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『君の名は。』再来なるか?東宝・川村PD×新房&シャフトの『打ち上げ花火』レビュー

文=増當竜也

 ここ数年、メジャー&マイナー問わず、国産アニメーション映画の動向から目が離せなくなって久しいものがあるのだが、その理由のひとつには監督のチョイスも挙げられる。特に東宝は昨年メガ・ヒットを飛ばした新海誠監督の『君の名は。』(2016年)のように実力のある新たな人材をメジャー・シーンへ引っ張り上げる意欲を示し続けており、その意味では『バケモノの子』(15年)の細田守監督も、『メアリと魔女の花』(17年)の米林宏昌監督も同様で、そして今回、彼らが選んだのは何と新房昭之であった。

 新房昭之といえば『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズ(テレビシリーズ:11年/映画版:12~13年)や『物語』シリーズ(12年~)などでおなじみの、毎回シュールな映像&音響センスを前面に押し出しながら悪夢的かつ魅惑的な世界を描出することに長けた才人だが、どちらかといえば現在の国産アニメ業界の中ではカルト的存在といったイメージを強く抱いていたので、今回のプロデューサー川村元気の冒険心にまず感服してしまう。

 川村元気はこれまで『電車男』(05年)や『告白』(10年)『モテキ』(11年)『おおかみこどもの雨と雪』(12)『バクマン。』(15)『君の名は。』など、実写&アニメの区別なく今の映画観客が見たくなる作品をプロデュースしてきた日本映画界の寵児といってもいい。しかもそんな彼が今回選んだ題材が、何と岩井俊二監督の出世作ともなったテレビドラマ『打ち上げ花火 下化や見るか? 横から見るか?』(93年)のアニメ化ときたから、リアルタイムで接してきた世代としても脳天直撃の衝撃なのである。

打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』は、90年代にフジテレビ系列で放送されていた『ifもしも』シリーズの1編として作られたもので、要は各々のドラマが進行していくなかでの重要なポイントで「もしも、あのときこうしていたら?」という2つの選択肢を提示していくもの(オンエアの際は、毎回タモリがストーリー・テラーを務めていた)。『打ち上げ花火~』の場合、プールの50メートル競争で勝ったほうと駆け落ちすると、少女なずなに持ち掛けられた2人の少年のどちらが勝つかでドラマが分岐していき、そのなかから少年少女の淡い思春期の目覚めを麗しく醸し出していく好編であった。

 この作品で岩井監督はテレビドラマとして初の日本映画監督協会新人賞を受賞するなど彼の出世作となり、95年には再編集を施したバージョンが劇場公開された。

 今回、この名作テレビドラマのアニメ映画化ということで注目していたのは、原作ドラマそのものは50分弱の尺なのに対し、映画は90分ほどの長編になるということ。では映画化に際してどのようなエピソードが加えられ、またどういったアレンジが施されていくかであったが、今回の脚本を手掛けるのが、何とこれまた『モテキ』『バクマン。』など現代の日本映画界をリードし続ける作品を連打する大根仁と来た。

 しかも実は彼、ドラマ版『モテキ』(10年)で『打ち上げ花火~』のパロディを披露するなど、もともと原作ドラマの大ファンだったこともあり、今回の任にもっともふさわしい人物であったともいえるだろう。

 また、新房昭之は総監督で、その下に監督として武内亘之が就いているが、『千と千尋の神隠し』(01年)などのスタジオジブリ作品の原画を務めたキャリアを持つ武内は『物語』シリーズのプロダクション・デザインを、新房総監督の映画『傷物語』3部作(16~17年)では美術設定を務めており、その意味でも今回の立場を違えたコンビネーションも期待したいところなのだ。

 そしてもちろん制作スタジオは、新房が長年創作の拠点とするシャフトである。

 かくして、ようやく完成したアニメーション映画『打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?』だが、いざ見始めてしばらくの間は、こちらの期待が過剰に高すぎたせいか、原作のTVVドラマに素直に即した展開と、新房作品ならではのサイケな映像センスも影を潜めてオーソドックスな絵柄で物語が進んでいくので、どこか拍子抜けした感も否めなかった。

 だが、少しずつそういった流れにこちらも慣れてくると、次第に本作が少年の目線で異性たる少女を、ときめきおののきながら見据えていく思春期映画として屹立していることに気づかされていく。原作ドラマでは小学校高学年という設定だったが、今回は中学生に変更してることで、その意向はなおさら強まっている。

 最初の頃は、ヒロインなずなの描き方が妙に深夜アニメ風なエロっぽいアングルで捉えられていたり、お決まりの微妙な胸の揺れ具合など、こんな表現をメジャーな映画でやって大丈夫かいな? と心配したりもしてしまった。だが、ある瞬間ふと、この作品があくまでも思春期を迎えたばかりの少年の目線で貫かれていることに気づかされるや、同級生少女の胸のふくらみなどの色香が妙に気になりだしたり、一方でそういった思考が卑猥に思えて自己嫌悪に陥ったり、ついには彼女らとまともに目を合わせるのが恥ずかしくなっていくといった“あの頃の自分”を思い起こしてしまうとともに、俄然この作品の繊細な趣に引き込まれてしまったのである。

 そもそも、原作ドラマにおける岩井監督のヒロイン(奥菜恵)を見据える目線もまさにそれであった。ただし、今回女性客がこういった描写を見てどう思うかは、聞いてみたいところではある。世代によってもかなり印象は異なることだろう。

 やがて原作ドラマで描かれていたパートから、ドラマは徐々にアニメオリジナルの展開へと突入していく。それが具体的にどういったものであるかはネタバレになるので書くことはできないが、一つだけ確実に言えるのは、そもそもの原作ドラマの基点となる“if もしも”という要素が、本作では「こうあってほしかった」といった悔恨の念ではなく「こうなるかもしれない」という少年少女の未来の可能性の拡がりを示唆していることである。

 振り返るに、原作ドラマにおける“if もしも”という要素には、70年代のNHKの「少年ドラマシリーズ」以降顕著であった、時を行き交うSFジュヴナイルものの影響が多分に感じられてならないのだが、そういった時空の超越は時間を自由に操るのではなく、逆に時間の呪縛に遭うものが圧倒的に多い。それは大林宣彦監督の『時をかける少女』(83年)も、その続編的資質まで備えた細田守監督のアニメ映画版(06年)も同じだが、今回の作品に関していえば、その呪縛を突き破っている。これは原作の岩井俊二、脚本の大根仁、総監督の新房昭之、それぞれがやはりSFジュヴナイル世代であることとも無縁ではないように思えてならない。

 ドラマ後半における映像センスも徐々に新房作品ならではの幻惑的な(しかしながら今回はさすがに悪夢的にはならない)ものへとシャフト、いやシフトしていく。クライマックスのカタルシスなど陶酔しまくり、観賞後の余韻からしばし覚めたくなくなるほどだ。

 ヴォイス・キャストとしては、広瀬すずの上手さは『バケモノの子』で把握していたが、今回はそこにほのかなエロティシズムを醸し出す好演で、中盤、実は80年代アイドル世代の脳天を直撃するものすごいシーンも用意されている(私はそこでノックアウトされた)。

 また今回は菅田将暉の初々しさと芸達者なところを両立させた声の演技にも魅了される。ホント、『仮面ライダーW』からインディーズ映画の秀作群、そして実写版『銀魂』にアニメの中学生男子まで、何でも多彩にできる若手だなと、改めて感服。これはこれでまた女性ファンは増えるのではないか。

 もっとも、宮野真守をはじめとするプロ声優陣のサポートも実に巧みで、やはり彼らの支えあってこその好演なのだなと、そのアンサンブルの良さにも唸らされた。

 神前暁の音楽の良さもさることながら、エンドタイトルの主題歌『打上花火』の余韻が、鑑賞後に場内が明るくなって、そのまま電車に乗って帰宅するまでずっと離れない。それどころか、そのメロディを思い返せば返すほど、ジワジワと作品の感動が色鮮やかになっていく。

『君の名は。』に続き、東宝はまたも快挙を成し遂げた。あとはどのくらいヒットするかだが、さすがに『君の名は。』はもはや例外中の例外としても、それに続く大ヒットを祈りたいものである。

 いいもの見させていただきました。
(文=増當竜也)

増當竜也

増當竜也

鹿児島県出身。朝日ソノラマ『宇宙船』『獅子王』、キネマ旬報社『キネマ旬報』編集部を経て、1998年よりフリーの映画文筆業に就く。

Twitter:@shadowlands1993

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