<不服審査の申し立てや訴訟で争うことができるか否かは条例で定められるものではなく、行政不服審査法や行政事件訴訟法に基づいて決せられるべきものであるから、「不服審査の申し立てや訴訟もできない」というのは、原告の誤解である>(都の答弁書より)
わけがわからない主張だった。情報公開の黒塗りに不服を申し立てたり、訴訟をする手続きは、たしかに行政不服審査法や行政事件訴訟法に根拠がある。だからこそ筆者は情報公開請求の手続きをしたつもりだった。しかし都によれば、まるで情報公開請求以外に方法があるかのようなのだ。
いったいどんなやり方なのか、法廷で筆者は都代理人の橋本勇弁護士に尋ねた。
三宅「領収書の黒塗りに対する不服申し立てや裁判は、情報公開請求制度を使う以外にどうやればいいんでしょうか」
橋本弁護士「それは自分で考えてください」
三宅「私は考えた結果、この情報公開請求をしたんですが……」
裁判官も苦笑ぎみに「もう少し明確に主張してください」と都代理人に言った。
はたしてどんな主張をしてくるのかと期待していたところ、今年4月、第2回目の口頭弁論を目前にして都はあっさりと白旗をあげた。却下処分を取り消したのだ。情報公開請求に対して却下したのが昨年9月25日、訂正するのにじつに7カ月を費やした計算だ。
これだけの時間と労力を経て、ようやくほかの自治体並みに「領収書の黒塗りの不当性・違法性」をめぐる不服申し立てや裁判が、情報公開の手続きにのっとってできるようになったわけだ。何が情報公開の推進か、ため息がでる。
すでに黒塗りしたものを、もう一度「点検」
ところで、この情報公開請求に対する「却下」の誤りを都が認めたことで政務活動費の調査に進展があった。大量にある政務活動費の領収書を、これまでは1枚10円でコピーしていた。今後は情報公開請求の手続きを使うことによって、枚数にかかわらずDVD1枚100円で入手可能になったのだ。
今年夏から公開される分(17年度分)はインターネットで公開されることになったが、過去のもの(12-16年度分。ただし12年度分は今年4月末で公開を終了)は紙でしか見ることができない。それを金をかけずにデータで手に入れて、じっくり調査することができる。
筆者はさっそく、近々廃棄が予定されている12年度分の領収書約3万枚を情報公開請求した。すでに黒塗りの状態で棚に並べてあったものだから、機械的にデータ化するだけである。さほど手間はかからないだろうと思っていたら、先日都議会事務局からこんな連絡があった。
「一枚一枚非開示部分について精査する必要があるので、相当な時間がかかる。見通しはたたないが数カ月は確実にかかる」
すでに黒塗りしたものを、もう一度点検するという。いったい何度黒塗りすれば気が済むのか。あきれるばかりである。
東京都の情報公開は「推進」どころか、まずは日本の平均値に到達することが課題であることがはっきりした。もっとも、情報公開や公文書管理に関して日本は国際的に著しく遅れているとの指摘がある。全国平均に近づいたからといっても自慢できる話ではない。
なお、情報公開・公文書管理分野における日本の後進性については、『国家と秘密 隠される公文書』(久保享・瀬畑源著、集英社新書)、『公文書問題 日本の「闇」の核心』(瀬畑源著、同)に詳しい。
(文=三宅勝久/ジャーナリスト)