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登山やスキー場で遭難、救助費用300万円請求も…事前の保険や補償制度活用は必須

文=OFFICE-SANGA
登山やスキー場で遭難、救助費用300万円請求も…事前の保険や補償制度活用は必須の画像1「Thinkstock」より

 上越・北陸の山々では、10月の終わり頃には早くも初冠雪が記録された。もうすぐ、本格的な雪山シーズンが到来する。しかし同時に、毎年目にするのが、雪山での遭難事故のニュースだ。テレビ画面には、出動する捜索ヘリや、山に分け入る捜索隊の様子が映し出される。人命が第一であることはいうまでもないが、同時に話題になるのが、捜索の「費用」である。

 ここ数年で目立ったのが、スキー場のコース外で発生するバックカントリースキーヤーの遭難事故だろう。愛好者の増加とともに、経験の浅いスキーヤーたちの道迷いや遭難が後を絶たず、各自治体では、遭難捜索費用を制定する動きが広がっているという。実際、遭難捜索費用はいくらくらいかかるのだろうか。

 たとえば、妙高杉ノ原、池の平温泉、赤倉観光リゾート、赤倉温泉を中心に大型スキー場が集まる新潟県妙高市では、市内のスキー場、上越森林管理署、妙高市自然管理事務所や有識者たちによって「妙高市スキー場協議会」が組織され、一定の遭難捜索費用を制定しているという。

「しかし、エリアや立地条件により、制定された費用に加えて独自の費用を設けるスキー場が増えています」(妙高市役所観光商工課:宮下たかし氏)

 長野県野沢温泉村では2010年、全国で初めて「スキー場安全条例」を制定。遭難捜索費用は、条例の中で以下のように制定されている。

(捜索救助費用の弁償) 第 11 条
スキーヤーは、第7条第1項に定められたスキー場区域に属さない区域において発生した事故により捜索救助を受けた場合は、その費用を指定管理者に弁償しなければならない。

 では、その捜索費用はいったいどのくらいかかるのか、野沢温泉村観光産業課に問い合わせた。上記の長野県野沢温泉村では、15年9月25日付で、統一基準が設けられたという。その金額が以下だ。

・出動手当……昼間(※夜間の捜索活動は行われない)2万円/1人
・食糧費……1000円/1人
・本部設営費……3万円
・保険料……1万5720円/1人 ※捜索活動のための保険は限られており、7日間のみの保険加入となる)
・車両……冬季は雪上車が必要。費用は各スキー場で設定
※飯山警察署管理内の山域で発生した遭難事故で、遭難対策協議会が出動した場合。雪上車については各スキー場によって異なるが、1時間当たり5万円と設定しているスキー場もある。

遭難した場合の対処法

 もし遭難し、数日がかりの捜索が行われたとしたら、どうなるだろうか。「バックカントリースキーでの雪山遭難」というケースを想定し、日本山岳救助機構合同会社(Japan Rescue Organization LLC=以下、jRO)に、実際の捜索活動の方法を聞いた。推定される費用を算出するとともに、実際に遭難してしまった場合、どうすればいいのか。また、遭難回避の心構えや損害賠償の救済措置などについても教えてもらった。

【モデルケース】
A男32歳・独身。都内で一人暮らし。実家は関西(両親と兄一人)。バックカントリースキー歴3年。今年も正月休みを利用し、長野県のスキー場を訪れた。同行の友人が仕事で1日遅れることになり、初日は想定外の単独行。装備は軽装で、行動食と携帯電話のみ。夕方5時、道に迷い救助要請。3日目の夕方、無事に救助。捜索出動人数は、最終的に30人。地元の病院に3日間入院。両親と兄も駆けつけ、同行の友人のほか、会社の同僚や上司ら5人が東京から来てくれていた。

 このようなケースで道に迷ったら、どのタイミングで連絡するべきだろうか。

「まず落ち着いて自身の置かれている状況を判断し、遭難した可能性があると思った時に、携帯の電池が切れる前に連絡を」(jRO)

 まず、どこに連絡するべきかといえば、警察(110番)または消防(119番)だ。家族や友人への連絡はそのあとで、電池の消耗を最小限にすることが大事だ。軽装で、ビバーク(緊急時の野営)の装備もない場合は、「持っているものをすべて着込んで防寒対策をしましょう」(同)とのこと。

「救助がどのような連携で行われるのかというと、本人、またはスキー場のスタッフがまず警察に連絡して、救助要請を行います。警察は情報を集めて、地元の遭難対策協議会(以下=遭対協)のメンバーを招集。時間や天候、雪崩等を考慮して、ヘリコプターを飛ばせるかの判断を行います。夜間は救助活動ができないので、翌日の活動計画を立てる。翌日から警察、遭対協が1週間ないし10日程度の捜索を行います。警察はここまでで、これ以降は遭対協と民間の救助隊が警察や家族の要請のもと、捜索活動を行います。警察の動きはあくまで推測の範囲です」(同)

 登山届が出ていない場合、捜索場所の推測は、同行者がいればその友人の話でスキー場外のおおよそのコースを選定するという。

300万円以上請求されるケースも

 ヘリコプターによる捜索はどの段階で行われるのか。公的なヘリコプターと民間会社のヘリコプターの使用基準はどうか。

「天候次第で判断しますが、可能な限り速やかな飛行が考えられます。警察、消防、行政、自衛隊の公的なヘリコプターは費用が発生しません。民間のヘリコプターは費用が1分当たり約1万円といわれています。しかし現在、民間のヘリコプターは二次災害の危険などを考慮して、ほとんど出動することはないと思われます」(同)

 初動捜索は状況により異なるが10人ほどで、ヘリコプターと並行して地上から徒歩による捜索が行われる。この事例で想定されるおおまかな費用は以下のようになる。

・遭難対策委員会出動人数――30人(最低でも10人)
・雪上車出動――1台(20時間)
・捜索期間――2日間
・入院費――3日
・両親・兄――交通費(大阪⇔長野×3人)
上司・友人――交通費(東京⇔長野×5人)
ほか、謝礼など。

 これに、上記の野沢温泉村で制定している遭難捜索費用をあてはめて計算してみると、300万円は超えてしまうことがわかる。個人で負担するにはあまりにも大きい金額だ。何か救済措置はないのだろうか。

 そんなときに役立つのが、各種保険のほか、jROが運営している山岳遭難対策制度だ。会員が遭難して捜索費用の支払いが発生した場合、「jROが支払った救助費用の総額を、全会員で除した金額を公平に分担するもので、会費も廉価で透明性や公平性が保たれ、山を愛する人たちの相互扶助の精神にかなうもの」という、まさに山岳スポーツ愛好家のための制度だ。

 その他、全国で安全登山の講習会や講演会も開催しており、会員はもちろん一般の登山者も無料で安全登山の知識を得ることができる。

「jROの会員であれば、本人が支払った救助に関する費用が後日、330万円を限度に補てんされます。また家族や関係者が駆けつけた時にかかった費用も10万円を限度に補てんされます。こうした保険や遭難対策制度の類に入っていない場合は、すべて個人の負担となります。さらに、救助費用のほかにスキー場の営業補償など、多額の費用を請求される場合も考えられます。

 また、たとえバックカントリーでも、スキー場の管理区域以外の活動は登山届の提出は必須です。各種の山岳保険や弊社のカバレージ制度などの遭難対策制度に加入することをお勧めします」(同)

 装備の充実はもちろんだが、登山届は必ず提出すること。軽い気持ちで山に入ってはならない。さらに、万が一に備えて、保険やカバレージ制度に入っておけば安心だ。備えあれば憂いなし。楽しいスノーシーズンを満喫しよう。
(文=OFFICE-SANGA)

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