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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

労働生産性が低い日本人は、本当に仕事ができないのか? 大いなる誤解

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

 とはいえ、これまで日本人全体で賃金下落を受け入れてきたわけですが、ずっとこのままでよいとは思えません。この間ずっと日本人の労働者が効率の悪い働き方をしていたわけではありません。試しにこんなことを考えてみましょう。

 スマートフォンを発明した時価総額世界一のアメリカの会社、アップルがあります。もう一つ、歴史と伝統があるのだが業績が停滞している日本の巨大企業、X社があるとします。アップルとX社の社員をそっくりそのまま入れ替えたとします。

 そうすると、日本のX社の労働生産性はアップル並みになるでしょうか。

 もちろん、なりません。それは社員の能力や効率性、がんばりなどの差ではありません。理由はX社には儲かる商品がないからです。
 
 同じことを別の切り口から見てみましょう。経済産業省のウェブサイトでは、都道府県別の労働生産性のデータが公開されています。2013年のデータを見ると、日本全国の平均は756万円に対して、東京都は1100万円となっています。その差はおよそ350万円です。働いているのは同じ日本人ですが、労働生産性の差は3割以上もあります。

 東京の人は全国平均より能力が高いのでしょうか。東京以外の人は、東京の人よりサボっているのでしょうか。

 また、産業別の労働生産性のデータも同じサイトからダウンロードすることができますが、それを見ると一番高い産業と低い産業とで、6倍近い差があります。労働生産性の低い産業に従事している人は、能力が低く、がんばってないということはないはずです。

もっとがんばるのではなく、利益率の高いビジネスに移行することが必要

 さて、だんだんと問題がはっきりしてきました。

 要するに日本の問題は、働きたいと考えている人のほぼ全員が仕事に就いているわりに、ほかの先進国と比べるとあまり儲かっていないということです。単純に会社の利益を増やすには人をクビにすればいいだけです。しかし、国全体で見ると失業率が上がります。会社と違って国は国民をクビにすることはできません。社会保障のシステムはありますが、やはり働ける人、働きたい人には仕事をしてもらわなければ、国の経済システムは成り立ちません。だから、現在の日本は、正社員の解雇に強い規制をかけていますし、公共投資や、統計を読み解かなければわからないような、一見民間の事業に見えるようで実は国がお金を出している事業を行い、国民に仕事を与えているわけです。

 我が国は今のところこれでなんとかやっていますが、財政赤字がどんどん膨らんでいることからもわかるとおり、今の構造は長続きするとは思えません。労働生産性を上げるには、付加価値の量を増やす取り組みが必要なのですね。

 日本人はほかの先進国と比べて、平均的な能力は高く、真面目で、しかもバラツキが少ないと、私は思います。1億人以上の人口がいる国としては、ほかに例がないくらいです。

 もう、十分にがんばっています。しかし、がんばり方を変えなければならないことも事実です。

 あるコンビニの店員が努力した結果、レジ打ちのスピードが倍になったとします。しかし、それでは付加価値は増えません。商品は同じだし、お客さんも増えないからです。また、ホワイトカラーであればエクセルやワードのスキルが上がって、3時間かかっていた資料づくりが1時間になったとしても、効率的にはなりますが、付加価値は増えません。浮いた2時間で、もっと多くの人が高いお金を払ってくれる商品やサービスをもっと安くつくり、お客さんを増やすことを考えなければ本当の意味での生産性は上がらないのです。

 日本人は生産性が低いといわれると、あまりいい気分ではありませんが、一個人として日本全体の生産性を上げることを意識する必要があるかどうかは、疑問です。個人として考えるべきことは、いかに短い労働時間で高い賃金を得るかです。この問いに我々一人ひとりがそれぞれの答えを見つけることができれば、ワークライフバランスを実現することもできますし、結果的に日本全体の生産性向上につながるはずです。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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