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小谷寿美子「薬に殺されないために」

毛染め、繰り返し使用で健康被害・死亡例の報告も…腎不全、中枢神経に変化、脾臓肥大

文=小谷寿美子/薬剤師
毛染め、繰り返し使用で健康被害・死亡例の報告も…腎不全、中枢神経に変化、脾臓肥大の画像1「Gettyimages」より

 ドラッグストアの店頭では、たくさんの毛染めが販売されています。クリームタイプ、液状タイプ、櫛になっているもの、スプレー式など、みなさんの嗜好に合わせて多くの商品が販売されています。

 一口に毛染めといっても、大きく2つに分かれています。それが「ヘアカラー」と「ヘアマニキュア」です。ヘアカラーは髪の内部まで染料が留まり、シャンプーをしても数カ月は色が落ちないという特徴があります。一方、ヘアマニキュアは髪の表面に染料をコーティングするもので、1カ月程度で色落ちしやすいという性質があります。

 また、医薬品医療機器等法による区分では、ヘアカラーが医薬部外品、ヘアマニキュアは化粧品です。この違いは何にあるかというと、医薬部外品には指定された成分が入っているということにあります。それがヘアカラーの中心的成分である染料なのです。この染料の代表的成分がパラフェニレンジアミンです。これ以外にも似た構造の物質が染料に使われます。たとえば、パラアミノフェノール、トルエン-2,5-ジアミンです。この染料は単独では色がないのですが、過酸化水素と混ぜると色が出ます。この反応が髪の内部で起きると、色落ちしない染料として出来上がるのです。これらに替わる染料は現在ありません。今回は代表成分であるパラフェニレンジアミンについてさらに解説をします。

パラフェニレンジアミンは接触性皮膚炎の被害がある

 消費者庁データバンクには毎年200件程度の毛染めによる皮膚障害が報告されています。なお、2014年では219例がありました。

 接触性皮膚炎とは原因物質が皮膚と触れた場所に起こる皮膚症状のことをいいます。わかりやすくいうと、かぶれです。単なるかぶれですめばよいのですが、水疱ができたり、大きく皮膚がえぐれたりすることがあります。薬で有名なのは「モーラステープ」に代表されるケトプロフェン貼付剤です。貼っている場所が真っ赤に腫れあがります。

 接触性皮膚炎には大きく2種類あり、ひとつが物質が直接皮膚を刺激するもので、もうひとつがアレルゲンになってアレルギー反応を起こし、その結果皮膚を破壊するというものです。ヘアカラーの接触性皮膚炎にはこの両方が関係しているのですが、パラフェニレンジアミンはアレルゲンとして働きます。ヘアカラーには過酸化水素などほかの成分も配合されているので、それが直接皮膚を刺激します。過酸化水素を薄めた水がオキシドールで、細菌を破壊します。濃度を高くしていけば、細菌より大きな生物を破壊することが可能です。それ以外にも髪の毛を開き、染料を取り入れやすくする成分としてアンモニアが配合されています。アンモニアはアルカリ性で刺激性が強く、直接皮膚を破壊します。

 一方、パラフェニレンジアミンはアレルゲンとして働きます。はじめはなんともなくても、何度も何度も接触していると、これをアレルゲンと認識するようになります。ここまでは花粉症と同じ考え方です。花粉を浴び続けると、ある時点から発症するというものです。これを医学用語で「感作」といいます。「今までなんともなかったのに、どうして?」という経験をされた方は、感作までに時間がかかっただけなのです。

 花粉症と違うのは、原因物質と接触してから症状が出るまでの時間です。花粉症は感作が成立してしまえば、花粉を吸えばすぐくしゃみや鼻水が出ます。しかし、パラフェニレンジアミンによるアレルギーは2~3日後にあらわれます。毛染めをした数日後に皮膚症状が出ます。

GHS分類によると、肝臓、神経、腎臓にも障害が出ることがわかる

 GHS分類とは、化学品の分類および表示に関する世界調和システムのことです。化学品の危険有害性を世界的に統一された一定の基準に従って分類して、絵表示等を使ってわかりやすく表示しています。災害防止や人の健康と環境の保護に役立てています。区分1がもっとも危険とされ、数字が増えるごとに安全性が高まり、区分4が比較的安全なものとされます。

 パラフェニレンジアミンは皮膚感作において区分1Aとされています。その根拠もあげられています。モルモットのビューラー試験(動物に原因物質を注射したり塗ったりして反応をみる試験)で全例に陽性反応が見られたとのデータ(CERIハザードデータ集 2001-31<2002>;List 3)があり、この物質はEU分類でR43(皮膚感作性があるという意味)である(EC-JRC<ESIS><Access on July. 2011>)。さらに日本産業衛生学会で感作性物質「皮膚・1群」(産衛学会勧告<2010>)、ACGIH(アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)では「skin sens」(ACGIH-TLV<2011>)に分類されていることがあります。

 これによると、皮膚症状以外にも気になる症状について記載されています。それが発がん性です。GHS分類では「分類できない」とされています。動物実験では、発がん性について根拠は得られていません。ヒトにおいて毛染めを使っている方で発がん性があったという報告があるものの、その原因がパラフェニレンジアミンであるかという決定的な証拠は得られていません。

 しかし、繰り返しばく露を受けた人については区分1(肝臓、神経系、腎臓)です。心臓と筋肉については区分2です。その根拠について、パラフェニレンジアミンを含む毛染めを使用したヒトの症例として、以下の報告があったことがあげられています。

・肝腫大と脾臓肥大および進行性神経障害の発症(ACGIH<2001>)
・5年間にわたる職業ばく露では黄疸と肝臓の亜急性萎縮により死亡した例(ACGIH<2001>)
・消化器と神経症状が観察された例
・中枢神経系に病理学的変化が認められた例(DFGMAK-Doc.6<1994>)
・その他に慢性腎不全、尿毒症、腎臓の極小化、糸球体の硝子化(腎臓のフィルターがガラスのように固まってしまい機能しなくなる)を伴い死亡した症例(DFGMAK-Doc.6<1994>)
・乏尿、脈管炎、筋痛、腎臓肥大、糸球体腎炎を発症し死亡した症例(DFGMAK-Doc.6<1994>)

 何度も毛染めを繰り返す人や職業的に毛染めをしなくてはいけない美容師の方は、これらの症状にも注意が必要だといえます。
(文=小谷寿美子/薬剤師)

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

薬剤師。NRサプリメントアドバイザー。薬局界のセカンドオピニオン。明治薬科大学を505人いる学生のなか5位で卒業。薬剤師国家試験を240点中224点という高得点で合格した。
市販薬も調剤も取り扱う、地域密着型の薬局チェーンに入社。社歴は10年以上。
入社1年目にして、市販薬販売コンクールで1位。管理薬剤師として配属された店舗では半年で売り上げを2倍に上げた実績がある。

市販薬、調剤のみならずサプリメントにも詳しい。薬やサプリメントの効かない飲み方、あぶない自己判断に日々、心を痛め、正しい薬の飲み方、飲み合わせを啓蒙中。

Twitter:@kotanisumiko

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