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イタリアより労働時間の短い日本で、今の働き方改革は無意味だ…さらに生産性低下も

文=井上隆一郎/桜美林大学教授
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生産性を上げるとはどういうことか

 
 生産性とは何か。難しくいえば、産出と投入の比率である。つまり、より少ない投入で産出が得られるか、投入に対してより多くの産出が得られるなら、生産性が向上したということになる。労働生産性を論じる場合、算出は生産額、投入は労働時間である。しかし経済的成果として考えるなら、生産額より販売された額としたほうが良い。売れないものをいくら高い生産性で生産しても意味がないからだ。さらに、販売額は売価に販売量を乗じたものである。従って、生産性を定義する式は下のようになる。

労働生産性=販売額÷労働時間=売価×販売量÷労働時間

 この式によれば以下のことは明らかである。

 販売額が変わらず労働時間が短くなれば、生産性は上がる。また、労働時間が変わらず販売額が増えても生産性は向上する。販売額が増えて労働時間が減れば、さらに生産性は向上する。生産性を上げるために打つべき手立て、すなわち労働時間を問題にするのか、販売額を問題にするのかなのだが、それは、時代、国・地域、企業によりそれぞれ異なる。

 現在の日本で必要な手立ては何か。その手立てに働き方改革裁量労働制はマッチしているのか。これが問われなければならない。先に見たように、アメリカの労働時間のほうが多いくらいで、日本の労働時間はG7諸国の中で際立って多いわけではない。これを減らしてしまうと短期的には販売数量が減る可能性もあり、そうなれば生産性は向上しない。従って、裁量労働制、働き方改革が、単なる労働時間の短縮を目的にするものであれば当面は無意味である。

 労働時間でないとすれば、販売額にこそ注目しなければならない。売価を上げるか、販売数量を増やすかのどちらかである。働き方改革、裁量労働制は、売価や販売数量の向上に寄与するかどうか、この点がポイントである。労働時間の短縮ではなく、これを増やさず、売価や販売数量を向上させることが課題なのである。投入の問題ではなく産出の問題である。裁量労働制、働き方改革が無関係とはいわないが、もっと重要な改革なくして算出を増やすことはできない。

経営者改革こそ本質的課題

 算出が増大するのは、まず第1に売価が上がることである。製品やサービスの価値が上がり、顧客の支払い意欲の水準が上がることである。第2に販売数量が増えることである。前者は製品・サービスの開発力の向上そのもの、製品開発戦略の問題である。後者は少子高齢化により人口が減少している国内だけでは難しく、国内の市場開拓に加えグローバルな販路開拓が不可欠で、企業戦略の問題である。

 つまり、労働者の働き方改革や裁量労働制のレベルの話ではなく、経営戦略の問題である。つまり、労働者の問題ではなく、経営者の問題である。

 製品開発力やグローバル戦略には経営者の能力が大きくかかわっている。せっかく開発した、ヒットする可能性の高い製品・サービスも経営者の愚かな判断で葬り去られ、投入した時間は無駄になった例は多い。シャープや東芝などの過去の失態をフォローすると、経営者の愚劣な選択が、生み出された多くの価値あるもの、価値あるものとして販売される可能性を葬り去ったことに気がつく。まさに経営者の能力の制約により、生産性が下げられているのである。

 正しく運用されるなら、働き方改革、裁量労働制そのものが、労働者の福祉という観点では、方向として間違っているとは思わない。しかし、これによって生産性が向上すると考えるのはナイーブすぎる。現代の日本における生産性向上は、経営者の製品戦略や市場戦略、さらには経営戦略が真っ当であって初めて実現できることを忘れてはならない。
(文=井上隆一郎/桜美林大学教授)

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