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梅原淳「たかが鉄道、されど鉄道」

新幹線、死者の多さは際立つ…駅での保安検査は実施可能、駅利用料徴収はやむなし

文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
新幹線、死者の多さは際立つ…駅での保安検査は実施可能、駅利用料徴収はやむなしの画像1N700系(「Wikipedia」より/JobanLineE531)

 新幹線にまつわる事件、トラブルが6月になって相次いで起きている。6月20日現在、4件が確認されており、本連載前回記事では、トラブルのあらまし、そして簡易な考察を述べた。本稿では、これらのうち、早急に対策が必要と考えられる8日に起きた殺傷事件、14日に起きた人身事故について、その対策の試案を説明したい。

 まず簡単に2つの事件のあらましを紹介する。

 9日、JR東海東海道新幹線新横浜-小田原間を走行中の「のぞみ265号」の車内で男が突然刃物を振り回し、隣に座っていた女性客に切りつけた。男はさらに通路をはさんで座っていた女性客にも切りつけ、止めに入った男性客に馬乗りしてなおも切りつける。この結果、男性客1人が死亡し、女性客2人が負傷する惨事となった。

 そして14日、JR西日本の山陽新幹線小倉-博多間で、博多駅を出発した東京行きの「のぞみ176号」が福岡県北九州市八幡西区を走行中、線路に立ち入った男性をはねてしまう。「のぞみ176号」は車両の先頭部を破損したまま走行し、最初に停車した小倉駅でも運転士や駅員は異変に気づかずにそのまま出発する。直後にすれ違った列車の運転士によって初めて異常事態が判明し、本来は通過駅である次の新下関駅に臨時停車して運転を打ち切った。なお、男性が線路に立ち入った動機は自殺のためであったという。

保安検査の導入に立ちはだかる障壁

 8日に起きた新幹線の車内での殺傷事件を防ぐ究極の方法は、列車に乗車する前に手荷物や身体をチェックする保安検査を行うことだ。今日の交通機関では保安検査は航空機に搭乗する前に実施されているし、そのほかの場面でも、ドーム球場やコンサート会場などに入場の際は手荷物検査が行われている。

 保安検査の導入に立ちはだかる障壁は数多い。まず挙げておきたいのは、フル規格の新幹線全体で1日当たりの利用者数が115万人余り(2015年度)と極めて多いという点だ。空港の場合、国内線の1日当たりの利用者数は約28万人と新幹線と比べて24パーセントにすぎない。いっぽうで駅は空港に比べれば狭く、保安検査場を設けるスペースは取りづらく、特に東京駅や新大阪駅といった巨大なターミナルで空港と同じような体制の保安検査が導入されれば混乱は必至だ。

 そのほかにも、手荷物検査で旅客が携えてはならないと見なされた荷物を、どのように扱うかという問題が生じる。荷物を駅で預かるのか、それとも車両に設けた荷物室に収納して輸送するのかというもので、後者を採用した場合は駅にはさらに広い空間が必要となるし、途中駅での停車時間は確実に延びてしまう。東海道新幹線の名古屋駅や京都駅での停車時間は現在のように1分や2分とはいかず、少なくとも10分は要するはずだ。

 旅客の心情としては、出発間際に駅に駆けつけても乗車可能という新幹線の利点が失われる点を嫌がる意見も根強い。航空機のような保安検査が存在しないから新幹線を利用するのだという旅客の要望に、鉄道会社はこたえなければならないという考え方も理解できる。

 しかしながら、筆者はやはり新幹線には駅での保安検査が必要と主張したい。今回の殺傷事件を含め、過去に新幹線の車内では4人が犯罪によって命を落としている。この数は決して少ない数ではない。新幹線では大地震による死者、それに列車脱線事故や列車衝突事故による死者は開業以来皆無であり、対策を施せば防止できることは証明されている。これらの事象に比べれば4人という死者の多さは際だつ。

 いうまでもなく、保安検査の導入にはさまざまな課題を解決しなくてはならないので、いますぐ航空機並みとするには非現実的であることは百も承知だ。そこで、段階的な導入を提案したい。

 いまでも東京駅などの巨大ターミナルでは改札口に警察官や警備担当者が立っている。こうした人たちの判断により、検査が必要だと認めた旅客に対してであるとか、さらには無作為に抽出した旅客に対して保安検査を行ってはいかがであろうか。

 手荷物検査の実施方法もできる限り効率化を図りたい。たとえば、自動改札機は動く歩道の途中に設け、携えた荷物はその隣に同じ速度のベルトコンベアに置いて保安装置をくぐらせる。検査の結果、客室に持ち込めないとなった荷物は荷物室で預かるのではなく、近くに設けた宅配業者の窓口で、旅行の目的地または自宅などへと送る手配を取るようにするとよいであろう。

 保安検査の導入によって鉄道会社には金銭面での負担が生じる。これは駅使用料という形で徴収すればよいであろう。金額は500円程度が目安と考える。

 何よりも求められるのは利用者の協力だ。安全のためには少々の負担もやむを得ないという理解が得られなければ導入など望むべくもない。

 手荷物検査の実施例として挙げたドーム球場やコンサート会場では、かつてはなんのチェックもなく入場できた。状況に変化が生じたのは1995(平成7)年に地下鉄サリン事件が起きてからだ。入場に時間がかかるといった反応も見られたが、安全第一という世論の後押しによってすっかり定着している。

新幹線の新たな「安全神話」の始まり

 線路内への立ち入りを防ぐ有効な手段として考えられるのはドローンだ。ある程度の高度から線路を監視し、線路に立ち入ろうとする人影を認識したら、即座に地上の総合指令所に連絡するという仕組みはすでに開発に着手されていると聞く。一日も早い実用化を望みたい。

 運転士が車内から確認できない車両の様子もドローンが解決してくれる。これに加えて、先頭車のなかで運転士の死角となっている部分をなくすために車載カメラの導入も検討されてよい。このあたりも何も筆者が初めて提案するような意見ではなく、すでに採用が検討されているはずだ。

 天災や犯罪から新幹線はなぜ守られなければならないか。それは超高速で走行しているために万一走行に支障が生じた場合、大事故につながりやすいからだ。また、列車は容易に停止できないので、被害が広がりやすく、恐怖はよりいっそう高まる。だからこそ、防がなくてはならないのだ。

 鉄道会社に責任のない事象の防止に積極的に取り組みたくない気持ちはわかる。だが、責任の所在を問わず、新幹線を利用して旅客が犠牲になったという事実は厳然として存在しているのだ。2018年6月が新幹線の新たな「安全神話」の始まりとなることを期待したい。
(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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