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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

あなたも、いつの間にか嘘をついている…無意識の記憶違いが、人間関係トラブルの元凶

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 だが、記憶の偽造というのは、案外簡単にできることが、心理学の実験によって証明されているのだ。

 心理学者ロフタスが、記憶がねつ造されることを証明するために行ったのが、ショッピングモール実験である。それは、次のようなものだ。

 実験協力者の家族から、当人が子どもの頃に経験している出来事を3つあげてもらう。そして、実際には経験していないことを確認した上で、ショッピングモールで迷子になったという偽の出来事を加えて、4つのエピソードを示し、それぞれについて思い出すことを記入してもらう。

 その結果、ある若者は、実際には経験していないにもかかわらず、「本当に怖くて、もう家族には会えないかもしれないと思った」とその時の恐怖を思い出したり、「お母さんがもう二度と迷子になっちゃダメよと言った」と母親から注意されたのを思い出したり、「おじいさんのフランネルのシャツを思い出した」と助けてくれた老人の服装を思い出したりしたのだった。

 実際には経験していないのに、経験していると思い込まされることで、具体的な詳細まで思い出してしまうのである。いや、思い出すのではなく、記憶をねつ造してしまうのである。

 その若者に、じつは4つのうちひとつは偽物のエピソードで、実際には経験していないのだと伝え、それはどれだと思うかと尋ねると、なんと実際にあった出来事のひとつを選んだのであった。記憶のねつ造、大成功である。

 この実験を18歳~53歳の24人に対して行ったところ、実際に経験している3つの出来事については68%がすぐになんらかのことを思い出した。一方、偽の出来事については、29%しか思い出さなかった。29%と68%というように大きな差がついたが、重要なのは実際に経験していない出来事について、3割がなんらかの事を思い出したという点である。

 本当はショッピングモールで迷子になどなっていないのに、そのときの恐怖心を思い出したり、母親から後で注意されたことを思い出したり、助けてくれた老人の容姿・容貌や服装を思い出したりする者が3割もいたのだ。

 私も、ロフタスと同様の実験を何度か行ってみたが、いずれの場合も記憶のねつ造に成功した。
 
 ただし、経験していない出来事が突然記憶に入り込むということではない。どこかで迷子になったことがある。何かで母親から注意されたことがある。何かの折りに老人から親切にされたことがある。そのようなどこかで経験している記憶の素材が、エピソードに沿ってかき集められる、ということだろう。

 こうして記憶は案外簡単にねつ造されてしまうことが証明されたのである。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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