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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

独占市場のテレビ局と自民党、その鉄壁の「互恵関係」と「利益配分システム」

文=加谷珪一/経済評論家
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 つまり、政権与党から見れば、放送法が存在することで、放送局の免許停止をチラつかせ(公平性担保の範囲内において)与党に有利な番組をつくるよう誘導することができる。放送法による公平性の維持というのは、いい換えれば、政府が放送に介入する手段でもあった。

 実際に免許停止に至ったケースはないが、免許という存在が、マスコミに対して一種の「忖度」を発生させていたことは間違いない。

 もう一つは、地方への利益配分という経済的理由である。

 テレビ局の広告収入には、タイム広告収入とスポット広告収入の2種類がある。タイム広告は、個別の番組ごとに発生する広告で、スポット広告は、番組とは関係なく局が定めた時間に放送される広告である。番組中に「この番組はA社の提供でお送りします」というかたちで提供表示されるのがタイム広告である。一方、スポット広告は、番組と番組の間や、番組中の特定時間帯に枠が設定されている。

 キー局が広告主に対して提示するタイム広告の価格は、全国に視聴者が存在することが大前提となっている。キー局は傘下の地方局に番組を配信しているが、広告料金にはこれらの視聴者分が含まれているわけだ。

 したがって、キー局5社は広告収入の約15%、金額にすると1300億~1500億円程度を系列の地方局に分配している。これらをすべて差し引き、人件費や減価償却費などを引いた残りがキー局の利益になっている。

分配金がないと地方局は存続できない

 逆にいうと、キー局から地方局に分配されるネットワーク分配金は、実は地方局の経営を支える収益源となっている。キー局の系列下にある地方局は全国に100ほどあるが、全社の放送収入を足し合わせるとおおよそ6000億円になる。つまり、地方局の売上高の約25%がキー局からの分配金で占められており、この水準が維持できなくなると地方局の経営が一気に苦しくなってしまうのだ。

 地方局はネットワーク分配金以外にも、自主制作した番組のタイム広告収入やスポット広告による収入がある。だが、地方局は自主的な番組制作をほとんど行っておらず、キー局からの番組提供が全体の8~9割を占めるのが実情である。売上の半分を占めるスポット広告もキー局の番組を配信していればこそであり、地方局には自らの裁量で経営をコントロールする余地はほとんど残されていない。

 その一方、地方テレビ局は、各地域においては突出した優良企業であり、地域経済に大きな影響力を持っている。各地域の与党議員にしてみれば、政府の管理下にある超優良企業が自らの選挙区に存在していることのメリットは計り知れない。つまり、多くの与党議員は、キー局を中心としたテレビ局ネットワークがないと政治活動に支障が出てしまうというのが現実なのである。

 現在のキー局と地方局との関係や資金の配分は、自民党が長年かけてつくり上げてきたものである。結局のところ、政権与党と既存のテレビ局は持ちつ持たれつの関係であり、放送局の独占を手放したくないのは、実は自民党なのである。

 首相や首相周辺がそのあたりを理解していないはずはなく、そうであれば、放送法の改革はあくまでパフォーマンスということになるだろう。もし、首相が本気でテレビの状況を変えたいと思っているのなら、それは与党内における政局の引き金となる可能性もある。
(文=加谷珪一/経済評論家)

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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