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渡辺雄二「食にまつわるエトセトラ」

「キャリーオーバー」問題の実態…悪用で添加物非表示が蔓延の恐れ

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
「キャリーオーバー」問題の実態…悪用で添加物非表示が蔓延の恐れの画像1写真キャプション:「Thinkstock」より

 コンビニエンスストアスーパーマーケットなどで食品を購入する際に、製品の裏側にある原材料名を見て、どんな添加物が使われているのかをチェックしている人も少なくないと思います。また、なかには「実際には、表示されていない添加物が使われているのではないか」という疑問を持っている人もいると思います。

 現在、市販の加工食品のほとんどには、保存料、着色料、酸味料、調味料などの添加物が使われていますが、製造の際に使われた添加物は、原則として原材料名欄にすべて表示することになっています。したがって、それをよく見れば、どんな添加物が使われているのか、誰でも知ることができるのです。

 ところが、実際には原材料名欄に表示されていない添加物が食品に含まれていることがあります。それはキャリーオーバーというもので、食品を製造する際に使われる原材料にもともと含まれていた添加物については、表示を省略できるケースがあるためです。

 たとえば、せんべいを製造する際には、一般に米としょう油が使われますが、しょう油には保存料が添加されていることがあります。しかし、出来上がったせんべいに、この保存料が残っていない、あるいは残っていても保存料として効果を発揮しないほど微量であれば、キャリーオーバーと判断され、製品の原材料名欄に表示されないことになるのです。

 キャリーオーバーについては、2015年4月から施行された食品表示法に基づく食品表示基準で、「食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されないものであって、当該食品中には当該添加物が効果を発揮することができる量より少ない量でしか含まれていないものをいう」と定義されています。

 ただし、「かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されないものであって」という文言からも分るように、その添加物と同じものが、その加工食品を製造する際にあらためて使用された場合には、当然それは表示しなければなりません。

キャリーオーバーを利用した巧妙な「添加物隠し」

 キャリーオーバーで問題なのは、「効果を発揮できるか、できないか」という判断を、食品メーカー自身が行うことです。前述のせんべいの場合、しょうゆに添加されていた保存料が、最終的なせんべいに残っていても、メーカーが「効果を発揮できないほど微量」と判断すれば、製品の原材料名欄に「保存料」と表示されないことになります。

 ところが、実際には微量とはいえ、残ったその保存料が、保存の効果を発揮しているケースが十分あり得るのです。これは、結果的にせんべいに保存料が含まれているということです。しかし、原材料名欄には「米、しょうゆ」という表示しかなされません。つまり、この場合、表示されていない添加物が実際には含まれているということです。

 このキャリーオーバーが、隠れ蓑として悪用されているケースがあると考えられます。たとえば、レトルトスープの原材料にベーコンをすり潰したものを使っていたとします。ベーコンには通常、発色剤の亜硝酸Na(ナトリウム)が添加されています。この亜硝酸Naは毒性が強く、また肉に含まれるアミンという物質と結合して、ニトロソアミン類という発がん性物質に変化することが知られています。

 そのため、メーカーとしてはあまり亜硝酸Naが含まれていることを消費者に知られたくないという面があります。そこで、メーカーでは、レトルトスープに残っている亜硝酸Naは微量であり、効果を発揮しないと判断し、キャリーオーバーということで、原材料名欄に「亜硝酸Na」を表示しないということはあり得るのです。

 しかし、ベーコンをすり潰しても亜硝酸Naはなくならないので、実際には効果を発揮する量が残っていることは十分に考えられるのです。

昆布エキス、チキンエキスにも添加物使用か

 実際にこんなケースがありました。以前、千葉県内のスーパーで、あるメーカーの生そば製品を手に取り原材料名欄を見ると、「小麦粉、そば粉、食塩、調味酢」とだけあり、添加物は表示されていませんでした。

 筆者は「調味酢」があやしいと感じ、直接メーカーに問い合わせたところ、「調味酢は、りんご酢とアルコールを発酵させてつくった醸造酢で、酸味料と香料が混ぜてあるが、『調味酢』という表示でよいとのことなので、その通りにしている」という答えが返ってきました。

 つまり、酸味料と香料を勝手にキャリーオーバーと判断し、表示していないのです。しかし、調味酢は小麦粉やそば粉などに混ぜているだけなので、実際には酸味料と香料は効果を発揮するほど残っているといえます。

 これはほんの一例ですが、同様のケースはほかにもあると考えられます。たとえば、最近、「昆布エキス」や「チキンエキス」などのエキス類が多くの加工食品に原材料として使われていますが、これらに添加物が使われていて、それが最終食品に残っていないのか、疑わしい製品があります。

 昆布エキスやチキンエキスなどは、通常、昆布やチキンなどをお湯で煮立てて、含有成分をお湯に溶かし出して濃縮したものです。ただし、その際に添加物の調味料や保存料などが使われていた場合、それらのエキスを原材料として使い、最終食品に調味料や保存料が残っていた場合、原材料名欄に「調味料」、あるいは「保存料」と表示しなくてはなりません。

ところが、メーカー側が、「残ったそれらの添加物は微量で効果を発揮しない」と判断すれば、キャリーオーバーということで表示されないことになります。

 原材料にもともと使われていた添加物が、最終食品に効果を発揮するほど残っていたとして、それがきちんと表示されているかどうかについて、消費者が原材料名欄を見て判断するのは至難の業です。しかし、前出の生そば製品のように「あやしい」と感じたら、メーカーのお客様相談室などに問い合わせるとよいと思います。消費者がそうした点に関心を持っていることをメーカー側が知れば、キャリーオーバーを悪用するケースは少しずつ減っていくことでしょう。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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