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なぜ乾貴士は才能を開花させることができたのか…恩師「乾は天才ではない」

文=安藤隆人/サッカージャーナリスト
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「これまで野洲高校は17人のプロ選手を輩出しているけれど、多くのOB選手たちは野洲に練習に来るときにかっこいいクルマと、おしゃれな服装でやって来て、『山本先生こんにちは』と挨拶をしてから、後輩選手たちを集めてひと言挨拶をして、『じゃあ、また顔を出します』と言って帰って行きます。基本的に『挨拶に来てくれる』という感じなのですが、乾は違うんです。もちろん、挨拶に来てくれるだけでも素晴らしいことなのですが、乾ほどの選手が野洲に来て、練習着に着替えて、後輩たちと一緒に練習をしてくれるというのは、とても大きな影響があります。それも、本気で練習に取り組んでくれるんです。一流選手が全力で取り組んでくれるんだから、現役選手もびっくりするし、大きな刺激を与えてくれます。それは本当に乾の素晴らしいところです」(同)

 乾にとって、これは自分を育ててくれた野洲への恩返しの側面もあるかもしれない。だが、練習参加後の行動こそが乾の“サッカー小僧”たる所以だ。彼は全体練習が終わっても野洲のグラウンドから引き上げなかった。そこから自主トレが始まるのだ。

「グラウンドに残って、シュート練習をしたり、ドリブル練習をしたり。延々とボールを蹴り続けているんです。1人のときはリフティングをして、そこから10メートルくらいボールを高く蹴り上げてから落下地点に素早く走り込んで、落ちて来たボールをワンタッチコントロールして、そのままトップスピードでシュートを打つ。今、野洲でコーチをしてくれている同級生がいるときは、彼にボール出しをさせて、ひたすらトラップからのシュート練習をしている。誰に言われるでもなく、自分から行動を起こして黙々と続けるんです。その姿を見たら、『乾は天才』という言葉で片付けてはいけない、と改めて思うんです。もし『乾=天才』と結びつけたいのであれば、『天才』の意味は、ただ技術が優れているとかではなくて、やっぱりサッカーに対する飽くなき探究心、とことん楽しもうとする気持ちを持っていることも含まれると思います」(同)

 山本氏の目には、どれだけ有名になっても、歳を重ねて行っても、高校入学時と変わらない乾の姿が映っていた。だからこそ、スペインリーグやFIFAワールドカップW杯)・ロシア大会でも、浮き球のボールや難しいパスをいとも簡単に正確にコントロールし、そこから自分のイメージするプレーへとつなげていた。

「ロングパスをピタッと足元に止めてからドリブルカットインしてシュートを決めるのは、完全に積み重ねて来た通りのパターン。(W杯決勝トーナメント1回戦の)ベルギー戦でも、浮き球のボールをワンタッチで意のままにコントロールしていましたが、私からしたら自主トレで彼が描き続けたイメージそのものなので、なんの驚きもないですね」(同)

 今、乾は激闘を終えて帰国し、古巣のセレッソ大阪の練習に参加して汗を流している。多くのワールドカップ戦士が思い思いのオフを過ごしているなかで、彼はやはりボールを蹴らずにはいられなかった。そして近々、野洲高校にも顔を出すという。

「あの歳になっても、目を輝かせながら『先生、俺、メッシみたいになりたいんです』と言えるんです。どのプロ選手も、20代後半になったらセカンドキャリアとかを考えるようになるなかで、乾が考えていることは、ただ純粋に『もっとうまくなりたい』という一事です。これからもっと成長して夢を叶えていきたいという、強く純粋な想いがある。それが乾の才能だと思っています」(同)

 W杯前に野洲高校に来た時は、こう口にしたという。

「メッシとかはホンマにうまい。バルセロナなんかと試合をしたら、ホンマに『まだまだ練習せなあかん』と思わされる」

 W杯で世界的なインパクトを与えた乾は、どんな表情で山本氏の前に現れるだろうか。
(文=安藤隆人/サッカージャーナリスト)

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