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日大、田中理事長の独裁体制を継続…内田前監督に警察捜査か、「コーチ12人組」の責任問題

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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日大、田中理事長の独裁体制を継続…内田前監督に警察捜査か、「コーチ12人組」の責任問題の画像1日本大学の田中英寿理事長(写真:毎日新聞社/アフロ)

 5月27日、吹田市の万博記念公園近くのアメリカンフットボール専用競技場で行われた「関関戦」という伝統の関西学院大学vs.関西大学の定期戦を観戦した。日本大学選手による悪質タックルの被害者、関学の主力選手でQBの奥野耕世選手(19)は、当初リードされていた試合に途中から投入されると、的確なパスを決めていき逆転につなげた。終盤に関大に詰められたが、38ヤードのタッチダウンパスを鮮やかに決めて突き放すと、スタンドからは大きな拍手が湧いた。

 勝利に大きく貢献した姿に、関学の鳥内秀晃監督は「練習できていなかったのに上出来」と称賛し、奥野選手は反則タックルをしてきた日大の宮川泰介選手(20)について、「アメフトをする資格がないと言ってたけど、違うと思う。また戦いたい」と相手を慮った。

 観戦していた奥野選手の父、奥野康俊氏(大阪市会議員)は「言葉にならないくらい感動した。涙が込み上げた」とのコメントを出した。この日、関学アメフト部は「選手の名前は構わないが、写真や映像では顔を出さないで」とメディアに強く要請した。奥野選手や家族に卑劣な脅迫があったからだ。

日大、田中理事長の独裁体制を継続…内田前監督に警察捜査か、「コーチ12人組」の責任問題の画像2試合後、報道陣に答える関西学院大学の奥野耕世選手 5月27日 大阪府吹田市

宮川選手本人への聴取なしの回答書

 関学と奥野康俊氏は前日の26日、西宮市の大学内で会見した。会見場では記者の手荷物をチェックする物々しさ。奥野氏は宮川選手を除外しての被害届は警察に受理されないことを明かし、「被害届を出しながら、おかしいのですが」とし、宮川選手に重い罪を科さないよう嘆願書を準備していることを明かした。

「次の選挙には立候補せず、残りの人生をこの問題にかける」と語る奥野氏に筆者は、大学側との意見の相違はないかを問うと、「大学側は全面的に信頼できる」と語った。議員とはいえ、自分のことで父親が何度も表に出ることを息子が嫌がらないのかとも尋ねた。「(嫌がることは)ありましたが、未成年でもあり私が出させてもらっています」と答えた。実は早々に宮川選手は密かに奥野父子を訪れ、謝罪していた。「私たちの前で読み上げたメモは、後日の会見と同じだった。録音してもいいと言われ、信用できると思った」と奥野氏は振り返った。

日大、田中理事長の独裁体制を継続…内田前監督に警察捜査か、「コーチ12人組」の責任問題の画像3関西学院大学の鳥内秀晃監督

 この日、関学は、内田前監督らの指示を否定する内容の日大側の再回答書を配り、鳥内監督と小野ディレクターが会見し、回答を「信用性がない、不誠実」とし、定期戦の中止などを発表した。回答書で驚くのは、宮川選手への聞き取りをせず、彼の発言については「記者会見によると」としていることだ。すべて自分の組織内の人間の発言なのに“他人任せ”。初めに結論ありきだからだろうが、勇気を出して真相をすべて語った宮川選手には、怖くて接触できないのではないか。

 野球やサッカーと違い、アメリカンフットボール部がある高校は少ない。たとえば強豪の京都大学は学業優秀でなければ入学できず、大学から始めたような素人を鍛え上げる。一方、日大は、アメフト部を持つ付属高校から上がってきた選手が多い。12人もいるコーチたちは、自分の育てた選手を使ってもらうべく必死になる。井上氏も、なんとしても大事な試合で高校から育てた宮川選手を使ってほしかった。そのため内田前監督の意を「忖度」し、手段を選ばなかった。

日大、田中理事長の独裁体制を継続…内田前監督に警察捜査か、「コーチ12人組」の責任問題の画像4父親の奥野康俊さん

 5月29日、関東学生アメリカンフットボール連盟は詳細な調査の末、内田氏と井上氏を除名とする厳しい処分を発表した。宮川選手とチームには今季の出場を禁じた。調査では内田氏と井上氏の嘘が徹底的に暴かれたが、内田氏は反則タックルについて「みていない。落としたヘッドフォンを拾っていた」など、余計な嘘を重ね、映像検証ですべてばれて墓穴を掘った。

「火に油」の司会者

 宮川選手は5月22日に都内で「(タックルは)監督やコーチの指示」と詳細に会見した。翌23日、慌てて会見した内田氏と井上氏は「指示はしていない」などと否定していた。2つの会見内容は散々報じられているので省くが、毎日新聞の世論調査では、宮川選手を信用する人の割合が「99%」に達した。

 内田氏と井上氏の会見では、「同じ質問ですから」と早々に打ち切ろうとした司会者、企画広報部職員の態度が記者たちの怒りに火をつけた。テレビ局が自社のレポーターが質問している姿を映そうとするため、同じ質問が何度も繰り返されるのは確か。それに耐えられない共同通信記者OBの司会者は、「日大のブランドが落ちるのでは」という無用な質問に、無視すればいいものを「落ちません」と応え、火に油を注いだ。

依然、経営ナンバー1の田中理事長

 メディアが表に引きずり出そうとしているのが、田中英寿理事長だ。テレビ局は視聴率アップのため「出ないと世間は納得しない」とけしかける。田中氏は横綱輪島や小結舞の海を産んだ名門、日大相撲部OBで元学生横綱だ。しかし、24日発売の「週刊文春」(文藝春秋)の直撃取材を見る限り、粗野な印象の理事長や、プライドばかり高く忍耐力ゼロの司会者が会見すれば、「飛んで火に入る夏の虫」状態になるのは見え見えだ。

 内田氏はアメフト界から追われ、1日にはついに日大常務理事の辞任も発表された。しかし、田中理事長は依然として日大経営陣のナンバー1に君臨する。彼に人事を牛耳られる危機管理学部の教員たちは、田中氏にどう進言するのか、それともしないのか。

 さて、宮川選手があれだけ具体的、詳細に語れば、捜査機関も動かざるを得ない。グラウンドで内田氏や井上氏を立たせて現場検証させる可能性もある。前代未聞だが「アメリカンフットボールの安全性とかには無関係な傷害事件」(関学アメフト部小野ディレクター)なら不思議ではない。京大アメフト部OBの堀和幸弁護士(京都弁護士会)は「監督らを起訴しても(宮川)選手を起訴することはないでしょう」と見る。昨年、日大アメフト部ではおよそ20人が退部したが、コーチの暴力による脳震盪を練習中の打撲と偽っていたことも判明してきた。

たかが選手

 内田氏にとって宮川選手は「たかが選手」なのだ。見え透いた嘘を並べられるのは、選手が何を語ろうが上位にいる自分たちの説明が結局は通る、と信じているからだ。学内でも田中理事長に次ぐ「お殿様」だったに違いない。かつてプロ野球再編問題の際、読売新聞社主筆の渡辺恒雄氏が、選手会長だったヤクルトスワローズの古田敦也選手らに向けた「たかが選手」を想起する。地に落ちた日大のイメージをわずかに救っているのは、「たかが選手」の宮川選手だけである。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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