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桃太郎伝承の鬼ヶ島にモアイ像が!? SNS全盛のいまだから読みたい、アナログ探検『日本の奇譚を旅する』

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『日本の奇譚を旅する』

 人は誰でも不思議なもの、自分の理解を超えたものに心を惹かれるものだ。それはきっと、それが日常を突き抜けて非日常へと連れて行ってくれる、秘密のパスポートのようなものだからだろう。だが、そういった不思議に遭遇したとき、深く考えることをせず、頭のなかのいいね!ボタンを押すだけに留めるか、それとも本当に人知を超えているのか、あるいはどこかにトリックがあるのではないかと、とことん追求せずにはすまないかは人それぞれ。

 今回紹介する『怪しい噂体験ルポ』の著者、友清哲氏は間違いなく後者の人種であり、スマホを通して不思議の世界を覗くだけでとりあえず満足しがちなイマドキの読者に変わって、日本中の奇妙な噂を自分の目と足で確かめに出かけてくれる。

 たとえば、誰もが知っている桃太郎伝説。

 空想の物語だと思われているが、瀬戸内海の香川県沖に、桃太郎が鬼を退治に出かけた「鬼ヶ島」が実在するとの噂を聞いて、著者ははるばる出かけてゆく。香川県高松市の高松築港からフェリーで20分のその島は、女木島(めぎしま)という正式名称を持ちながら、フェリーの行き先案内にも「女木島(鬼ヶ島)」と表記されている。まさか本当にこの島には鬼が実在したのか……? そんなドキドキ感を胸に上陸した島は風光明媚なロケーションで、かわいらしい鬼の像や看板が出迎えてくれる。なぜか、イースター島にあるはずのモアイ像まであるという珍妙さ。なんでも高松市内の重機メーカーが、イースター島のモアイ修復を請け負ったときに、テスト用に作ったものなのだとか。こんなアンバランスな出会いも含めて、読者は著者と一緒に冒険の旅をしている気分になる。島内にある「鬼の大洞窟」には、宝庫や監禁室、鬼達の宴会場だったとされるスペースがあって、ちょっとしたダンジョン探検の気分だ。

 実際の足を使ったフィールドワークとともに、著者は古い資料を調べあげ、女木島の桃太郎伝説を検証する。桃太郎のモデルは第七代孝霊天皇の皇子、稚武彦命(わかたけひこのみこと)であるとか、桃太郎の伝承をお伽話化したのは菅原道真ではないかといった話を読んでいるうちに、最初は「本当かよ?」と桃太郎の実在に対して眉に唾をつけていた読者も、「やっぱり実在したのかも…」と、まるで秘密の宝箱を見つけたような気持ちになってくる。

 あるいは、日本を代表する未確認生物として、一世を風靡(?)したつちのこをいまだに探し続けている村があると聞きつけ、その場所─岐阜県東白川村まで出かけていく。

 空想の生物や見間違いとして片付けるには、あまりに古くから目撃情報が重ねられているつちのこ。昭和62年の有名な目撃談を始め、つちのこに関するエピソードに事欠かないこの村では、つちのこを生け捕りする計画がイベント化し、毎年5月3日の憲法記念日に「つちのこフェスタ」として村をあげてのお祭りが行なわれているのだ。だが著者も参加したその催しは、地元のブラスバンドや和太鼓の演奏が行なわれるなか、つちのこ探しも単なるイベントの一部と化していた。「古事記」や「日本書紀」、それに江戸時代の書物にも記されているほど何百年も前から目撃されながら、いまだにその尻尾を人類につかませないつちのこが、こんなやりかたで捕獲されるわけはないと、著者は早々に悟ることになる。

 そこで著者は、これまでつちのこが捕獲されたといわれる実例を検証していくのだが、肝心のこの日のイベントでは、案内役のおじさんに「つちのこ、実在するんでしょう?」と質問したところ、こんな答えを返されてしまう。

「いや、いないでしょ」。

 おいおい。そのあと、マズいと思ったらしきおじさんは、「あ、いや、うそうそ。この森のどこかにはいるんじゃないかな?」と言い繕うのだが、著者はそんなことでは諦めない。つちのこのホルマリン漬けが実在するという噂をこの目で確かめるために、徳島県の勝浦町にまで足を運ぶ。実際に目にしたそれは、つちのこかどうかビミョーな代物だったのだが、この本をケッサクたらしめているのは、気になったらなんでも自分の目で確かめずにおかない、著者の果敢なヤジ馬精神なのである。

 なんでもスマホの検索ひとつで答えが出て来るようなこの時代、我々は指先一つですべてがわかったような気になりすぎているのではないか? 気になったものは、実際に足を運んで検証する著者のスタイルは、忘れかけていた少年時代の冒険心を思い出させてくれるようで、読んでいて清々しい。加えて全編通してどことなくユーモラスな味わいなので、おトク感がある。フリーライターでもあり編集者でもある著者は、「はじめに」で、「本書は一介の物書きが、できるだけロマンにほだされないよう心がけながら、現場・現物主義をモットーに取り組んだルポルタージュである」と記しているが、その宣言通りの内容が、まさに不思議を覗いて確かめたいという、誰もが持っている普遍的な好奇心を満足させてくれるのだ。

 本書には、ほかにも、青森県にあるキリストの墓伝説や、カッパが暮らした村、UFO目撃多発地帯、地球が丸いことを誰も知らない時代に生きていたはずの聖徳太子が所有していたという地球儀など、思わず首を突っ込みたくなるミステリーが満載。秋の夜長に、本書を読んで冒険気分を味わえば、今度は実際に自分の足で探検に出たくなること請け合いである。

 (文=里中高志)

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