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江川紹子の「事件ウオッチ」第91回

籠池夫妻の長期勾留は異例なのか?森友問題幕引きを狙う安倍政権と、監視すべき「人質司法」の実態

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 東京高裁裁判長時代に20件もの逆転無罪判決を出すなど、慎重な事実認定と公正な量刑で定評があった元裁判官の原田國男弁護士に、人質司法について尋ねたことがある。原田氏は、検察側の主張に引きずられる裁判官心理を、次のように説明した。

「人質司法という問題の中心は、否認した時の『罪証隠滅のおそれ』なんですよ。裁判官も、否認すれば『罪証隠滅のおそれ』があるんだろうな、と考えてしまう」

「法律論としては、『罪証隠滅のおそれ』は抽象的なものではいけない。具体的な罪証隠滅のおそれでないといけないんですよ。でも、さて具体的にって言われても、なかなか難しい」

「(検察側が裁判官に提出する疎明資料の中に)なんか怪しいと思えることが書かれていると、具体的な『おそれ』まで行ってなくても、裁判官は『罪証隠滅やりそう』って考えがち。あくまで『おそれ』でいいわけだし、もし罪証隠滅されたら事件つぶしちゃうことになるから。自分の判断で事件つぶしちゃうのは困るから、身柄はとっておいて、決着は判決でつけよう、という判断になりやすいんだ」

 しかし、「とっておかれる身柄」の方にも、人生がある。判決で無罪になったとしても、拘束された時間は戻ってこない。有罪で実刑になるにしても、保釈期間中に身辺整理や社会復帰の準備ができれば、人生のやり直しもしやすいだろうし、事件によって迷惑をかけた人たちへの対応もできるだろう。

 批判をするなら、そのような時間を奪う身柄拘束についての裁判官の感覚や姿勢に対して向けられるべきで、トンチンカンな非難はかえって逆効果ではないか。

司法に適切な監視の目を

 一方、適切な批判はそれなりに効果を生むこともある。人質司法の弊害が叫ばれるようになって久しいが、ようやく裁判官の姿勢にも徐々に変化が見えてきた。

 司法統計年報によると、検察官が被疑者・被告人の勾留を求めたのに裁判官が却下した比率(勾留却下率)は、平成17(2001)年にはわずか0.45%だったのに、徐々に上がって昨年は3.86%となった。

 ただし、令状担当の裁判官の意識には相当のばらつきがあるのか、こうした数字にはかなり地域差がありそうだ。昨年10月31日の産経新聞電子版によると、勾留却下率は、東京では平成17(2001)年の1.33%から平成27(2015)には8.57%へと上がったのに、大阪は0.13%から2.06%の伸びにとどまっている。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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