なら4点あればまず間違いない。誰もが「広陵の優勝」を確信していたはずだ。

 広陵の横綱相撲に小さなほころびが出たのは7回裏のことだった。バックネット裏を中心にぽつぽつと手拍子が起こり始める。この回の佐賀北は3者凡退。しかし、8回表、佐賀北が1死2塁のピンチを乗り切ると、手拍子の波は徐々に大きくなっていた。

 8回裏の佐賀北。ヒット2本と四球で一死満塁とすると、手拍子は最高潮に達した。この時のことを、広陵の捕手だった、小林誠司(現・巨人)は、「球場全体が、があああって、揺れるんです。ぐおおおって」と振り返る。

 マウンド上の野村も球場の雰囲気の異変を感じ取っていた。 「声援で、グラッとくる。ベンチよりもグラウンドの方が揺れる。広陵のアルプス以外は、佐賀北の応援みたいな感じでしたからね」(野村)

 動揺があったか、野村は佐賀北の2番・井出和馬に押し出しの四球を与え、スコアボードの待望の「1」が灯る。5球目の際どいコースを「ボール」と判定され、野村は目と口を大きく開いたまま、しばらく固まっていた。この後の気持ちの切り替えについて問われると、「切り替えられなかったですね」と答えている。

 この日の審判は辛かった。それ自体は両ベンチともすでに了解済みだった。ただ、ある選手が「回によってストライクゾーンにばらつきがあった」と指摘するように、あの8回裏に、ストライクゾーンの高低が一層狭まったかのように見えたことも事実だった。

 次の打者は、チーム内で「チャンスに弱い男」というレッテルを貼られていた副島浩史。カウントは1ボール1ストライク。野村のこの日125球目がど真ん中に吸い寄せられていったのは、あるいはストライクゾーンの揺れに戸惑った影響があったのかもしれない。

 「打った瞬間は、ホームランだとは思わなかった。感触がなかったですからね。よくてもレフトを越えるくらいかな、って。だから一塁まで全力疾走でしたよ」と、副島は振り返る。

 副島の打った打球は、満員のレフトスタンド前段に吸い込まれた。逆転満塁ホームランで5-4。佐賀北が試合をひっくり返したのだ。

 ◇

 甲子園を見ていると、信じられないような結末に終わる試合が、毎年ある。

 それが「奇跡」なのかは誰にもわからないが、たとえ奇跡だったとしても、そこに至る過程があり、高校野球の魅力はその過程にあることは本書が物語っている。

 前年県大会初戦敗退の公立校が、強豪校を次々と破り、全国制覇を成し遂げたのはなぜか。本書を読めば、あの逆転劇が「ただの奇跡」ではないことがわかるはずだ。
(T・N/新刊JP編集部)

※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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