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江川紹子の「事件ウオッチ」第107回

【オウム真理教・7人同時死刑執行】賛否両論巻き起こる死刑制度について江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト

 高橋さんは、執行後の会見で、麻原への執行やメディアへの発表前に法務省から執行した者の氏名を伝えられたことを評価しつつ、次のように述べている。

「今後のテロ防止のために、もっと彼らにはいろいろなことを話してほしかった。専門家に、死刑囚にいろいろなことを聞いてほしかったので、それができなくなってしまったなという心残りがあります」

 被害者の面会や専門家によるアプローチができないのは、死刑囚の面会や手紙のやりとりが、家族、法務省が認めたごくわずかな友人や弁護士などに限られているためだ。唯一、例外的にアメリカの化学者で、サリン事件の捜査に協力したアンソニー・ツー氏が、中川智正死刑囚と面会を重ね、一緒に論文を発表するなどの交流をしていたくらいだ。アメリカの化学者に認められるのは、面会しても弊害がないからだろう。ならば、少なくとも日本の専門家に認められないのはおかしい。

 報道機関が死刑囚の現在の考えや裁判で言えなかったことを聞こうとしても、法務省に許された家族や弁護士を通じて、間接的に尋ねるしかない。

死刑の基準、死刑囚の待遇……さらなる議論を

 死刑囚によっては、裁判の時とは考えが変わった者もいるだろう。たとえばサリンの製造にかかわった土谷は、法廷で「尊師の直弟子」を自称し、途中で弁護人を解任し、証拠も無視したストーリーをでっち上げ、裁判所が選任した国選弁護人を法廷で罵倒しまくるなど、荒れに荒れた。その彼が、死刑廃止を訴える国会議員らが行ったアンケートで、被害者についての気持ちや死刑制度について問われ、丁寧な字でこう書いていた。

「御遺族・被害者達の《鎮魂》についても考えるのですが、それを考えると死刑制度に反対はできません」

 何が彼を変えたのだろうか。今の彼なら、オウムについて、麻原について、何を語るだろうか。

 そういうことを考えると、死刑囚の処遇についても、今のままでいいのか、これを機に議論する必要があるように思う。

 死刑廃止を主張する立場からは、麻原の執行に対しても批判的な意見が出された。

 日本弁護士連合会は、「死刑執行に強く抗議し、直ちに死刑執行を停止し、2020年までに死刑制度の廃止を目指すことを求める会長声明」を発し、市民団体「監獄人権センター」も抗議声明を出した。

 いつも不思議でならないのは、こうした団体は、なぜ死刑判決が出されたり確定した時ではなく、執行の時に抗議の声をあげるのだろうか。

 法に基づいた対応をするのが、行政の役割である。裁判所の判決が確定したのに、それを恩赦等の法律に定められた措置もないまま、行政が独自の判断を行い、裁判結果を執行しなければ、それはそれで問題だ。死刑に反対するのであれば、それを決する裁判所に対して抗議するのが筋ではないか。

 とりわけ日弁連は、法に携わる弁護士の団体であり、その辺りに違和感はないのだろうか。今回の執行には、弁護士に対する業務妨害事件である坂本弁護士一家殺害事件の首謀者と実行犯3人が含まれていたが、日弁連会長の声明には、一言の言及もなかった。これについても、釈然としない気持ちが残った。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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