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警視庁捜査二課、あまりに過激な集団の正体…外務省・巨大汚職を暴く

文=深笛義也/ライター
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警視庁捜査二課、あまりに過激な集団の正体…外務省・巨大汚職を暴くの画像1清武英利氏

『連続ドラマW 石つぶて ~外務省機密費を暴いた二課の男たち~』が、佐藤浩市、江口洋介、北村一輝、萩原聖人、飯豊まりえ、という豪華キャストで11月5日夜10時から、WOWOWで放映される(毎週日曜夜10時 全8話)。読売巨人軍の元代表で、現在はノンフィクション作家として活躍する清武英利氏の『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』(講談社)が原作だ。

 外務省機密費を暴いた警視庁捜査二課の男たちを描いた、昨今のドラマとしては異例といえる骨太の内容で、タブーに挑戦した作品だ。刑事の捜査の足取りを丁寧に追い、彼らの息吹まで伝わってくる。

 原作者の清武氏に、本作を執筆するに至った経緯や、苦労した点などを聞いた。

捜査二課の刑事たちの実態

 詐欺や通貨偽造、金融犯罪、経済犯罪、企業犯罪などの知能犯、そして本作のテーマとなった、公権力における汚職を取り締まるのが捜査二課である。

 ノンフィクションや小説、映画、ドラマに登場するのは、殺人、放火、強盗、性犯罪などを取り締まる部署である捜査一課が圧倒的に多く、捜査二課が取り上げられることは少ない。が、取材に苦労したことはあるのだろうか。

「二課の人は、現職はもちろん、OBも保秘の意識が骨の髄まで染みています。『お話しします』と言ってくれる人は、なかなかいないですね。一課や公安の人は、けっこうしゃべる人も多いのですが、二課はマスコミに対する警戒感があらわで、そこは苦労といえば苦労ですね。たくさんの人と会って、信頼関係を築いて、話を聞いて、再現していくというのは、特ダネを取るということと同質だと思うんです」(清武氏)

 汚職のことを二課では、「汚」の字から「サンズイ」という隠語で呼ぶ。二課の刑事たちは、「体制を外から破壊するのが革命ならば、サンズイは内側から体制をじわじわと蝕んでいく。それを摘むのがお前たちの仕事だ」と教えられると、同書では紹介されている。この言葉は、革命を防ぐ公安部を意識した言葉なのだろうか。

「そうかもしれないですが、直接、公安部を意識して生きているわけではないでしょう。彼らは生きる意義や、働く意味ということを常に考えているのだと思います。汚職というのは、体制を一から崩していくシロアリのような存在だから、それを防ぐために自分たちがいるという意識が、ずっと引き継がれているのでしょう」(同)

 同じ警察官でも、部署によって性格が違ってくると聞くが、二課の人たちはどうなのだろうか。

「一番激しいですよ。暴力団の取り締まりを行う四課のマル暴刑事も、『二課の刑事はものすごく激しい』と言います。僕もそう思います。人を殺したり、暴力で人を威嚇する人間たちというのは、最初から粗暴な相手とわかっています。ところが、二課が相手にする人間は、贈賄・収賄側とも、かなり冷静な人たちですよね。少なくとも地位があり、職務権限があるからお金が入ってくるわけです。そういう人の日常を突き崩さなければ落ちないと二課の刑事は信じているから、激しくなるんじゃないでしょうか。だから過激ですよ、いろんな意味で。

 とにかく彼らは口が悪いです。冷静に話す人もいますが、1分間に1回くらい『バカヤロウ!』とか言う人もいます。それは仲間意識の表れといえますが、そういう言葉の荒さも当たり前のように受け止めなくてはいけません。そんな人が、一方でとてもけなげなところがあったりします。働く気概や清廉さが、激しさにつながっているので、学歴などは関係なく、ここまで人格的に高められるのだと感じます」(同)

 外務省機密費をめぐる汚職という巨大犯罪が相手でも、高級スーツの仕立屋を巡ったり、銀行を一つひとつ当たっていったり、地を這うような捜査の連続だ。同書では、そうした捜査のあり方が手に取るようにわかる描写がされている。一方で、それぞれの刑事の生い立ちや人となりも描かれている。

「日本の警察は、刑事警察と公安警察とあるけれど、すべてが好きになれないという人もいると思うんですよ。もしかしたら僕は、警察官の一番良質な部分を見たのかもしれない。もちろん嫌なところもあると思いますよ、権力そのものだから。だからそこはウォッチしていかなきゃいけないし、彼らの生態というのをよく知らなければいけないと思うんです。一方で、純粋に敬愛すべきところはやっぱりあります。そういう人がいるんだということは知るべきだと思います。警察官って、特に制服を着ていたりすると、皆一緒に見えますよね。別に僕は個性を強調しているわけではないけれど、やっぱり一所懸命に取材すると、個性がぐんぐん見えてきます」(同)

清武氏が描きたい世界とは

 ドラマ『石つぶて』は、2015年にWOWOWで放映された『連続ドラマW しんがり ~山一證券 最後の聖戦~』と同じスタッフでつくられている。この原作は清武氏の『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社)だ。四大証券会社の一角だった山一證券の自主廃業の混乱のなか、終息に向けて奮闘する社員たちの姿を追っている。ここでも組織の中で懸命に生きる、名もない人々が描かれている。

「僕は、フロントランナーを書こうとは思わない。書きたいのは、後ろのほうにいる人。今回の刑事さんもそうだし、『しんがり』の人々もそう。そういう人たちが土壇場になったり追い詰められたり、あるいはきわめて重要な場面で真価を発揮する――。その姿を書きたいんです。なかなか人間ってわかりづらいと思うんですよ。『人を見る目』ってよく言うけれど、人を見る目なんて実際にはわからない。取材してみて初めて、『ああ、この人にはこういう一面があったんだ』ということが少しずつわかってくるんだと思う」(同)

 巨人軍の代表だった時、清武氏は選手の立場に立った改革を行ってきた。それはノンフィクションでのテーマと通ずるところがあるのだろうか。

「共通するところは、たくさんあります。スター選手になる人っていうのは、だいたいそうなる確率が高い人がいるわけですよね。その人たちの力は想定内なんです。想定外の人たち、後ろにいる人たちが育ってきた時に、その組織は強くなります。それが野球でいうと、育成選手なんですよ。そういう列の後ろの人たちが力を発揮した時に、初めてその組織は変革されて強くなる。そういう人たちを大事にしない組織は、やっぱりダメになりますよ。

 さきほど『人間ってわからない』と言ったけれど、(米大リーグで活躍する)イチロー選手がドラフト何位だったか知っていますか。ドラフト4位なんですよ。イチローが今みたいになるとわかっていたら、ドラフト1位で取りますよ。それと同じで、人の真価ってなかなか土壇場にならないとわからない。『しんがり』の場面でもそうだし、今回の『石つぶて』の人々もそう。

 自分たちが、たまたま汚職を追っかけていった時に、なんかきわめて妙なお金に突き当たった。それをひたすら追っかけていく。非常に危険なことや、いろんな妨害がありつつも、一心になって突いていく――。そういうことだと思うんです。やっぱり人間ってわからないものだから、はみ出した人間が泳いでいけるような、そういう空気をつくることが大事だと思います。それはどんな組織でも一緒だな」(同)

『しんがり』も『石つぶて』も、最近の地上波のテレビでは見られなくなった、骨太な作品だ。

「忖度したり、同調圧力があって、『権力批判はいかがなものか』とか、『時事風刺がきつすぎるといかがなものか』とか、やっぱり強いものに巻かれろっていう番組になりがちですよね。WOWOWは、そういうタブーに挑んでいるところがある。そういうところがないとやっぱり世の中は良くならないですよ。ドラマとか映画は、やっぱり僕たちの理想の世界であってもらいたい。それは現実に近いものであり、現実を批判するものであればあるほど、人は惹かれると思う。アメリカに比べても、日本のドラマや映画は、忖度というか“タブー”を意識するようになっていると思うんです。

 実は、佐藤浩市さんが『今回のはアナーキーだからいい』と言っているらしいんです。役者さんも、そういうことを望んでいるんだと思って、驚きましたよ」(同)

次作では山一證券破綻からの20年を追う

 外務省機密費から約10億円を詐取し、愛人を囲ったり、14頭もの競走馬を買っていたのが、当時、外務省要人外国訪問支援室長だった松尾克俊だ。ドラマは原作をもとにしたフィクションだが愛人との逢瀬も生々しく描かれている。

「松尾っていうのは、単なる犯罪者じゃないわけです。やっぱり魅力的な人間だから、あそこまでいった。二課の刑事が、『公務員で不正な金を握る人間は、地位があるだけじゃなくて、それだけの度量があるからもらうんだ』と言っています。松尾は、プリズムみたいな人だと思う。簡単にスパンと割れるような人間じゃない。北村一輝さんが松尾(ドラマでの役名は真瀬)を演じるという配役には驚いたけれど、はまり役かもしれませんね。松尾はあんなにハンサムではありませんが」(同)

 今後も、清武氏は組織の中の名もなき人々を追っていくのだろうか。

「11月24日で、山一證券が破綻して20年になるんです。この20年間どうやって生きてきたのかということを100人ほどの人々に聞いて、それを物語にしています。『空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉』というタイトルです。『空あかり』というのは『希望』という意味です。うっすらとガラス越しに見えるような空の明かり。取材をしていたら、WOWOWの『しんがり』を見た人が、『確かにあの場面に自分がいた』と言うんです。ドラマというのは、すごい力があるんだなあと思います。そういう意味で言うと、『石つぶて』は刑事の話だから、皆が皆、泣くような話ではないと思います。でもやっぱり、怒りを持ってもらいたい。聖域のある社会というのは、決していい社会じゃない。聖域がひとつでもなくなるように、努力をしてもらいたいと思います」(同)

『空あかり 山一證券“しんがり”百人の言葉』(講談社)は、11月8日に発売される。どんな生き様が描かれているのか。ドラマ『石つぶて』とともに楽しみである。
(文=深笛義也/ライター)

深笛義也/ライター

深笛義也/ライター

1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。10代後半から20代後半まで、現地に居住するなどして、成田空港反対闘争を支援。30代からライターになる。ノンフィクションも多数執筆している。

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