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炭水化物の摂取量が増えると死亡率も上がる?日本糖尿病学会推奨の食事に矛盾

文=吉田尚弘
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炭水化物の摂取は少ないほど、脂肪の摂取は多いほど健康に良い

 これまでの医学・栄養学の常識では、以下のように考えられてきました。

「脂質(特に動物性脂肪である飽和脂肪酸)の摂取がLDLコレステロール値を上げ、生活習慣病を生み出す。したがって、総脂肪および飽和脂肪酸の摂取量を減らすことが、生活習慣病の予防につながる。脂質の摂取量を減らした分は炭水化物の摂取量を増やせばよい」

 これは1950〜1960年代に発表された研究報告に基づき作成されたアメリカのマクガバンレポート(1977年に発表された、アメリカ人の食事による改善方法が掲載されたレポート)などでも提唱されています。

 しかし、今回の研究報告は、それを真っ向から覆す内容です。実は今回の研究以前にもマクガバンレポートに合致しない臨床研究はいくつも報告されていますが、規模が小さい、あるいは、特定の国での観察研究であるなどとして信頼度は低いとされてきました。

 今回の追跡研究は、さまざまな国の人々を長期間にわたって追跡したものです。だからこそ世界で1、2を争う臨床医学のトップジャーナルである「ランセット」誌に掲載されたのです。

 つまり「脂質の摂取を減らして炭水化物の摂取を増やしたら全死亡率と脳卒中のリスクが増える」ということが、はっきりと示されたわけです。

炭水化物摂取量60%以上は避けるべきである

 では、具体的にはどの程度の炭水化物を摂取したらいいのでしょうか。

 この研究では、炭水化物の摂取量が60.8%以上の群では、死亡率が上昇するという結果が出ています。日本人の多くは、このぐらいの糖質摂取量になっているのではないでしょうか。「粉もん」が大好きな地域や、小麦の麺で地域おこしを推進している地方自治体のみなさんは大丈夫でしょうか。

 ただし、この研究では46.4%あるいは54.6%の炭水化物摂取率が健康に良いという結果は示されませんでした。このことから、研究者らは「糖質摂取量を大きく絞る糖質制限は推奨しない」としています。

 ちょっと笑ってしまいましたが、これはアンケートによる前向きコホート(追跡)研究の限界であるともいえます。2003年から2013年にかけて普通に生活している人たちの食事内容を分類したものです。糖質制限が実践され始めている2017年の現時点と異なり、20%以下に糖質制限している人々のデータがほとんど存在しません。

飽和脂肪酸摂取量の極端な低下は危険ですらある

 この研究の画期的な点は、脂肪酸の摂取量(特に飽和脂肪酸)の少ない(カロリー比で10%以下)の人々をたくさん含んだ、初めての大規模研究であるということです。

 過去の北米およびヨーロッパ諸国の研究では、参加者の50%がエネルギーの10%以上を飽和脂肪酸で摂取していましたが、今回の研究では参加者の50%がエネルギーの7%以下、75%で見ても10%以下の飽和脂肪酸の摂取量しかなかったのです。

 これによって明らかになったのは「飽和脂肪酸を摂取エネルギーの10%未満に制限するべきである」とする現在の栄養ガイドラインは間違いであるということです。

 さらに低い飽和脂肪酸の摂取量(エネルギーの約7%未満)だと、有害である可能性すらあります(ただし、飽和脂肪酸の摂取量と臨床結果の関連性は非線形であり、ほかの栄養素とのバランスに影響される可能性があります)。

 また、飽和脂肪酸だけでなく、一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸の摂取量も全死亡率と逆相関し、主要な心血管疾患、心筋梗塞、および心血管疾患との相関はなかったのです。

 これらの結果は、社会経済的状況(教育、家計所得、家計、国の収入レベル、農村部と都市部の細分)を考慮にいれて調整しても変わりませんでした。

炭水化物摂取は60%を超えない、飽和脂肪酸摂取は10%を超えるべき

 長々と説明しましたが、このデータから導き出される結論は、「炭水化物摂取は60%以下にするべきであり、飽和脂肪酸は10%以上摂取するべきである」ということです。

 日本糖尿病学会が推薦し続けている「炭水化物摂取量は必ず60%摂取し、脂質摂取量を減らしてカロリー制限すべきである」という食事指導に真っ向から反対するものです。

 以前、職場にいた2型糖尿病の方のお昼ごはんは「かけそば+稲荷ずし2個」のような炭水化物オンリーの食事内容でした。「なぜそんな危険な食事にするの?」と聞いたら、「カロリー制限を守るにはこのような糖質+糖質の食べ方しかない。動物性脂肪の飽和脂肪酸が体に悪いから、できる限り避けるべきだと主治医に言われている」という返事でした。糖質制限を何度もお勧めしたのですが、「主治医と相談したが、せっかくカロリー制限でうまくコントロールできてるのだから、わざわざ危険を冒すべきではないということになった」という返事でした。

 今回のランセットの研究結果を読み、考えを変えてくれたらいいなと期待しております。
(文=吉田尚弘)

吉田尚弘(よしだ・ひさひろ)
大阪市内のクリニック勤務。1987年 産業医科大学卒業、熊本大学産婦人科に入局、産婦人科専門医取得後、基礎医学研究に転身。京都大学医学研究科助手、岐阜大学医学研究科助教授後、2004年より理化学研究所RCAIチームリーダーとして疾患モデルマウスの開発と解析に取り組む。その成果としての<アトピー性皮膚炎モデルの原因遺伝子の解明>は有名。
その傍らで2012年より生活習慣病と糖質制限について興味を持ち、実践記をブログ「低糖質ダイエットは危険なのか?中年おやじドクターの実践検証結果報告」を公開、ドクターカルピンチョの名前で知られる。2016年4月より内科臨床医。

連載「肥満解読~痩せられないループから抜け出す正しい方法」バックナンバー

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