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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

通勤ラッシュ時、乗客数が多い首都圏鉄道路線ランキング…池袋駅に都市1つ分の人口流入

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
通勤ラッシュ時、乗客数が多い首都圏鉄道路線ランキング…池袋駅に都市1つ分の人口流入の画像1池袋駅西口(「Wikipedia」より/Kakidai)

 いまから6年前の2011年3月11日に発生した東日本大震災によって、首都圏では鉄道網が一時的にせよほぼ完全に寸断され、大量の帰宅困難者が発生したことは記憶に新しい。三菱総合研究所によれば、帰宅困難者は約860万人に上り、うち約260万人は帰宅を断念し、残り約600万人は徒歩で帰宅したという。東京都内の主要道路は徒歩による帰宅者、そして自動車によって大渋滞が引き起こされ、大きな課題を残してしまった。

 首都圏の鉄道への影響は震災翌日の3月12日中にはほぼ解消されたものの、週明けとなる3月14日には再び深刻な問題が発生してしまう。重大な事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所をはじめ、多くの発電所が震災の影響で満足に稼働できないなか、東京電力は日時や地域を定めて計画停電を実施した。

 この結果、JR東日本をはじめとする鉄道事業者は列車を満足に走らせることができなくなり、震災当日に匹敵する混乱が生じたのである。特に千葉県千葉市を代表するターミナルであるJR東日本千葉駅、京成電鉄京成千葉駅では東京方面に向かうすべての鉄道がストップし、両駅の構内は通勤、通学の足を奪われた人たちであふれた。

 首都圏で起きた一連の交通混乱の要因は、鉄道によって都心部に流入する人の数が極めて多いからだ。国土交通省は不通となった鉄道の利用者のためにバスの増便や終夜運転をバス会社に求めたというが、バスのもつ輸送力ではまったく歯が立たない。そのうえ、主要道路は大渋滞を呈しているので、鉄道に代わる交通機関として期待することは困難だ。結論を言うと、輸送力の大きな鉄道の代替となる交通機関はほかに存在せず、東日本大震災のように鉄道が広域でストップした場合は、復旧を待つほかないのである。

 そこで、各鉄道の輸送力を示していこう。例として挙げたいのは、首都圏、名古屋、京阪神の三大都市圏の都心部に鉄道によって流入する人の数だ。会社や学校に通う人々で平日の朝にはラッシュとなる。その数も取り上げるので、今後の帰宅困難者対策に役立ててほしい。

 算出に当たり、首都圏では東京・大手町・上野・飯田橋、五反田・目黒・渋谷、新宿、池袋の各駅方面、名古屋圏では名古屋、栄・丸の内の各駅方面、京阪神圏では大阪・梅田・京橋・北新地・北浜、天王寺、大阪阿部野橋、難波・谷町六丁目の各駅方面と、名だたるターミナルを目指す鉄道の利用者数をもとにした。地下鉄の多くはこれらのターミナル同士を結び、乗り換え先としての機能を果たしている。したがって、都心に集まる人の数を集計するという観点では重複が生じてしまうので、他の鉄道と接続せずに郊外から都心部に乗り入れる路線を除いて省いた(対象の路線・区間は文末の一覧をご参照ください)。出典はすべて『平成26年版 都市交通年報』(運輸総合研究所、2017年6月)で、調査年度は12年度だ。

首都圏

 全国最大の都市圏である首都圏のスケールは想像を絶する。12鉄道事業者の延べ40路線を利用して都心部に流入する人の数は、平日1日当たり732万人だ。埼玉県の人口に相当する人々を運ぶため、鉄道事業者は1列車当たり8.7両編成の列車を9593本走らせ、定員ベースで1156万人分の輸送力を用意している。

 路線バスの定員は、メーカーであるいすず【編注:「 ず」の正式表記は踊り字】によると最も多いもので1台当たり89人だという。仮に732万人の輸送をこのバスだけでまかなうとすると、8万2000回あまり運行しなければならない。朝5時から深夜0時までの19時間にバスを走らせるとすると、1~2秒おきに出発させる必要が生じる。これだけの台数のバスが都心部に集まってくれば主要な通りは皆バスで埋めつくされるであろう。

 ターミナル別に見ると、東京・大手町・上野・飯田橋駅方面は386万人、五反田・目黒・渋谷駅方面は109万人、新宿駅方面は166万人、池袋駅方面は71万人だ。最も規模の小さな池袋駅方面でも、岡山県岡山市の人口と同数の人たちが集まっている。

 注目すべきは最混雑時1時間、つまり朝のラッシュ時に都心に向かう人の数の多さだ。732万人の25パーセントに当たる186万人が流入している。ラッシュ時の輸送力は114万人しかないため、電車には定員の1.63倍もの人々で大混雑を呈してしまう。

 こちらもターミナル別に見てみよう。東京・大手町・上野・飯田橋駅方面は104万人、五反田・目黒・渋谷駅方面は25万人、新宿駅方面は37万人、池袋駅方面は17万人だ。最も規模の小さい池袋駅方面でも、わずか1時間で地方の中核都市である富山県高岡市や島根県出雲市、山口県宇部市の人口分が集まるのは驚異的というほかない。

名古屋圏

 JR東海、名古屋鉄道、近畿日本鉄道の各路線が集まる名古屋、そして名古屋市の地下鉄が集まる栄・丸の内の各駅方面から成る名古屋圏の都心部へと4鉄道事業者の延べ15の路線で流入する人の数は、1日当たり97万人である。鉄道事業者は1列車当たり5.3両編成の列車を3253本走らせ、198万人分の輸送力を用意して人々の移動に従事している。

 ターミナル別に見ると、名古屋駅方面が60万人、栄・丸の内駅方面が37万人だ。62パーセントという名古屋駅の集中度が高いというべきか、栄・丸の内駅方面に向かう人の数が案外多いというべきかは、利用する立場に応じて異なるかもしれない。

 ラッシュ時に都心部に流入する人の数は23万人と、全体の24パーセントに相当する。鉄道事業者がこの間に用意している輸送力は18万人分だ。定員に対して1.28倍と首都圏に比べると混雑は緩和されている。

 ターミナル別では名古屋駅方面が15万人、栄・丸の内駅方面が8万人。名古屋駅方面は全体の65パーセントと、終日での流入度合いと比べてさらに比率が高まっている点に注目したい。

京阪神圏

 首都圏に次ぐ全国2番目の都市圏では、8鉄道事業者の延べ28路線で1日当たり255万人が都心部に集まる。鉄道事業者は1列車当たり7.0両編成の列車を6245本走らせており、輸送力は合わせて577万人分だ。

 ターミナル別では大阪・梅田・京橋・北新地・北浜駅方面が166万人と全体の65パーセントを占め、天王寺、大阪阿部野橋駅方面は36万人、難波・谷町六丁目駅方面は53万人である。大阪駅付近を中心とするキタ、天王寺、難波の両駅付近を中心とするミナミと、2つが知られる大阪の繁華街を流入人数で見た場合は、キタが圧倒していることがわかるであろう。

 ラッシュ時に都心に向かう人の数は60万人で、255万人に対して24パーセントである。鉄道事業者が用意している輸送力は52万人分であるから、定員に対して1.15倍だ。ラッシュ時の混雑は首都圏や名古屋圏と比べるとやや楽といえる。

 ターミナル別に見てみよう。大阪・梅田・京橋・北新地・北浜駅方面は38万人で63パーセントと、終日での流入度合いと比べるとやや低い。天王寺、大阪阿部野橋駅方面は8万人、難波・谷町六丁目駅方面は14万人である。

まとめ

 首都圏、名古屋圏、京阪神圏の三大都市圏を合わせて1日当たり1085万人、そしてラッシュ時の1時間だけで269万人が都心部に集まると考えられる。鉄道の輸送力がいかに大きいかがわかると同時に、ひとたびこの輸送力が失われば、都市の機能はほぼマヒ状態に陥ってしまうかがわかるであろう。

 陸上の交通機関のなかで鉄道と同等の輸送力を持つものは存在しない。繰り返しとなるが、大地震などで帰宅難民となった場合は、鉄道の復旧を待つことが第一の対策である。関係者各位には待機場所の整備にいっそう努めてほしいものだ。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

【本稿調査対象の路線・区間】
首都圏
東京・大手町・上野・飯田橋駅方面
JR東日本
横須賀線新川崎→品川
東海道線川崎→品川
京浜東北線大井町→品川・上野→御徒町
山手線上野→御徒町
中央線(緩行)代々木→千駄ヶ谷
常磐線(緩行)亀有→綾瀬
常磐線(快速)松戸→北千住
常磐線(中電)松戸→北千住
総武線(快速)新小岩→錦糸町
総武線(緩行)錦糸町→両国
京葉線葛西臨海公園→新木場
東北線土呂→大宮
高崎線宮原→大宮
東武鉄道
伊勢崎線小菅→北千住
京成電鉄
本線大神宮下→京成船橋
押上線曳舟→押上
京浜急行電鉄
本線戸部→横浜
東京モノレール
モノレール羽田線浜松町→天王洲アイル
ゆりかもめ
臨海線汐留→竹芝
東京地下鉄
東西線木場→門前仲町
東京都交通局
三田線西巣鴨→巣鴨
新宿線西大島→住吉

五反田・目黒・渋谷駅方面
京王電鉄
井の頭線神泉→渋谷
東京急行電鉄
東横線祐天寺→中目黒
目黒線不動前→目黒
池上線大崎広小路→五反田
大井町線九品仏→自由が丘
田園都市線池尻大橋→渋谷
東京地下鉄
南北線駒込→本駒込

新宿駅方面
JR東日本
山手線新大久保→新宿
中央線(快速)中野→新宿
西武鉄道
新宿線下落合→高田馬場
京王電鉄
京王線下高井戸→明大前
小田急電鉄
小田原線世田谷代田→下北沢
東京都交通局
大江戸線中井→東中野

池袋駅方面
JR東日本
埼京線板橋→池袋
東武鉄道
東上線北池袋→池袋
西武鉄道
池袋線椎名町→池袋
東京地下鉄
有楽町線新桜台→小竹向原

名古屋圏
名古屋駅方面
JR東海
東海道線熱田→名古屋・枇杷島→名古屋
中央線新守山→大曽根
関西線八田→名古屋
名古屋鉄道
名古屋本線栄生→名鉄名古屋・神宮前→金山
・常滑線豊田本町→神宮前・犬山線下小田井→枇杷島分岐点
近畿日本鉄道
名古屋線米野→近鉄名古屋

栄・丸の内駅方面
名古屋鉄道
瀬戸線矢田→大曽根
名古屋市交通局
東山線名古屋→伏見
上飯田線上飯田→平安通
名城線・名港線金山→東別院
鶴舞線川名→御器所
桜通線国際センター→丸の内

京阪神圏
大阪・梅田・京橋・北新地・北浜駅方面
JR西日本
東海道線(快速)茨木→新大阪・尼崎→大阪
東海道線(緩行)新大阪→大阪・塚本→大阪
大阪環状線玉造→鶴橋
片町線鴫野→京橋
JR東西線大阪天満宮→北新地
京阪電気鉄道
京阪本線野江→京橋
阪急電鉄
神戸線神崎川→十三
宝塚線三国→十三
京都線上新庄→淡路
千里線下新庄→淡路
阪神電気鉄道
本線出屋敷→尼崎
北大阪急行電鉄
南北線緑地公園→江坂
大阪市交通局
堺筋線南森町→北浜
中央線森ノ宮→谷町四丁目
長堀鶴見緑地線蒲生四丁目→京橋

天王寺・大阪阿部野橋駅方面
JR西日本
大阪環状線鶴橋→玉造
阪和線(快速)堺市→天王寺
関西線(快速)久宝寺→天王寺
関西線(緩行)東部市場前→天王寺
近畿日本鉄道
南大阪線北田辺→河堀口

難波・谷町六丁目駅方面
近畿日本鉄道
大阪線俊徳道→布施
奈良線河内永和→布施
南海電気鉄道
南海本線湊→堺
高野線百舌鳥八幡→三国ヶ丘
阪神電気鉄道
阪神なんば線千鳥橋→西九条
大阪市交通局
谷町線谷町九丁目→谷町六丁目
千日前線鶴橋→谷町九丁目
※JRの路線名は通称を含む。

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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