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水野誠「マーケティングの進化学」

都市と情報空間、なぜ似た者同士の「分居」が進むのか?

文=水野誠/明治大学商学部教授
都市と情報空間、なぜ似た者同士の「分居」が進むのか?の画像1「Gettyimages」より

 私が研究のため米ニューヨーク市に2年ほど滞在していたとき、住んでいたのはマンハッタンの「スパニッシュ・ハーレム」と呼ばれる地域でした。その名前の通り、中南米からの移民が多く住む地域であったわけです。本家の「ハーレム」はその北西に広がり、アフリカ系の住民が多く住む地域として非常に有名です。ニューヨーク市にはさまざまな人種・民族が住んでいますが、地域ごとに特定の人種・民族が固まる傾向が見られます。こうした「分居」と呼ばれる現象から、マーケティングにとってのヒントを探ってみたいと思います。

分居はなぜ起きるのか

 分居は異なる人種・民族の住民と一緒に住みたくないという気持ち(選好)から生じるのか、それとも所得格差の結果から生じたものなのか、全米の各都市についてデータを分析した研究があります。スペイン語話者でない白人とアフリカ系の2つのグループの地域別人口を比較し、人種別の所得格差が影響したのかを分析しましたが、それだけでは分居傾向は説明できませんでした。つまり所得以外の、人種・民族の差に根ざした要因が働いていると考えられます。

 こうした都市内の分居は米国以外にも存在します。なぜこのような現象が生じるのか、行政が命令したり誘導したりしたケースを除くと、その背景に、自分とは違う人種や民族と一緒に住みたくないという個々人の選好が潜んでいる可能性があります。人々が、自分の住む地域では過半数以上が自分と同じ人種・民族であってほしいと願うなら、分居が起きるのは当然のように思えます。しかし、人々がもっと遠慮深く、自分は少数派でもいい、ただし自分と同種の住民がある程度(たとえば30%以上)はいてほしいと願っただけでも、全体として分居が起きてしまうのです。

 そのことを簡単なシミュレーションで示したのが、ハーバード大学などで教鞭をとり、2005年にノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングです。1971年に発表されたシェリングの論文は、エージェントベース・モデリング:ABM(あるいはマルチエージェント・シミュレーション:MAS)と呼ばれる手法の先駆けといえます。この手法は社会学、社会心理学、政治学、経済学、経営学などで使われており、マーケティングも例外ではありません。

シェリングの分居モデル

 現象の本質を理解するには、より単純なモデルのほうが力を発揮することがあります。シェリングの分居モデルは、その典型例といってよいでしょう。そこでは、人々はオセロのゲーム盤のような格子状の世界に住んでいると考えます。マンハッタンや京都、札幌など、格子状に区画ができた街がありますが、それをさらに抽象化したものといえるでしょう。1つの区画には住民1人だけが住むことができます。各住民が接触するのは自分がいる区画の上下左右と斜め横の区画に住む最大8人だとします(図1)。

都市と情報空間、なぜ似た者同士の「分居」が進むのか?の画像2

水野誠/明治大学商学部教授

水野誠/明治大学商学部教授

明治大学商学部教授
、博士(経済学)東京大学。1980年筑波大学第一学群社会学類卒業。1985年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了。2000年東京大学大学院経済学研究科企業・市場専攻博士課程単位取得満期退学。株式会社博報堂(マーケティング局・研究開発局、1980~2003年)における勤務、筑波大学社会工学系専任講師、同大学大学院システム情報工学研究科専任講師、准教授(2003~2008年)、明治大学商学部准教授(2008~2014年)を経て現職

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