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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

実は世界でも休日が「多い」日本が、長時間労働を強いられている理由

文=篠崎靖男/指揮者
実は世界でも休日が「多い」日本が、長時間労働を強いられている理由の画像1「Getty Images」より

 夏真っ盛り。学校の夏休みが始まり、お盆休みも近づいてきました。決まった曜日だけ働くわけではない音楽家にとっては、正月休みやゴールデンウィークも含めて、夏休みという実感は少ないのですが、夏になるとどうしても浮足立つ気持ちは皆様と同じです。

 ちなみに、日本のオーケストラの楽員も労働基準法に守られ、労働組合にも所属しています。とはいえ、まったく一般企業と同じかといえば、そうはいかない時も少なくありません。オペラやバレエ公演が入ってしまうと、2週間以上休みなしということもよくありますし、その時期のオーケストラの活動状況によって、フレキシブルに対応しなくてはいけません。そういったことを楽員に理解してもらいながら、なんとか労働基準法から外れないように日程調整をするのが、事務局の大事な仕事でもあります。

 特に最近は、週末の昼間のコンサートが大人気です。一般のお客様も仕事がない週末の昼間にゆったりと演奏会を聴き、その後、スペイン・バルにでも行き、キンキンに冷えたスペインの辛口白ワインとタパス料理を2、3種類つまみながら、「今聴いたばかりのチャイコフスキーの交響曲に感動した」「モーツァルトを弾いた若い女性ソリストの衣装が素敵だった」などと、一緒に行った恋人や友人たちと語り合う人もいれば、早く帰宅して家族と一家だんらんを楽しむ人もいます。

 僕は、夜の演奏会のほうが好きなのですが、いくら良い演奏をしたところで、観客が来なければ、なんの意味もありません。クラシック音楽業界は観客第一です。お客さんには、やはり気軽に楽しんでいただきたいのです。ですから、音楽家は平日の夜や、休日の昼間のような時間に働くことになります。つまり、“サービス業”なのです。

 その一方で、ヨーロッパでは、土、日曜日の労働について、法律で厳しく禁じられている国も多くあります。それは、宗教、特にキリスト教の影響です。例えば、日曜日にドイツやイタリアなどに飛行機で着くと、お店はすべて閉まっており水ひとつ買えないので、ホテルの冷蔵庫の高い水を飲む羽目になります。そのため、大都市は別として、基本的に土日には演奏会はありません。しかし、日本はキリスト教国ではないので、音楽家の子供などは、土日に父親や母親と遊んだ記憶がないということも珍しくありません。今の時代でも、日本人音楽家は“働きバチ”です。

日本は世界でも休みが多い?

 そういえば、働きバチという言葉を、最近は聞くことが少なくなってきました。もちろん、日本人がよく働くことは今でも同じだと思います。会社の有給休暇も余ってしまっているという友人も多いですし、正月とお盆も1週間も休めるか休めないかです。

 その点、欧米では、昔からバカンスをしっかりと取ります。1カ月くらい休暇を取って、海辺の避暑地に、この1年間読みたかった本をたくさん持って行ったり、家族とスイス・アルプスをハイキングしたりします。うらやましいかぎりです。日本人は働きすぎですね。

 しかし、実際に日本の企業は休みが少ないのでしょうか。「こちらは、有給休暇を消化できないくらい働いているんだよ。指揮者に何がわかる」というご意見を、あえて無視して数字で考えてみましょう。

 日本の労働基準法では、会社に6年半以上勤務状況があれば、1年間に20日間の有給休暇が認められていることはご存じの通りです。新入社員でも、入社6カ月を超えれば、10日間もらえ、そのうえに祝祭日が加わるわけです。2018年の日本の祝祭日は振り替え休日を含めて20日あります。これは世界的に見て、実はかなり多いのです。ヨーロッパの祝祭日は、ドイツやスイスの9日間をはじめとして、長くてもイタリアやオーストリアの13日です。これは、前者のようなプロテスタントの国々に比べて、後者のカトリック国のほうが宗教的祝祭日は多いというのが理由です。その日は教会に行ったり、家族が集まって食事する事となりますので、単なる祝日となると、かなり少なくなります。つまりは、「子供の日」や「体育の日」といった休日はないのです。ちなみに、アメリカの祝祭日は11日です。

 そんななかで、イスラエルは26日と極めて多いのですが、実は独立記念の2日間以外は、まったくの宗教的祝祭日です。僕は一度イスラエルのエルサレムに滞在したことがあるのですが、特に大切な祝祭日にぶつかりました。その日は働くことだけでなく、行動すらも制限されている日でした。朝、ホテルのレストランに行ってみると、昨日までオムレツをその場で焼いてくれたり、ジュースを運んでくれたりしていたコックや従業員が誰もおらず、パンと冷たくなったハムやジュースなどが並べてあるだけでした。部屋に戻ってテレビをつけても、全局いずれもユダヤ教のシンボルの角笛が映っているだけです。つまりはテレビ局も働いてはいけないのです。旅行なんかはとんでもないことで、そもそも自動車も運転できません。大幹線道路では、ユダヤ教を信仰しないイスラム教徒が運転する自動車が数台走っているだけです。お金も使ってはいけないし、料理もつくらないので、みんな家の中で冷たいハムとパンをかじるのです。これでは休みの日にはカウントできません。敬虔な信者ともなると、祝祭日にはエレベーターのボタンを押すことすらしないので、各階に止まる自動運転となります。

 さて、日本人の我々には、有給休暇と祝祭日等を合わせて年間40日の休みが与えられていますし、それに土日を加えると、実は世界でも休みが多い国だといわれているんです。一カ月間連続休暇を取るのは無理としても、日本政府によって、祝祭日をずらした3連休も多くつくられています。2018年などは、春分の日以外の祝日は、すべて3連休になっています。僕は、20年間の海外生活から日本に帰国した際、連休の多さに驚きました。

 とはいえ、それは悪いことではありません。日本人も人生を楽しむべきです。そして、そんな休みの日も、我々音楽家は素晴らしい演奏を準備してお待ちしております。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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