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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

あり得ない失言や言い間違えは、その人のホンネと人柄そのものである

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

「開会」宣言のつもりで「閉会」を宣言した議長

 
 このような失言の背後に潜む深層心理を解明したのが、うっかりしたミスの精神分析を行ったジグムント・フロイトである。フロイトは、失言に代表されるうっかりしたミスについて、たいていは興奮、疲労、不注意などの生理学的要因のせいにされがちだが、そこに潜む心理学的要因が見逃されているという。

 たとえば、議会において、「開会を宣言します」というつもりの議長が、うっかり「ここに閉会を宣言します」と言ってしまった例について。議長が疲れており注意散漫になっていたからだろうといった生理学的要因による説明も、確かに成り立つ。

 でも、疲れていたから言い間違えたのだとしても、なぜ間違えたのが「開会」の箇所であって、他の箇所ではなかったのか。しかも、「開会」の代わりに口から出た言葉が、なぜよりによって「閉会」だったのか。これをすべて偶然のせいにしてしまってよいのだろうか。

 ここに浮上してくるのが、心理学的要因の存在だ。言い違いも、それなりの目的をもった心理的行為だとみなすのである。

 そういう目でこの議長の心理状況をチェックしてみると、じつは議会の形勢が思わしくなく、一応開会は宣言しなければならないものの、できるだけ早くお終いにしてしまいたいという思いが強く、それが「開会」を「閉会」と言い間違えさせたとみることができる。

 議長の心の中には、会議を開かなければならないという意図と、開きたくないという意図の2つが同時にあった。この2つが衝突し、せめぎ合った結果、言い間違いが生じたわけである。

 だが、そうしたせめぎ合いが心の中で生じていることに本人自身が気づいていないことが多い。だから、うっかり失言しても、平気でいるのである。じつは、失言によって隠しておきたい内面が見えてしまっているのに。

上司に対する祝辞を言い間違えた部下

 
 もう少し具体的なケースについてみてみよう。
 
 あるパーティの会場で、上司に対して祝辞を述べる際に、「健康を祈って乾杯しましょう(anstossen)」と言うつもりで、「健康を祈ってゲップしましょう(aufstossen)」と言ってしまったケースについて。

 このような場合、言ってしまった当人は大慌てで謝罪し、訂正し、会場は大きな笑いの渦に包まれ、和やかに進行するのが常だろうし、それは緊張のあまりうっかり言い間違えてしまったに違いないと誰もが思うはずだ。日本語にしたら、こんな言い間違いはあり得ない。だが、ドイツ語では、語が非常に似通っており、うっかり言い間違えてもおかしくない。緊張のあまりうっかりしてしまった。それはそうだろう。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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