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セブン、移動販売型コンビニを本格開始…約150種の商品をどうやって販売?

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
セブン、移動販売型コンビニを本格開始…約150種の商品をどうやって販売?の画像1「セブン-イレブン・ジャパン HP」より

 5万6000店以上のコンビニエンスストアが全国に乱立する現在、都市部に住んでいると、不便を感じることなく買い物ができる世の中になったと思い込みがちだ。

 しかし、コンビニなどの小売店が自宅近くにない地域は、まだまだ多い。また、高齢化が進む世の中とあって、都市部に住んでいても遠方に行くことが困難など、買い物に不便を感じている人も増えてきている。そうしたなか、「移動販売」に対する注目度が高まっている。

 セブン-イレブン・ジャパンは、移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」に力を入れ始めている。実は、移動販売自体は2011年5月に開始したサービスだ。販売設備を持つ専用の軽トラックに食品や飲料、日用品などを積み込み、買い物に不便を感じている人が多い地域を巡回して販売する。

 移動販売というと、車両でクレープやアイスクリームなどを販売する光景を思い浮かべる人も少なくないだろう。人が集まる繁華街の路肩に車両を止めて通行人に販売するイメージだ。セブンの移動販売も、そのコンビニ版といって差し支えない。ただ、販売する場所は多くの人が自然と集まる繁華街の路肩ではなく、その真逆といえる場所だ。

 セブンの「川西矢問3丁目店」は、9月14日から移動販売を開始した。トラック型の移動販売専用車両に冷蔵庫や冷凍庫を備え付け、4つの温度帯で食品や飲料を保存できる。扱う商品は、弁当やおにぎり、サンドイッチ、日用品、加工食品、冷凍食品など約150種類だ。携帯型のPOS端末を使用して精算する。

 兵庫県川西市北部の集落センターや事業所、個人宅などを巡回して販売する。買い物に不便な地域に住む人や、移動手段が限られる高齢者を中心に、気軽に利用してもらうことを狙う。セブンは、このような移動販売サービスを拡大しているのだ。

東日本大震災がきっかけで移動販売に注目

 セブンが移動販売に注力するのは、少子高齢化が進展していることや飲食料品を扱う店舗が減少していることが背景にある。日本で少子高齢化が進んでいることは周知のとおりだ。飲食料品を扱う店が減少していることは、経済産業省の調査で明らかになっている。07年調査では約39万の事業所があったが、14年調査では約24万にまで減っているという。

 高齢者と地方在住者を中心として、近隣に店がない、店に行けない、荷物を運べないといった具合に、買い物に不便・困難を感じている人が増えている。都市部でも、大きな幹線道路や坂などがあるために、小売店に行くことが困難な場所に住んでいる高齢者が少なくない。こういった人たちは「買い物弱者」と呼ばれるが、経済産業省は14年10月時点で700万人いると推計し、増加傾向にあるという。

 買い物弱者がクローズアップされたのは、11年3月に発生した東日本大震災の時だろう。被災で多くの小売店や交通機関が機能しなくなってしまった。飲食料品や日用品を扱う小売店には人が殺到し、商品はすぐになくなっていった。そして被災地での生活は困難なものとなり、多くの買い物弱者が発生した。

 その際、ファミリーマートが移動販売車「ファミマ号」で被災地の買い物弱者に飲食料品や日用品などを届けたことが注目された。そして、これをきっかけに移動販売ビジネスが注目されるようになった。ファミマは移動販売に力を入れるようになり、ローソンも13年から本格的に移動販売を開始している。

移動販売が活況

 移動販売に力を入れているのは、もちろんコンビニ勢だけではない。コープ(生活協同組合)や大手スーパーなども行っているが、そうしたなかで急成長し注目されている企業がある。

 12年1月に創業し、徳島県徳島市に本拠地を置く「とくし丸」だ。

 とくし丸の移動販売は、仕組みが少し複雑だ。自社では移動販売をせず、販売パートナー(提携の事業者)が行う形態をとる。とくし丸が商品を調達するスーパーを探して提携し、販売パートナーがそのスーパーから商品を仕入れて移動販売車に乗せて販売する。販売して得られた粗利益を販売パートナーと提携スーパーとで分け合う仕組みだ。

 とくし丸は提携するスーパーから収入を得る。車両1台を導入するごとに発生する50万円の契約金と、1台ごとに発生する月額3万円のロイヤリティを得る仕組みとなっている。とくし丸が販売パートナーから手数料などを徴取することはない。

 とくし丸の移動販売の仕組みは、セブンなどと大きく異なるといえる。セブンなどは、店舗販売が主で移動販売は従という位置づけになるが、とくし丸の販売パートナーは基本的に移動販売を専業とする。移動販売の売り上げがとくし丸の販売パートナーの生活を大きく左右することになるため、必然と力を入れざるを得ない仕組みになっているのだ。このことが成長の大きな原動力となっている。

 販売パートナーはスーパーへ赴き、その日に販売する商品をピックアップする。顧客宅を1件ずつ巡回して販売するスタイルのため、顧客一人ひとりが何を欲しがっているのかを的確に予測して販売する力が問われる。例えば、顧客がトイレットペーパーを買った日を記録し、消費サイクルに合わせて、切れそうになる前に声かけをする、といった提案型の営業も重要になってくるだろう。

 これは、セブンとは若干異なる。セブンの場合、個人宅を回ることもあるが、基本的には集落センターなどの拠点で客を待ち受けて販売するスタイルだ。移動販売は、場所と時間が固定的なタイプと戸別訪問に近いタイプに大きく分けられるが、セブンは前者に近く、とくし丸は後者に近い。

 セブンの客は基本的に常連が多くを占めることにはなるが、どの常連客が来るかは不明なこともあるため、ある程度万人受けする商品を用意することが求められるだろう。とはいえ、客の顔が見えやすい商売に変わりはないため、セブンの場合でも客ごとの嗜好や販売状況に沿った品揃えももちろん求められる。

 とくし丸は大きく成長している。現在、提携するスーパーは約80社、移動販売車は約230台にもなるという。宅配ネットスーパーのオイシックスがとくし丸を16年5月に買収しているが、とくし丸の成長性を買ってのことだろう。

 移動販売といえば、飲食料品や日用品を扱うのが一般的だが、珍しいところでは書籍の移動販売がある。TSUTAYAがネスレ日本と組んで移動販売を3月から九州で始めたのだ。人が集まる場所を巡回し、テーマで選書した本の販売や中古本の出張買い取り、またコーヒーなどの飲料の販売も行う。体験型のワークショップを開くなど、地域の人々が気軽に集まることができるコミュニティを目指すという。なかなか面白い取り組みだ。

 少子高齢化が進展し買い物弱者が増えていくなか、“客に来店してもらうビジネス”から“客がいる場所に出向くビジネス”へのシフトが静かに進行している。その主役になりそうなのが移動販売だ。今後の行方を注視したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

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