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JP、前・現社長が「排除し合い」の激烈バトル

文=編集部
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認可保育所の規制緩和が転機

 山口氏は1961年、京都府生まれ。明治学院大学法学部を卒業後、大和証券に入社。法人営業や企業の上場、M&A(合併・買収)などを担当し、8年間勤務。92年に退社。翌93年、有限会社ジェイ・プランニング(のちに株式会社化)を名古屋市に設立。パチンコ店などの客にコーヒーをワンコインで提供するサービスが受けて急成長を遂げた。

 コーヒーをサービスする女性社員のために託児所が必要になったことに加え、パチンコに興じる母親が子どもを車に置き去りにする事件が相次いだことから、社員とパチンコ店に来店する客のために保育所をつくった。99年から保育所などを運営する子育て支援事業をスタートした。

 転機は2000年の規制緩和だ。それまで、認可保育所の設置は市町村や社会福祉法人に限定されていた。しかし、待機児童問題を背景に、認可保育所の設置主体の制限が撤廃され、株式会社も認可保育所を設置できるようになった。

 02年、東京都の認証保育所第1号を開設。同年、ジャスダック市場に株式上場。04年、現社名に商号変更。11年に東証2部、12年に東証1部に昇格した。

 この間、山口氏は聖徳大学大学院児童研究科児童学修士を取得。内閣府の「ゼロからの少子化対策プロジェクトチーム」のテーマ「保育・幼児教育」に参画することになった。

 株式市場から直接、資金調達し、認可保育園を全国規模で拡大。今では、全国で180以上の保育園、80以上の学童クラブ・児童館を展開する最大手に成長した。

 15年2月、創業者の山口氏が社長を退任。プレス発表によると「体調不良による入院」が辞任の理由となっている。管理部長の荻田和宏氏が後任の社長に昇格した。

 荻田氏は1965年生まれ。関西学院大学社会学部を卒業し、大和証券に入社。99年に大和証券で先輩だった山口氏が創立したジェイ・プランニング(現JPHD)に入社。山口氏の側近として昇進を重ね、15年に社長に就いた。

 なぜ、二人三脚だったふたりの間に亀裂が生じたのか。

 17年3月期の連結決算が大幅な減益となったことが原因のひとつといわれている。同期の売上高は前期比11%増の228億円だったが、営業利益は31%減の12億円、純利益は43%減の6億円と大幅な減益決算となった。保育士の給与引き上げによる人件費増、保育士不足により稼働率が下がった保育園の減損処理を行ったことが原因だ。不振を受けて、1株当たりの配当を5円から2.5円に減らした。

 荻田氏は業績回復を狙って、民間学童クラブなど周辺事業の多角化と海外進出に経営の舵を切った。海外進出の第1歩として、9月にベトナムのダナン市とホーチミン市に幼稚園を開設した。

 山口氏は「本業である国内の保育園事業を強化すべき」との立場だ。これで路線の対立が生じたとされる。「株式会社形式の保育園のM&A、家族経営の社会福祉法人の事業継承など、やるべきことはいくらでもある。ベトナムに幼稚園をつくるのではなく、国内の保育園を買収せよ」と述べている。

 臨時株主総会の勝者はどっちになるのか。

会社側が創業者のネガティブキャンペーン

 JPホールディングスのお家騒動が話題となっているのは、会社側の対応のまずさにあるとの見方が出ている。10月17日、JPは第三者委員会を設置し、創業者の山口洋氏の「重大なセクシャル・ハラスメント」に関する調査を行うと公表した。上場企業のニュースリリースに「セクハラ」とはっきり明記された例は希有である。

 11月9日には、「創業者の経営関与、復帰を断固拒否するという従業員の嘆願書を受け取った」と発表した。嘆願書には、グループ従業員3029人の署名がなされた。この中には、子会社である日本保育サービスが運営する保育園179園中173人の園長、学童クラブ・児童館69施設の69人の施設長も含まれているとしている。

 11月13日発売の「週刊ポスト」(小学館)に、山口氏が両脇に若い女性2人を抱きかかえ満面の笑みで露天風呂に入浴している写真が掲載された。掲載された写真は、女性の顔が隠され浴衣を着て入浴しているものだった。

 11月17日、経営側は第三者委員会から調査報告書(要点版)を受領したと発表した。第三委は、セクハラを調査するのではなく、「経営に重大な影響を及ぼすようなハラスメント事案が存在したか否か」について調査した。

 会社側のリリースでは「山口洋氏のパワーハラスメント的行為は会社経営上、重大な影響を与える可能性のあるハラスメントと認められる旨の認定がされた」としている。

 セクハラ、パワハラ、ハラスメントへと微妙に言い回しが変化している。セクハラに直接、触れないのには理由がある。

 報告書は、経営陣の主張通り、社員旅行で飲食した時などに山口氏による女性社員への性的言動をセクハラと認定した。物を投げつけて部下を叱るパワハラ行為もあったとした。一方で、荻田和宏社長や他の男性取締役も、女性社員の体を過度に触る行為が目撃されているとして、「セクハラに該当し得る行為が認められる」と指摘した。

 経営側は、第三者委員会に創業者のセクハラを認定してもらい、山口氏の株主提案を否決することを狙ったのだろう。しかし、現社長もセクハラを指摘された。これではセクハラを前面に出すわけにはいかない。とんだ藪蛇となった。

 創業者サイドは35.61%の株式保有している。拒否権を持たれ、すでに会社側は負けているに等しい。巻き返しをはかった創業者へのネガティブキャンペーンだが、果たして、株主たちへの効果のほどはどうだったのだろうか。

 11月22日の臨時株主総会当日まで、泥試合は続く。安倍政権は待機児童ゼロを目指している。JPホールディングスに強い追い風が吹いている。お家騒動をやっている時間など、双方にはないはずだ。
(文=編集部)

【続報】
 JPHDは11月22日、名古屋市内で臨時株主総会を開き、途中3回の休会を含む5時間半のロングラン総会となった。山口氏が株主提案した3議案は承認されなかった。「取締役の解任要件の緩和」「取締役1人の解任」は否決され、「社外取締役1人の選任」は決議されなかった。「取締役の任期を短縮」する会社側提案も否決された。特別議案は3分の2以上の賛成が必要だが、いずれも3分の2以上の賛成が集らなかった。双方、痛み分けの格好で、創業者と現経営陣の対立の火種は残ったまま。ドロ沼のお家騒動は長期化しそうだ。個別の議案の賛成率などは週明けには会社側が提出する報告書で判明する。詳しい分析はそれを待ちたい。

【続報2】
 JPホールディングスは11月29日、東証に臨時報告書を提出し、22日に開催した臨時株主総会の各議案の賛成比率を公表した。会社提案の第1号議案「取締役の任期を2年から1年に短縮する」定款変更の件は賛成比率が36.52%で否決された。株主提案の第2号議案「取締役の解任要件を緩和する」定款変更の件は賛成比率が58.55%だったが3分の2には達せず否決。株主提案の第3号議案「取締役西井直人を解任する」件は賛成比率が60.71%と高かったが、同じ理由で否決された。株主提案の第4号議案「佐竹康峰を社外取締役に選任する」件は、第3号議案が否決されたため決議されなかった。
 
 定款変更や解散・合併などの経営にかかわる重要なことを決める特別決議には3分の2以上の賛成が必要だが、会社提案・株主提案いずれも3分の2以上の賛成をえられず否決された。それでも、すでに勝負はついたといえる。創業者の山口洋氏側の議案の賛成は過半数を上回り、これに対して会社側のそれの賛成は4割にも届かなかった。来年の定時株主総会の取締役選任では創業者側が主導権を握ることになる。このため、激しい委任状の争奪戦に発展する可能性が高い。議決権行使会社の推奨も分かれた。米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は株主である山口氏の提案に賛成を推奨した。山口氏の提案が可決されて取締役の任期が即時終了しても、新たな取締役の選任まで旧取締役は経営責任を負うと指摘。経営上の混乱は起きないとした。一方、別の助言会社の米グラルイスは取締役の即時解任は不要な経営の混乱を招くとして山口氏の提案に反対、会社側の議案に賛成するよう推奨した。創業者と現経営陣の内ゲバは、来年の定時株主総会での取締役選任を巡り、最大のヤマ場を迎える。

BusinessJournal編集部

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