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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

「所得連動型」奨学金の拡充で、高等教育負担の問題に対応せよ

文=小黒一正/法政大学経済学部教授

 このような問題が発生する主な理由は、いわゆる「流動性制約」に家計が直面してしまうためである。一般的に、大卒と高卒では生涯賃金(平均)で5000万円以上も差があるといわれており、4年制大学に進学できれば、大学4年間の授業料の10倍以上の私的な限界便益を得ることができる。このため、大学4年間の授業料や生活費をローンで一時的に借りることができれば、十分な見返りを得ることができ、卒業後の収入でローンの返済もできるはずである。しかしながら、現実には、家計が資金を借り入れようとする場合、貯蓄をするときの利子率よりも高い利子率に直面せざるを得ないことや、一般的に借り入れは貯蓄よりも難しいため、まったく借り入れができないこともある。

 このような資金繰り制約が存在する状況を「流動性制約」というが、教育分野でこの問題解決に重要な政策手段となるのは「奨学金」である。しかし、奨学金にも完全にリスクがないわけではない。日本学生支援機構の調査によると、奨学金を借りたものの、就職の失敗や低賃金で返済が難しくなり、給料の差し押さえ等の強制執行まで進むケースが急増している(05年度 4件→15年度 約500件)。

財源の問題

 では、財源はどうか。そもそも、基本的に政策には「フリー・ランチ」はなく、なんらかの財源が必要となる。教育予算の改革として、高等教育の無償化を実施した場合、どの程度の財源が必要になるのだろうか。そのヒントは、教育再生実行本部の第8次提言(17年5月18日)の資料から読み取れる。

 この資料では、大学・専門学校を含む高等教育の授業料を無償化した場合、約3.7兆円の財源(消費増税1.4%分)が必要で、所得制限(900万円以下の世帯)を設けた場合でも2.7兆円の財源(同1%分)が必要であるとの試算結果を掲載している。

 また、収入が300万円未満の世帯の授業料を全額免除、300万円~500万円の授業料を半額免除する場合、0.7兆円程度の財源が必要としているが、現下の厳しい財政状況の下で、このような財源を毎年確保するのも容易ではない。

 このような状況のなか、新たな財源を確保するための「教育国債」構想が政治的な火種としてくすぶっている。しかしながら、現在の財政状況では、教育予算を含む経常的経費を税収で賄えず、財政赤字が恒常化している。すなわち赤字国債の発行は恒常化しており、その一部はすでに「教育国債」化しているといっても過言ではなく、「教育」を錦の御旗に、これ以上の国債増発は許容できない。

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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