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某大手引っ越し業者に頼んだら荷物が消えた…実は事故多発、絶対すべき自衛法とは?

文=明石昇二郎/ルポライター
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某大手引っ越し業者に頼んだら荷物が消えた…実は事故多発、絶対すべき自衛法とは?の画像1「Thinkstock」より

引っ越し中に消える荷物

 今年10月のことである。行きつけの小料理屋の女将が引っ越しをした。自宅を引き払い、お店の2階に引っ越したのだ。お連れ合いを数年前に亡くされ、一人暮らしだったが、長年暮らした自宅にはかなりの量の荷物があり、テレビCMで知られる大手の引っ越し業者に依頼したのだという。

 が、引っ越しを終えてみると、ダンボールに詰めた荷物が3つ見当たらない。1つには、常備薬を詰めた薬箱をそのまま入れていた。使い慣れたハサミや爪切りも入れていたため、引っ越し早々不便を強いられる。買い直ししなければならなかったため、被害額はおよそ20万円にのぼった。

 気味が悪いのが、生乾きの洗濯物を入れていたダンボールまでなくなっていたことだ。下着も一緒に入れていた。女将が引っ越し業者にクレームの電話を入れると、担当者がすぐにやってきた。その担当者が言うには、「自宅に置き忘れているケースが大半」なのだという。しかし、その担当者と一緒に元の自宅に行ってみても、消えたダンボールは見つからない。引っ越し業者の担当者は、「警察に被害届を出してください」と、まるで他人事のように語り、帰っていった。

「こうした場合、どうしたらいいんだろう。被害届を出しても見つかる保証はないし、泣き寝入りするしかないのかな……」

 他の常連客が皆、勘定を済ませて帰った後、しばらく女将の愚痴に付き合うことになった。

社会問題の様相を呈する「引っ越しトラブル」

 筆者が引っ越しをしたのは、10年以上前のことになる。もちろん、プロの引っ越し業者に依頼し、忙しかったため、オプションの「梱包サービス」を利用することにした。

 引っ越しの前日、ダンボールへの梱包専門の女性スタッフ数人がやってきて、手際よく梱包してゆく。客はそれを眺めているだけでいい。引っ越し先に荷物を運び終えると、同じ女性スタッフが再びやってきて梱包を解いてゆく。食器類は食器棚に元のとおりに並べ直し、書籍や衣類も同様に元どおりにしてくれる。ダンボールには「食器棚の上」「本棚(1)の上段」といった具合に元の場所が書かれた上、通し番号が振られているので、紛失する心配はまずなさそうだ。筆者が自分で運んだのは、銀行通帳や財布などの貴重品の類いだけだった。

 だが、女将の引っ越しでは、自分で荷物を梱包し、ダンボールに番号を振ることもしていなかった。まさかダンボールごとなくなるとは思ってもみなかったからだ。

 さらに女将はもう一つ、失敗をしていた。引っ越し当日、求められるままに「引っ越し完了」のサインに応じてしまっていたことだ。ダンボールが紛失したのだから、引っ越しは「完了」していないのだが、その際には気づかなかったのだという。

「CMも流している大手の業者だから安心だろうと思って頼んだのだけれど、もう頼めない。実は、前の自宅にもう少し荷物が残っているんだけど、違う引っ越し業者にお願いするつもり」(女将)

 この大手引っ越し業者の担当者の話では、こうしたケースの場合、被害額を弁償するかたちで補償するのだという。だが、女将の怒りは収まらない。紛失したダンボールの中には、思い出の品や記念品といった、お金では買い戻せない物まで入っていたからだ。

 いうまでもなく、引っ越し荷物の窃盗は立派な犯罪である。ただ、筆者の周りでは初めて聞く話だった。ニュースでも耳にしない。となると、こうしたケースの多くは被害者が泣き寝入りをしているだけで、実は頻発しているのかもしれない――。

 そう思い、インターネットで調べてみたところ、「引っ越し中に消える荷物」の話題は今や花盛り状態で、被害者本人の「紛失実話」をはじめ、荷物が紛失することを前提とした「自衛策」にはどのようなものがあるかを解説したサイトも存在。つまり、荷物の紛失は「よくある話」であり、まるで社会問題の様相を呈していた。なぜ、引っ越し業界はこうした状況を放置しているのだろう。

「自衛策」にはこんなものが

「引っ越し盗難」問題は、ちゃんと報道もされていた。なかでもネット上で“有名”な話は、2年前の2015年4月に兵庫県で発生した、高級ブランドバッグの抜き取り事件。テレビのローカルニュースでは、窃盗の疑いで逮捕された容疑者が実名で報じられていただけでなく、容疑者が勤務していた引っ越し業者名(アート引越センター)も併せて報じられていた。45歳の容疑者は、アルバイトの作業員だったのだという。記事はさまざまなサイトに“魚拓”を取られ、広まっていた。

 この事件が発覚する端緒は、容疑者がリサイクルショップでブランドバックを売却したことだった。逮捕されたのが事件から3カ月後の同年7月なので、盗んですぐに換金したと思われる。

 この事件からもわかるように、引っ越し業者が「業務」として悪事を働いているわけではない。あくまでも一握りの従業員が、客ばかりか同僚の目も盗んで行なっているようである。だとしても、被害に遭った客にしてみれば「引っ越し業者に盗まれた」ことに変わりはない。たとえ「一握り」であろうと「アルバイト」であろうと、引っ越し業界を挙げて再発防止策に取り組まなければ、業界全体の信用をなくすだけである。

「引っ越し問題サイト」では、荷物を紛失させないための自衛策を具体的に紹介している。なかには、引っ越し業者も一緒に取り組めそうな対策もあったので、抜粋して以下に紹介する。

(1)高価な「小物」が狙われる

 紛失するのは、ポケットに入るような「小物」が多いとされる。サイフや指輪、時計などの貴金属、そして高級下着などだ。化粧台の引き出しに入れておいた物が盗まれることもあるという。こうした貴重品類は業者に任せず、手荷物として自分で持っていくか、自分の服のポケットに入れておくのがお勧めだそうである。ノートパソコンや楽器類も、自分の「手荷物」としたほうが間違いない。

(2)ダンボールに通し番号を振る

 筆者が10年前に頼んだ業者は自らそうしていたが、それが「盗難対策」でもあったとは、当時はまったく気づかなかった。作業員に対する“盗難抑制効果”があるのだという。ただし、ダンボールに「貴重品」とメモ書きするのは禁物だ。金目のものが入っていることを、わざわざ教えてやるようなものだからだ。

(3)中身が見えないように梱包する

 中に何が入っているのかわからないものを盗む泥棒は少ない。従って、外から中身が見えないようにしっかりと梱包することが、最大の盗難対策だといえそうだ。盗むのは、引っ越し業者の作業員とは限らない。引っ越し作業中はトラックの扉を開け放したままの時間が長い。通りがかりの者に盗まれてしまうケースも十分あり得る。中身が見えないように梱包するのは、そうした窃盗を防ぐ意味もある。また、大切な荷物はトラックの奥に積んでもらい、目立たないようにするのも有効だろう。

(4)荷物が紛失した場合

 引っ越し時の盗難事件は、証拠集めが大変難しい。まして、部屋の中で盗まれたのだとすれば、証拠集めは困難を極める。警察に相談し、盗難届を出しても、見つからないケースが多いと聞く。前掲したアート引越センターの事件のように、盗まれたものが見つかり、容疑者が逮捕されることは、大変まれなケースであると考えておいたほうがよさそうだ。

 引っ越しの最中に盗難に気づいた場合は、「引っ越し完了」のサインをしないことである。サインは、荷物が揃っていることを確認し、引っ越し作業の完了に合意したことを意味する。引っ越し業者の作業員から「サインをもらわないと帰れない」と文句を言われてもサインせず、残りの荷物が届いたらサインをすると言って、その日は引き取ってもらうことだ。サインしてしまえば、引っ越し業者はそれを盾に「サインをもらっているので、こちらに過失はない」と言い張ることもあるそうだ。せいぜい保険で弁償してもらうことくらいしかしてもらえない。いつなくなったのか、そして誰の責任なのかを明確にしておくためにも、不満や不安がある場合は決してサインに応じてはならない。

引っ越し業者が考える「再発防止策」とは

「引っ越し中に消える荷物」問題と、その対策について、当の引っ越し業者自身に訊いてみることにした。質問を送ったのは、あいうえお順にアート引越センター、サカイ引越センター、引越社の大手3社である。

「まず、貴重品、貴金属等については、当社ではお運びできませんので、お見積りの時点でお客様に、その旨をご案内し、お客様ご自身でお運びいただくようにお願いしております。また、お引越当日作業を行なう前にお客様にサインをいただく書類には、上記が引越ご家財の中に入っていないことを確認するチェック欄を設け、お客様にチェックをしていただいてから作業を開始いたします。ご家財の積み込みが完了した時点で、お客様と一緒に作業リーダーが住居内をチェックさせていただき、積み残しがないかなどを一緒に確認いたします。

 お引越完了後、ご新居への搬入が完了した後は、トラックの中をお客様に確認していただくようにしています。また、ご単身のお客様で、長距離の移動をされるお客様に関しては、ご家財の搬出時に、ご家財一つ一つ(段ボールについても1点ずつ)に通し番号を記載したシールを貼り、番号に該当するご家財の内容を記したリストを作成し、それを当社とお客様で保有し、ご新居でお客様にチェックしていただきながら搬入する方法をとっております。

 大変遺憾ながら当社従業員による盗難がございました件については、上記の対応を今一度徹底させるとともに、何よりも従業員の意識づけが大事と考え、引越に従事する従業員に対して個人面談を実施し、啓蒙・教育を実施しております。お引越業務はお客様のお宅にお伺いして作業をする仕事でございますので、何よりも従業員のモラル向上が大切と考えております」(アート引越センター)

「荷物の紛失について、あってはならないことではありますが、極稀に発生しております。また、貴重品におきましても、お客様ご自身でお運びいただきますようご案内を申し上げておりますが、お客様ご自身で段ボールに梱包され引越荷物として運搬されることがあるのも事実でございます。

 お客様より紛失に関するお問い合わせがあった場合は、弊社従業員に状況確認を行なったうえで、再度、お客様へ全ての段ボールの荷解きをお願いし、ご確認いただいております。この時点で、見つかるケースがほとんどです。それでも見つからない場合は、お客様へ遺失物届を警察に提出いただくようお願いしております。

 引越作業中は非常に目立つ運搬作業である為、お客様の御自宅から搬出入ルート及びトラックの荷台まで、無人の状態を作らないように注意しております。特にトラック周りは公道に駐車しながらのケースがほとんどですので、積込する作業スタッフはトラック荷台から目を離さない程度の行動範囲で作業をしております。

 また、お住まいでの積込作業完了後は新居までの間にコンテナを開封しないようにトラックの扉に一度しか結束出来ないシリアルナンバー入りの鍵を掛け、お客様のお立会いの下施錠・開錠しております。積み込み作業完了時には、お部屋の確認をしていただき、御作業完了時にはトラックのコンテナが空になった事を確認していただいております」(サカイ引越センター)

「お問い合わせいただきました内容についてですが、仮に引越し中のトラブル(如何なる内容も)があったと致しましても、お客様の個人情報にふれる可能性がございますので、誠に恐縮ながらご回答は控えさせていただきます」(引越社)

 解決策はただ一つ。業界を挙げて再発防止策を考え、実行することだ。それができなければ、引っ越し業界の信用はいつまでも回復できない。
(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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