優秀な人ほど要注意
では、どういう人が5月病や6月病になりやすいかといえば、真面目で優秀で、几帳面で完璧主義な人という共通点も指摘される。数年前に、いくつかの会社で、新人研修中の新入社員のストレス診断をしたことがある。その際に、すでに過ストレス状態にあり、うつの傾向を示していた社員の多くが、優秀な大学の大学院を出た人たちであったことが思い起こされる。
特に理工系の人に多く見られた。そうした人たちは、真面目さゆえ、「~すべき」「~しなければならない」と思い込みがちであり、優秀でプライドが高いゆえ、「自分ならうまくできるはず」という思いも強い。それで早期に思ったような結果が出なかったり、同期に先を越されたりでもすれば、「こんなはずじゃなかった」と途端に焦り始める。
実は、こうした点は当コラムの2回目でテーマとした「子ども社員」の特徴と重なる。ハーバード・ビジネス・スクール教授のロバート・S・キャプランは、誰でも大なり小なり完璧主義の部分を持っており、それが強迫観念になるときに問題となるとし、「強迫行動は多くの場合、優秀な人材の決定的な欠点になる」と指摘している。完璧主義者たちは、自分がやっていることが間違っていたり、ずれていたりするとはまったく思っていない。誠心誠意、職務に邁進していると思っている。多くの時間と労力を費やして、本人が納得のいく“作品”ができたとしても、それが正当に評価されなかったり、賞賛されないなど、自分の優秀さが認められない場合、不満を覚えたり、急に不安になったり、場合によっては他者に対して攻撃的になったりする。完璧主義者の場合、子ども社員へと向かう導火線を内在化しているともいえるのだ。
5月病や6月病の原因となる代表的なストレスは、「新たな環境へ適応できない」「円滑な人間関係が築けない」「思い描いていた理想と現実とのギャップ」などが挙げられる。「所属感」や「仲間意識」といった要素がとりわけ重要になってくるわけだが、昨今は成果主義や雇用形態の多様化、IT化などの影響で、職場の人間関係が希薄になっていることが背景にあると考えられる。5月病や6月病については、大手企業では多く耳にするが、中堅中小企業では問題になっているということをほとんど聞くことがない。たとえば、6月頃に顧客である中堅中小企業の現場に伺うと、新入社員たちはすっかり職場に馴染んでいる光景を目にすることが多いくらいだ。これはなんの違いかといえば、やはり職場の人間関係の違いであると考えられる。中堅中小企業では、大手企業に比べ、まだまだ職場の人間関係が濃密であり、新入社員が放置されるような状況が少ないのだ。