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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

非燃焼・加熱式たばこ、有害性の指摘相次ぐ…アイコス、多量のニコチン含有との論文も

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
非燃焼・加熱式たばこ、有害性の指摘相次ぐ…アイコス、多量のニコチン含有との論文もの画像1「Thinkstock」より

「非燃焼・加熱式たばこ」という言葉をご存じでしょうか? 最近、国内で販売が開始されたものですが、文字通り、たばこの葉に火をつけるのではなく、加熱して発生する水蒸気を吸うという嗜好品です。

 火付け役は、世界的たばこ企業フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI社)でした。紙巻たばこのマールボロで有名です。2015年、同社がアイコスという名の製品を世界で最初に日本で発売し、15年からはスイスとイタリアでも試験的に売り出しています。

 この製品は、プロピレングリコールという薬品(保湿剤)に浸したタバコ葉を摂氏350度に加熱し、蒸気を発生させるという方式をとっています。最初に発売する地域として日本が選ばれた理由は不明ですが、国内のある病院がPMI社と共同で検証実験を行い、以下のような結果が得られたことも関係しているようです【注1】。

 喫煙者を「吸い続ける」「禁煙する」「アイコスに替える」の3群に分けて追跡し、たばこに含まれる15種類の有害物質を呼気で分析したところ、アイコスに替えた人たちは、禁煙した人と同じくらいの量に減少していたという内容です。PMI社は、その詳細を論文として公表したとしているのですが、不思議なことに私がいくら探しても見つけることができませんでした。

 17年5月、今度はPMI社とは無関係のスイスの研究者グループが一流の医学専門誌に論文を発表しました【注2】。内容は、アイコスの蒸気には、普通のたばこに対して84パーセントものニコチンが含まれており、さらに28種類の化学物質が0.1~295パーセントの割合で認められたというものでした。たばこの煙より3倍ほど多く検出される物質もあったということです。

 ワシントンポスト紙の記者が、さっそく著者のひとりにインタビューを申し込んだところ、「話はできない」と拒絶されました【注3】。後日、所属大学の広報担当からメールが届き、論文の発表後、「間違った研究を指導したことに抗議する」との手紙が、PMI社から主任教授あてに届いたとの事情が明かされました。

 同記者が、論文を掲載した専門誌の副編集長にコメントを求めたところ、「まるで脅迫文だ。こんな話は聞いたことがない」との回答だったそうです。

 PMI社は米国食品医薬品局に対し、たばこよりも安全な嗜好品としての発売許可を申請中で、本年12月中にも決定が下されるといわれています。ちなみに、同社の広報によれば、日本での調査データをもとに、アイコス愛好者の72パーセントはたばこをやめることができたとしています。

JTはプルーム・テック発売

 一方、日本たばこ産業 (JT)も負けていません。プルーム・テックという名の非燃焼・加熱式たばこを、昨年3月に発売しました。原理は、たばこ葉を直接的に加熱するのではなく、薬品を熱して発生する蒸気を送り込むという方式で、30℃ほどに熱せられるということです。使われている添加物はアイコスとほぼ同じです。

 JTが公表しているデータから計算すると、プルーム・テック一服中のニコチン量は、紙巻たばこ一服中の約0.27パーセントと、きわめて小さな値になります【注4】。しかし、アイコスの場合と異なり、第三者による検証実験が行われた形跡がなく、専門サイトで検索しても、12月4日現在、学術論文を見いだすことができません。

 通信社・ロイターによれば、JTは2018年上旬に全国販売を開始するとのことです。また来年中には400億円を投じて増産体制を組むことになっている、とも報じています【注5】。

 一方、英国のたばこ企業ブリティッシュ・アメリカン・タバコの日本法人も、グローという名の非燃焼・加熱式たばこを、2016年12月に発売しました。たばこ葉を240℃で加熱するとされていて、ここまでに紹介した2つの製品の中間形のようですが、詳細は不明です。

実験場にされる日本

 以上が現在までに明らかにされているファクトです。文中に記載した日付を見ておわかりのように、まさに現在進行形の出来事であり、紙巻たばこと同じくらい有害なのか、少しは害が低いのか、あるいはまったく無害なのか、現時点で判定を下すことはできそうにありません。

 たばこの煙が肺がんの原因となることは、いまや万人の認めるところですが、最初の論文が1946年に発表されてから決着がつくまで、実に60年もの歳月を要しました。たばこ産業によるデータのねつ造や妨害などもあり、混乱をきわめた時期が長く続いたからです【注6】。

 日本は、世界のたばこ産業から、新たな商品の実験場として利用されているようです。実際、非燃焼・加熱式たばこを吸い過ぎたことが原因で、好酸球性肺炎という重い病気を発症した日本人の事例が、被害者第1号として医学専門誌に報告されています。

 米国のメディアには、「発がん物質が蒸気に含まれている」「もし発売が許可されるなら、たばこと同様の扱いにすべきだ」「たばこより安全だと主張しているが、ビルの10階から飛び降りるのは50階から飛び降りるより安全と言っているようなもの」などの批判が続々と寄せられています。

 海外での懸念をよそに日本では、若者たちの間で急速に人気が高まっているようで、禁煙の輪を広げるどころか、むしろ喫煙者の層を広げてしまっていないのか、気になります。本稿が、日本での議論を深めるきっかけになれば幸いです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

【参考文献】
注1)Philip Morris International Inc. Latest clinical research confirms that IQOS reduces smoker exposure to select harmful chemicals as compared to cigarette smoke. Business Wire, March 27, 2017.
注2)Auer R, et al., Heat-not-burn tobacco cigarettes: smoke by any other name. JAMA Intern Med, published on line, May 22, 2017.
注3)Wan W, Big Tobacco’s new cigarette is sleek, smokeless — but is it any better for you? Washington Post, August 11, 2017.
注4)プルーム・テックに関する情報提供, 日本たばこ産業株式会社, インターネット, 2017年9月8日.
注5)FDA move on nicotine could boost Philip Morris iQOS smoking device. Reuters, July 28, 2017.
注6)Iida K, et al., Learning from Philip Morris: Japan Tobacco’s strategies regarding evidence of tobacco health harms as revealed in internal documents from the American tobacco industry. Lancet 363: 1820-1824, 2004.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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