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江川紹子の「事件ウオッチ」第91回

籠池夫妻の長期勾留は異例なのか?森友問題幕引きを狙う安倍政権と、監視すべき「人質司法」の実態

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 その籠池夫妻は、9月11日に追起訴された後も、勾留と接見禁止が続いている。弁護人が保釈を請求したが、却下された。これについて、ネット上では異論が飛び交った。

 たとえば、落語家の立川談四楼さんは、こんなツイートをしている。

〈「籠池夫妻の保釈請求を大阪地裁が却下」って、そんなべらぼうな話があるもんか。すでに4カ月も勾留され、家族にも会えないんだぜ。黙秘権の行使がそんなにいけないのか。逃亡、罪証隠滅の恐れ?そんなものあの夫婦にあるもんか。そうか、喋られちゃまずいことがあるんだ。やっぱりこれは報復なんだ。〉

 もっとストレートに、「籠池氏がまだ保釈されないのも総理の気持ちを考えた裁判所の忖度なのかな」「あり得ない。司法まで安倍に忖度?? おかしすぎる」「へたに出てきてもらっては、アベ首相が困るからだろう」などいった書き込みも多く、裁判所に対する不信感や不満がツイッターにあふれていた。

 心情は理解できるが、こうした批判は問題の突きどころがずれていると言わざるを得ない。今回のような司法の対応は、本件に限らず、実はいつものことだからだ。裁判所としては、安倍首相がからんでいるから特別な計らいをしたわけではなく、普段通りに対応しただけだろう。その普段の対応に、問題が潜んでいる。

 刑事事件の経験が豊富な山口貴士弁護士も、こんなツイートで的外れな批判をいさめた。

「裁判所が安倍夫妻の気持ちを忖度したのではなく、悲しむべきことに、人質司法の平常運転に過ぎません」

トンチンカンな非難は逆効果

 「人質司法」とは、自白しない被疑者を長く身柄拘束する、日本の司法の悪弊を言う。早く自由の身になりたいあまりに、虚偽の自白をして冤罪を生むこともある。

 大阪地検特捜部の主任検事が証拠の改ざんまで行った郵便不正事件では、実際に障害者団体の証明書を偽造した者は、長期の身柄拘束を恐れ、検察の筋書き通りの供述調書作成に応じてしまい、村木厚子さん(当時は厚労省局長)が巻き込まれることになった。しかも、検察の筋書きにそった「自白」をした者は、起訴されてすぐに保釈されたのに、否認している村木さん一人が長く勾留されることになった。検察側が強行に反対したため、裁判所が保釈をなかなか認めなかったのだ。

 籠池夫妻は、容疑に関して黙秘をしていると報じられている。自白していないうえに、夫婦が共犯ということで、保釈すれば口裏合わせをして「罪証隠滅のおそれがある」と、検察は猛烈に保釈に反対したことだろう。

 本当に罪証隠滅の可能性が高いと考えるなら、検察はマスコミに強制捜査着手の情報を流したり、任意の事情聴取初日に逮捕せず自宅に帰したりするようなことはしないはずだ。それでも、ともかく検察がそのように主張すると、裁判官はそれに引きずられがちとなる。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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