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江川紹子の「事件ウオッチ」第98回

ポーランドがホロコーストに関する表現規制へ…我々は負の歴史とどう向き合うべきか

文=江川紹子/ジャーナリスト

 また、文在寅大統領は今月1日、戦前の日本の植民地支配に対する3.1独立運動の9周年記念式典に出席し、次のように述べた。

「戦争中に起こった反人倫的な人権犯罪は、終わったという言葉で覆い隠されない。不幸な歴史であるほどその歴史を記憶し、歴史から学ぶことだけが真の解決だ」

 いずれの発言に対しても、日本側は「日韓合意に反するものであり、まったく受け入れられず極めて遺憾だ」(菅義偉官房長官)と反発し、外交ルートを通じて韓国側に「絶対に受け入れられない」と通告した。

 韓国側は、外相も大統領もいずれも「歴史(の教訓)を学ぶ」ことの大切さを語っている。その通りだと思う。日本は、日本の未来のためにも、負の体験も含めて過去の歴史から学んだ事柄を、しっかり次世代に伝えていく必要があるだろう。

 ただし、歴史から学ぶ態度の重要性は、韓国も同じはずだ。

 歴史を学び、歴史から学ぶためには、過去の事実を掘り起こし、検証し、分析し、考察し、公表し、議論するという行為が、自由闊達に行われることが非常に重要だ。その点、韓国はどうなのだろうか。

 日本との関わりについては、被害者史観、それに抗った英雄史観が強調されるがあまり、それと異なる多様な視点での調査や研究が抑圧されてはいないか。

 朝鮮人慰安婦問題について、世宗大学教授の朴裕河(パク・ユハ)教授は、著書『帝国の慰安婦~植民地支配と記憶の闘い』が元慰安婦らの名誉を毀損したとして刑事訴追されている。一審は無罪となったものの、昨年10月、ソウル高等裁判所が罰金1000万ウォン(約100万円)の逆転有罪判決を出した。

 朴教授は同書の中で、慰安婦が「自発的か、力による強制か」という側面にこだわるのではなく、元慰安婦の声に耳を傾けたうえで、日本の植民地支配、国家主義、そして当時の社会における家父長制などの構造的な問題を批判的に論じた。

 韓国の元慰安婦支援団体が主張し、同国内で流布している慰安婦イメージは、もっぱら「無垢な少女が日本軍に強制的に動員され、慰安所で虐待を受けながら性奴隷としての生活を強制された」というもので、その象徴が日本の大使館前などに設置されている少女像だ。

 一方、朴教授の著書で紹介されている慰安婦たちの体験は、実に多様だ。元慰安婦の証言で「日本軍に強制連行」されたと話しているのはむしろ少数で、さまざまなかたちで「誘惑」され、家族のために犠牲になったり、騙されるなどして応じた者が多かったという。また朝鮮人慰安婦は、「同じ日本人」として動員されており、実際には差別を内包しながらも、外見的には日本兵士と「同志的関係」にあって、そこが他のアジア諸国の人々と異なるとの指摘もある。

 同書はまた、ひたすら日本の国家による法的賠償を求める支援団体のやり方に対しても、「日韓請求権協定で、両国間の賠償はすべて解決済み」としていた日本政府に対しても、批判的な評価を加えた。

 これらの指摘が、韓国の元慰安婦支援団体を激怒させ、彼女たちが支援を行っている元慰安婦による告訴ということになったとみられる。

 一審のソウル東部地裁は、「あくまでも価値判断を問う問題であり、刑事手続きにおいて法廷が追及する権限や能力を超える」と判断。「公的な事案について表現の自由はより広く認められなければならず、名誉毀損について厳格に審査しなければならない」とする最高裁判例に則り、「名誉毀損は認められない」「学問的表現は正しいものだけでなく、間違ったものも保護しなければならない」などとして無罪とした。

 学問の自由、言論の自由を重んじる、民主主義国家としては当然の判決だった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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